「シルバーアクセ」ブーム消滅で窮地に立った「アメ横」が生き残りをかけて選んだ2つの道

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「シルバーアクセ」ブーム消滅で窮地に立った「アメ横」が生き残りをかけて選んだ2つの道

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五十嵐泰正

筑波大学大学院准教授

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年末の買い出し風景でおなじみの上野のアメ横。そんなアメ横の歴史と今後の展望について、筑波大学大学院准教授の五十嵐泰正さんが解説します。

21世紀のアメ横の変化

 上野のアメヤ横丁(以下、アメ横)はこの約20年間、曲がり角に差し掛かっていました。

 1990年代に、若者向けファッションの店が急増。しかしアメ横の店舗が一斉に店頭に並べた最後の売れ筋商品は、SMAP(当時)の木村拓哉らがトレンドリーダーとなって巻き起こしたシルバーアクセサリーの高級ブランド「クロムハーツ」ブームで、2000(平成12)年頃までのことでした。

 それ以降、「これを置けば売れる」というキラーコンテンツがなくなり、同時にデフレ下での価格破壊が行われたため、アメ横商法の根幹をなす「安売り」「たたき売り」というひとつの方法論は無意味になりました。

表通りとは一転して静かなガード下には専門店が並ぶアメ横(画像:五十嵐泰正)



 そうした時代に、アメ横のお店は大きくふたつの方向への変化を模索しています。ひとつは、バーチャル店舗化です。

 狭い間取りに所狭しとニッチな品ぞろえを充実させたり、最高級品に特化したりした店舗は、実はロングテール(多品種少量販売)なマーケットを得意とするネット通販と好相性でした。

・ステージ衣装などを扱う衣料品店
・高級志向の化粧品店
・品ぞろえ豊富な乾物店

などは、試着や試用のニーズに対応。ネット検索のSEO(検索エンジン最適化)対策においてもアメ横のブランド力を使って、実店舗をショーケースとして残し、売り上げの中心をEコマースに移行させる店舗が出てきたのです。

 もうひとつは、「買い物の街」から「観光の街」への移行です。21世紀に入ってから物販店は売り上げが伸び悩んで厳しい時代が続いていますが、アメ横の人通り自体はインバウンド(訪日外国人)ブームも追い風となり、近年確実に増えています。

立ち飲みや食べ歩きが人気に

 私(五十嵐泰正。筑波大学大学院准教授)が2012年に大学のゼミで行った調査によれば、アメ横に数回しか訪れたことのない層は「雰囲気を味わいに」という目的が多く、頻繁に訪れる層は「欲しいものが安い」という「アメ横商法」に照準した目的が多く、対照的でした。

「雰囲気を味わいに」という客の「コト消費」(体験や思い出などに価値を見いだす消費)需要をつかむ業態は、やはり立ち飲みや食べ歩きです。

 アメ横の雑踏と騒がしさをつまみに飲み食いする経験は、他には代えがたい魅力として国内外の観光客に受けました。その結果、例えば単に魚を売るだけでなく、店先で飲食できる店舗が人気を集めるようになりました。

 また、ドネルケバブや中華風串焼き、丸焼きなどのファストフード屋台は、外国人店主が先駆けてきた領域です。

2000年代から目立つようになった外国人経営の屋台(画像:五十嵐泰正)



 これは、物件の家賃が高止まりしているアメ横にリスクを負って出店し、貪欲に稼ごうとする人たちの中に外国人が目立つということを意味しており、「買い物の街」から「観光の街」に移行してきたトレンドを確実にとらえて、「売れるモノを売ってきた」ヤミ市以来の伝統を近年最も体現している存在と言えるでしょう。

パンデミック後のアメ横の行方

 しかし前回の記事「緊急事態宣言下のアメ横商店街がこぞってマスクを売りまくった歴史的背景」で書いたとおり、緊急事態宣言下でたくましくマスクや消毒液を売ってきたアメ横の商店ですが、もちろんコロナ禍で相当な苦境に陥っています。

 近年のアメ横を取り巻く環境変化の中で、バーチャル店舗を主力としていった店はともかく、観光需要に支えられていた屋台や立ち飲み屋は、非常に厳しい状況にあります。インバウンドは街から文字通り「蒸発」し、回復のめどは全くたっていません。

 政府はビジネスや留学、そして観光などの短期滞在と、出入国を段階的に緩和する方針を示していますが、観光客が法的に入国できるようになっても、世界中の潜在的な観光客のマインドが回復するには相当時間がかかりそうです。

「アメ横らしさ」がかえってリスクに?

 また、国内・近隣客の回復もいまだ不透明です。再度の感染者数増大を受けて、都は6月2日(火)に「東京アラート」を発令しました(同月11日解除)。

 休業要請等が厳しくなることはない注意喚起ながら、画期的な新薬やワクチンが開発されるまで、長期間にわたって緩めたり引き締めたりという時期が続く可能性は高いでしょう。

 現在、アメ横らしさを形成してきた雑踏の雰囲気や威勢よく声を張り上げての対面販売は、裏返しにリスクと捉えられるのではないでしょうか。

 この街の魅力であるそうした要素こそを強く避ける客層は、パンデミック(世界的大流行)が終息してからも中長期的に、一定数アメ横を離れることになるかもしれません。

パンデミック以前の魚草には外国人客もあふれていた(画像:五十嵐泰正)



 そんな中、アメ横の立ち飲み屋でも屈指の人気店「魚草」(台東区上野6)は、東京ロードマップで「ステップ2」となった6月1日より、時間短縮および収容客数を半分にして営業を再開しました。これまでの「密」に集まることによって面白さを出していくやり方を見直し、客を長時間店に滞留させるのではなく、回遊・はしごのきっかけとなる店をめざすとのこと。

 開店後数日を経た同店の大橋店長は、自粛期間中に開業したオンラインショップも継続しつつ、店を開くことの意義について、

「オンラインショップを始めた事で、あらためて考えたのは実店舗を続ける意義です。店は街とともにあります。『路上立ち飲み』というスタイルは言い換えれば、「街そのもの」をさかなに酒を飲むということです。料理や酒の仕入れを充実させるのと同じように、街の魅力を引き出す努力を惜しまないことが大事。もう1品頼んでもらうより、次に行くべきお店を紹介する。街を楽しむ術を伝えられれば、やがてそれはお店に返ってきます」
と語っていました。

アメ横の雑踏と騒がしさはどうなるのか

 アメ横の立ち飲み屋や屋台は、「密集・密接」のイメージは確かに強いものの、少なくとも「密閉」ではありません。

 折しも国土交通省は6月5日(金)、感染症対策として、11月までの期間限定で道路占用許可基準を緩和し、飲食店が店先の歩道などを活用できるようになる措置(しかも店先を掃除すれば、道路占用料は全額免除)を発表しました。

 オープンエア化を推進する国のこの方針は、アメ横にとっても確実に追い風です。「収容客数が減ったぶん、街を客席と見立ててオープンエアである良さをより意識した営業をしていきたい」と大橋さんは意気込んでいます。

この雑踏の雰囲気こそが街の魅力だったが……(画像:五十嵐泰正)



 アメ横は今後、どのようにして「新しい生活様式」に対応し、また感染症リスクをできる限り避けながらも、雑踏と騒がしさの魅力を保っていくのでしょうか――。

 もしくは、変わり身の早いアメ横らしくその雰囲気さえ変えて、「ウィズコロナ時代に売れるモノ」を一先に見つけるのか。皆さんも、オープンエアで換気がばっちりなアメ横に、ぜひ確かめに行ってみてください。

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