活況か沈滞か コロナ収束で「レジャー施設」の今後はどうなる?

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活況か沈滞か コロナ収束で「レジャー施設」の今後はどうなる?

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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緊急事態宣言が5月25日、全国で解除され、「新たな日常」の始まりがやってきました。宣言下ではさまざまなカルチャーが生まれましたが、今後はいったいどのようになるのでしょうか。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

少しずつ回復する日常

 社会が深刻な危機に際したとき、生活者は行動変容を余儀なくされ、社会構造が大きく変化します。まさに、現在の新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の状況がそうだと言えるでしょう。

レジャー施設のイメージ(画像:写真AC)



 この社会構造の変化は、レジャーやエンターテインメントなど時間消費業態にも大きな影響を与えています。いまだ感染拡大の危機は過ぎ去っていませんが、緊急事態宣言が解除されて少しずつですが日常が回復しつつあり、これを機にアフターコロナの新たな社会構造の分析が活発化しています。

 過去にも、さまざまな危機による社会構造の変化が見られました。近年の大きな社会的危機としては、2011年の東日本大震災が挙げられるでしょう。これをきっかけとして現在の社会の流れが形作られた点が多々あります。

体験型レジャーの台頭

 例えば、SNSによる人と人のつながりです。

SNSを利用する女性のイメージ(画像:写真AC)

 ボランティアや消費により社会問題にコミットする、「エシカル消費」も拡大しました。その延長線上で、所属する企業の意思で社会に関わるのではなく、個人や新しい組織で自分の意思や志向をダイレクトに社会に発信していく人が増えてきています。

 レジャー分野においては、SNSの普及を背景にソーシャルゲームやスマホアプリなどネットをベースにしたレジャー、消費者が主導するサブカルチャー、さらにリアル脱出ゲーム・リアル謎解きゲームなど、新しい組織の新しい発想から生まれた体験型レジャーが台頭するようになります。

 既存レジャー施設においてはそのようなレジャーに市場を奪われ、若者の需要をつかめない時期が続きました。また原発事故により食の安全や農業に対する関心が高まり、ファームパークや体験農園など農業関連施設の需要が高まりました。

旅行代理店は誘客キャンペーンを実施

 アフターコロナにはどのような社会構造が予測され、レジャー・エンターテインメントなど時間消費業態はどう変化するでしょうか。

 まず短期的には、外出を伴うレジャー施設や観光施設は外出自粛の反動で人手が増えると考えられます。

旅行する女性のイメージ(画像:写真AC)



 現在は、まだ感染予防の観点から率先して利用者を呼び込むことはできませんが、本格的なコロナ収束後は、国や自治体も旅行代金の一部を負担するなど観光振興に多額の予算を投入予定で、さらに旅行代理店やJRなどの大手交通事業者も大々的な誘客キャンペーンを実施することが予想されます。

 レジャー施設や観光地もそれに連動し、お得感のあるキャンペーンを実施するでしょう。消費者にとってはレジャーに狙い目の時期と言え、やはり今は外出を自粛して予算を温存しておくことが懸命です。

 インバウンド(訪日外国人)の回復はある程度時間がかかりますが、2021年、予定通りにオリンピックが開催されれば、レジャー・観光産業にとって大きな特需となることは間違いありません。

 しかし、今回の件で経済的打撃を受けた家庭も多く、国内需要の盛り上がりは長続きするとは限りません。中長期的には新たなニーズをつかむための経営戦略が求められます。

物理的な距離を超える社会へ

 アフターコロナに訪れる社会構造と言われているのが、リモートワークの普及と、本格的なオンライン社会の到来です。

 今回の件で、レジャー・エンターテインメント分野においてもオンライン化が進展しました。動画配信サービスの急成長は周知のことでしょう。

 この機にYouTubeやInstagramに参入したタレントやアーティストは多く、反響も大きかったことから、ネットでの活動はより活発化していくと言えます。

 また、オンラインフィットネスやオンラインヨガ、趣味のオンラインスクールなどもひとつの選択肢として定着していく可能性があります。ウェブ会議ツールを使ったオンライン飲み会のような新たな形態が生まれました。

4月に行われた芸能人を交えたオンライン飲み会(画像:ULM編集部)

 そのほかにもオンラインでタレントと一緒に食事したりと、物理的な距離や精神的な距離を超えてつながるネットの新しい可能性が開拓され、今後のさまざまな展開が期待されます。

精神安定施設のニーズ増

 リモートワークに関してはコワーキングスペースの開発が今までも各地で見られましたが、今後もニーズの拡大から開発の増加が予想されます。

コワーキングスペースのイメージ(画像:写真AC)



 今回の件で通常営業ができず、やむを得ず導入した施設もありましたが、カラオケや個室のある飲食施設、ホテル・旅館などの宿泊施設、スーパー銭湯などの温浴施設でそれぞれの本業の強みを生かしたサービスとして導入が検討される可能性があります。

 温浴施設では仕事の合間にリフレッシュしたり、旅館では文豪気分で缶詰になったりできるプランも見られ、その施設ならではのいろいろなアプローチが期待できるでしょう。

 また、リモートワークは運動不足を解消するためのフィットネスだけでなく、モチベーションコントロールやストレス解消も重要になってくるため、メディテーションなどのマインドフルネス系施設やヨガ、サウナと言った精神的な安定が得られる施設のニーズが高まると考えられます。特にメディテーション系プログラムの導入が進展すると考えられます。

ライトな外出ブームが来る

 家でのライフスタイルが充実していく中、外出を伴うレジャーに関しては高い目的性が必要となってくることは否めません。

 レジャー施設においては今までネットとの差別化を念頭に、体験要素などネットにない付加価値を見いだすことに努力してきました。しかし、今後はむしろ所有する資源をオンラインで活用することを積極的に検討すべきと言えるでしょう。今回も「休園中の動物園水族館」、「おうち遊園地」、「エア博物館」、「エア植物園」などの動画は高い反響がありました。

 一方で、外出を伴うレジャーのニーズがなくなるという訳ではありません。

ライトなアウトドアのイメージ(画像:写真AC)

 リモートワークは平日の生活圏が狭められるため、休日や長期休暇には非日常的な体験のニーズが高まると考えられます。非日常体験と言っても、従来のアトラクション的なものではなく、誰でも手軽に自然が満喫できるグランピングなどのライトなアウトドア、イマーシブシアター(没入型演劇)やホラーイベントといった空間没入感のある参加・体験型レジャーのニーズが高まり、これらの実施が増加すると考えられます。

変化する個人と事業者の関係

 またレジャー施設はリスクヘッジの観点からも、ネット上で利用者とよりコミュニケーションをとるようになるでしょう。東日本大震災の際はSNSにおいて個人と個人がつながりましたが、今回は個人と事業者のつながりが拡大したことが注目されます。

 レジャー施設からはさまざまな園内動画が外出自粛している人に向けて発信されました。一方、クラウドファンディングや救済プロジェクトで個人が事業者を支援する状況が見られました。施設と利用者の対話が促進されることによって、さまざまな問題解決が期待されます。

クラウドファンディングのイメージ(画像:写真AC)



 コロナ収束後はリアルでも、オンラインでもレジャー施設の新しい取り組みにぜひ期待してください。

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