新型コロナが教育現場に与えた衝撃 教育機会の平等は今後保てるのか?

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新型コロナが教育現場に与えた衝撃 教育機会の平等は今後保てるのか?

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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新型コロナ禍で大きく変わった教育の形。対面型からオンライン型への移行など、課題はさまざまです。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

誰もが予想できない事態が起きた

 教育現場ではいくつかの感染症の対策がすでに存在しており、学校保健安全法で罹患(りかん)者は一定期間、出席停止になることが定められています。通常はインフルエンザやノロウイルスといった既存の感染症が前提とされています。

オンライン教育を受ける子どものイメージ(画像:写真AC)



 今回の新型コロナウイルスの衝撃は、2009(平成21)年にパンデミック(世界的大流行)となった新型インフルエンザ以来のことでした。当時、大阪府や兵庫県は1週間の休校措置を取りました。

 それを踏まえると全国規模で3か月にわたる今回の休校措置は、国民誰もが経験したことのない事態と言って過言はないでしょう。

 また休校措置は教育現場に対し同時多発的に混乱を起こしたため、学校教育は大きな転換点に直面しています。教育現場では、これから何が必要とされ、何が求められるのでしょうか。

生活の乱れやストレスを抱える子どもたち

 国立成育医療研究センター(世田谷区大蔵)は2020年5月22日(金)、小学生から高校生とその保護者を対象にしたアンケート集計の中間報告「こどもたちの生活とこころの様子」を発表しました。

「こどもたちの生活とこころの様子」の一部(画像:国立成育医療研究センター)

 アンケートでは、ほとんどの年齢層が就寝時間や起床時間について「学校があるときと変わった」と答えました。そのことからも、これらの時間を元の状態に戻すためには家庭でのサポートが必要であることがわかります。

 また小学1年生から3年生の低学年で、家庭内でどなられる回数やコロナのことを考えて嫌な気持ちになる割合も高まっています。

子どもの心のケアはますます重要に

 学校が再開し、表面上は元気な子どもたちですが、その中にはストレスを抱えたままの子どもが一定数います。特に低学年の子どもは自分の心の変化に気がつかないこともあり、周囲の目を気にし、わざと元気に装いがちです。

ストレスを抱えた子どものイメージ(画像:写真AC)



 そうした子どもを見つけることは難しく、両親でも気がつかないケースも。しかし、放置したままだと、気がついたときには回復に時間がかかるため、いち早い発見が求められます。家庭はもちろんのこと、行政と学校の力もますます必要となるのです。

 大きな自然災害を経験した子どもは精神状態が不安定になり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するなど、さまざまな研究結果が発表されています。これまでにも、行政やNPOなどのさまざまな団体が、心に傷を持つ子どもたちの支援を行ってきました。

 今回の新型コロナウイルスはこうした自然災害と異なるため、子どもたちは普段通りの生活が送れず、もどかしさを感じています。

 年齢が低ければ低いほど、「大変な事態だが街並みは変わらない」という現状を理解するのは難しいのです。

恐怖をどう取り除くか

 内閣府はコロナ禍を発端とした家庭内暴力の増加を危惧し、ドメスティックバイオレンス(DV)相談を強化する体制を敷きました。

 文部科学省の「学校再開等に関するQ&A」においても、心のケアに関する質問は3月下旬時点でわずか2問でしたが、4月下旬以降に更新された内容では「生徒児童が感染症の恐怖を抱いていることへの対応」など、より具体的なものにグレードアップしています。

文部科学省の「学校再開等に関するQ&A」(画像:文部科学省)



 休校が長引いたことで、国や教育現場は子どもの精神面に問題が生じることについて、避けられないと捉えているのです。前述の「学校再開等に関するQ&A」の回答では、教師や養護教諭が生徒を観察し、スクールカウンセラーや「24時間子供SOSダイヤル」などの積極的な利用や周知の徹底を促しています。

 今まで、よほどのことがない限り門をたたくことのなかった学校のスクールカウンセラーも、コロナ禍を機に敷居が低くなり、利用回数も増えてくるでしょう。

小学生向け生活・学習支援番組を始めたTOKYO MX

 新型コロナウイルス感染拡大で、教育現場ではオンライン授業が一気に進みました。東京都は子どもたちの生活リズムを維持し、学習意欲を持ってもらえるよう、通常の学校の始業と終業と同じ時間帯にテレビ局・TOKYO MXを使って、「TOKYOおはようスクール」を放送しています。

TOKYO MXの「TOKYOおはようスクール」(画像:文部科学省)

 23区内の公立小学校でもオンライン動画で勉強したり、ZOOMを利用したホームルームを行ったりするなど、ICT機器を積極的に活用する動きが見られています。

オンライン授業より対面型

 しかし、こうした機器を使った授業は家庭事情に左右され、「皆が平等に教育機会を得る」という屋台骨が揺らぐケースも発生しています。

 文明の利器は緊急事態で力を発揮しましたが、やはり人間形成をしていく過程で、人と人とのつながりや触れ合いに勝るものはありません。

対面型授業のイメージ(画像:写真AC)



 特に、ひとりで勉強することが難しい子どもや低学年の子どもは、教師のきめ細やかな対応が必要です。オンラインは確かに便利ですが、対面型を全てカバーすることは難しいのです。

同時多発的に改革が進んだ教育現場

 ただ、オンライン授業は市民権を得たこともあり、今後は復習や自習のプラットホームとして利用されつつ、緊急時は対面型授業の代役になるよう開発は進んでいくでしょう。

オンライン教育を受ける子どものイメージ(画像:写真AC)

 文部科学省は5月22日(金)、「学校の新しい生活様式」として、これまでとは異なる学校生活を提案しました。新型コロナウイルスは文部科学省、そして教育現場の改革を同時多発的に起こしたのです。

 6月からは多くの学校で、再開に向けた動きが本格化します。今までとは異なる新たな学校生活へなじむことに時間はかかりますが、教育現場が尽力し、子どもたちが元気に通学できることを願っています。

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