TOEIC600点が進級条件 さかなクンが客員准教授の「東京海洋大」とはどのような大学なのか

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TOEIC600点が進級条件 さかなクンが客員准教授の「東京海洋大」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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その専門性の高さゆえ一般的な知名度は低いものの、優れた業績を誇る大学は数多く存在しています。今回フォーカスするのは、国立大学の東京海洋大学。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

起源は明治期

 魚類学者でタレントのさかなクンが名誉博士の称号を授与され、客員准教授の肩書を持つ東京海洋大学(港区港南)は2003(平成15)年10月、東京商船大学と東京水産大学が統合されてできた国立大学です。

東京海洋大学 品川キャンパスの外観(画像:(C)Google)



 両校の歴史は、それぞれ明治期にまでさかのぼることができます。

 旧東京商船大学は日本人の船員養成を国家的プロジェクトと考えた明治政府が三菱に商船学校設立を命じ、1875(明治8)年に設立したのが起源となっています。一方、旧東京水産大学は1888(明治21)年に設置された大日本水産会伝習所から歴史が始まり、ともに10年以内に国に移管されました。

 近代国家へ歩み始めた時期の教育機関を起源とする東京海洋大学は、現在3学部(海洋生命科学部、海洋工学部、海洋資源環境学部)8学科を有しています。募集定員は435人と少ないものの、志願者は毎年2000人を超すなど狭き門です。

 キャンパスは品川キャンパス(同)と越中島キャンパス(江東区越中島)のふたつがあるものの、その専門性の高さゆえに一般的な知名度はさほど高くない東京海洋大学。同大は、いったいどのような大学なのでしょうか。

女子学生の割合が意外と高い

 東京海洋大学はその名の通り、海洋に特化している大学のため、男子学生の数が圧倒的に多いと想像されますが、実は女子学生の割合が意外と高いのです。2019年度の学部生のうち31.5%が女子学生で、特に海洋生命科学部の食品生産科学科は約69%が女子学生です。

東京海洋大学 越中島キャンパスの外観(画像:(C)Google)



 一方、女性教員はどうなのでしょうか。

 東京海洋大学は男女共同参画推進室を設置し、次世代育成支援対策推進法を基に大学独自の行動計画を掲げています。約3年ごとに計画を策定し、2020年度からは第5期に入りました。女性教員や研究員が子育てと仕事の両立が取れるよう女性研究者支援機構「海なみ」を立ち上げています。

 教員の男女別のデータが残る2010年度の女性教員の割合は11%でしたが、2019年度は14%と徐々に上昇しています。他の大学と比べても専門性の高い学部学科が多い東京海洋大学ですが、地道な取り組みによって今後も女子学生や女性教員が増えていくと考えられます。

大学院進学組も多い

 学部学科によって数値は異なりますが、東京海洋大学は就職率や大学院進学組が多いことも特徴のひとつです。

 2018年度の卒業生をみると、就職希望者の就職率は97.6%と高くなっています。

 具体的な就職先は、商船大学系を引き継ぐ海洋工学部で出光タンカー(千代田区神田神保町)や海上保安庁(千代田区霞が関)など、船舶運行に深く関わる企業や省庁が目立ちます。水産大学系の学部では食品大手や水産加工などが多く、学部によって就職先が明確に分かれているのも興味深いです。

2018年度卒業・修了者の進路状況(画像:東京海洋大学)

 進学に目を向けると、海洋生命科学部の海洋生物資源学科の大学院進学率は69%と研究を続ける学生が多いことがわかります。海洋資源環境学部でも進学率は50%を超えており、自分の専門分野をさらに学ぼうとする学生の割合が極めて高いといえるでしょう。

 就職と進学率の高さは、単に専門性が高い学部という理由だけでは片づけられません。実は、東京海洋大学は国立大学では珍しく、TOEICの目標点を超えないと進級できないシステムを採用しているのです。

なまり英語を理解することも求められる

 海洋系の学問は、英語を中心としたグローバル教育が欠かせません。

 船舶運航業務は、諸外国の船員とのコミュニケーションに英語は必須です。また水産系業務も海外の文献を読んだり、外国の養殖研修に行ったりする際に英語ができなければ深く学ぶことはできません。

東京海洋大学のウェブサイト(画像:東京海洋大学)



 海洋工学部は実習の際、外国人船員とコミュニケーションを取るなど実践的な場で英語取得を目指しています。母国語が英語ではない船員も多いため、「海事英語イニシアテイブ」を開設し、なまり英語の理解を大切にしています。

TOEIC600点クリアの壁

 東京海洋大学の3学部のうち、海洋生命科学部と海洋資源環境部は4年次進級時に国際コミュニケーション英語能力テスト(TOEIC)600点をクリアしていることを条件としています。

 全学生がクリアできるよう大学側もサポート体制を敷いており、1年次から「TOEIC入門」を必修科目にしています。その他にも、学生を点数ごとに分けて集中講座を実施してます。

 また、2013年度からは品川キャンパス内には「グローバルコモン」と呼ばれる英語学習に適したスペースを設置。予約制ですが英語学習アドバイザーが常駐しており、万全の体制で学生のTOEIC600点クリアをサポートしています。

TOEIC600点進級要件達成のためのロードマップ(画像:東京海洋大学)

「進級できるかどうか」というハードな条件を突き付けることで、学生が本気で英語を向き合えるための大学側の意図がみえてきます。

専門性が高く人材を欲しがる業界が減ることはないか

 東京海洋大学は総合大学ではないため、一般的な知名度は低く「さかなクンに名誉博士号を授与した大学」として見られがちです。

タレントで、東京海洋大学客員准教授のさかなクン(画像:MOTTAINAIキャンペーン)



 しかしなが狭き門をくぐり抜けた少数精鋭で、実践的かつ現在ニーズに合った学問に励む環境を学生に提供しており、就職の際にも有利に働いています。

 高い英語力と専門性は今後の就職氷河期がささやかれ始めた中でも、威力を発揮することは間違いありません。

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