誰もが知ってる「チロルチョコ」 製品誕生の歴史は日本の現代史そのものだった

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誰もが知ってる「チロルチョコ」 製品誕生の歴史は日本の現代史そのものだった

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わずか3cm × 3cmの小さなチョコレート、チロルチョコ。これまで累計400種類以上が発売されたこの商品をたどると、日本の現代史が見えてきます。

1979年以来、400種類以上を発売

 これまでに発売された種類は400以上。小さな正方形のひと口チョコとして1979(昭和54)年に登場以来、日本を代表するお菓子に成長した「チロルチョコ」。誰でも一度は食べたことがあるはずです。

おなじみチロルチョコのバラエティーパック。パッケージは2016年頃のもの(画像:チロルチョコ)



 チロルチョコ(千代田区外神田)のウェブサイトを開くと、ズラリと歴代商品の一覧が。見ているだけで楽しくなりますが、そのときどきの流行や世相を捉えた懐かしいラインアップに、だんだん歴史年表を眺めているような気分になりました。ひょっとして、日本の現代史をおさらいするのにも役立つかも。

 そこで今回は、在宅勤務(テレワーク)の息抜きに、歴代チロルチョコの顔ぶれから垣間見える昭和・平成・令和の日本の世相を振り返ってみることにします。

2.5平方センチから3平方センチへ

 チロルチョコが現在の形(正方形)で発売されたのは前述の通り1979(昭和54)年。1962年の誕生当初は三つの正方形がくっついた、「三つ山横長」型のチョコを1個10円で販売していました。

もともとは三つの正方形がくっついた横長の「三つ山」型だったチロルチョコ(画像:チロルチョコ)

 しかしオイルショックに伴う物価の上昇で1974(昭和49)年に20円、1976年に30円へ値上げ。

 すると売り上げに陰りが見え始めます。子どもが買える価格設定だった「10円に立ち返ろう」という2代目社長の号令で、横長を小さな正方形に改め、1979年にリニューアル発売。新たな味も登場し、その人気は全国へと広まりました。

 ちなみに、チロルチョコが現在の3cm × 3cmのサイズになったのは1993(平成5)年から。それまでメインの売り場だった駄菓子店の数が減りゆくなかで、3代目社長がコンビニエンスストアへの進出を決意。バーコード表示に対応すべく、それまでの2.5cm × 2.5cmから少し大きく生まれ変わったそうです。

 サイズの変遷(へんせん)にもまた歴史あり、といったところでしょうか。

 それでは、毎年40種類前後が登場するという「味」はどうでしょうか。同社ウェブサイトにある、過去商品一覧ページ「チロルコレクション」を見ながらたどります。

バブル景気の残り香・義理チョコ

 例えば1992(平成4)年。空前のバブル景気はすでに終わりを告げていましたが、きっとまた経済は持ち直すだろうという楽観ムードが国内にただよっていました。

 1990年代、日本の社会にすっかり定着していたのが、バレンタインデーに職場などで贈るいわゆる「義理チョコ」文化です。OLと呼ばれた一般職の女性たちが、男性上司や同僚たちにチョコを配って回った時代。この年に登場したのが「ちょこっと気持ち」という商品です。

熨斗のデザインと招き猫のイラストがかわいい「ちょこっと気持ち」。1993年に登場(画像:チロルチョコ)



 個包装のパッケージには熨斗(のし)が描かれていて、まさに義理チョコ感満々。ひと粒サイズだから職場や学校で“儀礼的に”配るのに重宝しそうです。中身は同社伝統のコーヒーヌガー味で、これ以降もパッケージを刷新してたびたび登場しています。

 ところで近年のバレンタインは、女性が意中の男性にチョコレートを贈るより、友達同士でお菓子を交換し合う「友チョコ」の方が、どちらかというと人気のよう。

 そのためでしょうか。チロルチョコも近年発売のラインアップは「ばらまきチロル」などと名付けられた、大入りパッケージの商品が目立つようになりました。

ティラミスからタピオカまで制覇

 なにせお菓子の定番・チョコですから、チョコ以外のスイーツを新味に取り入れるのはお手のもの。これまで1980年代から2010年代にかけて流行したスター級のスイーツたちとも数々のコラボを果たしています。

 ティラミスやエッグタルト、杏仁(あんにん)豆腐、クリーム・ブリュレ、マカロン、バスクチーズケーキ風などなど、その顔ぶれは実に豪勢。もちろん、2019年に大ヒットを遂げたタピオカミルクティー味もご多分に漏れず登場しています。

 中でも2003(平成15)年に発売された和スイーツ「きなこもち」は、17年たった今でも人気上位に名を連ねる大出世フレーバー。チョコなのにチョコと思わせない、きなこの高い再現性やもちもちとしたグミの食感が秀逸で、黒蜜入りや抹茶もちなどの「きょうだい商品」も数々発売されました。

今やすっかり人気味のひとつになった「きなこもち」は2003年に初登場(画像:チロルチョコ)

 そして「トリック オア トリート」の合言葉で知られるお菓子絡みのイベント「ハロウィーン」デザインの商品が登場したのは、同社サイトの商品一覧を見る限り、2006(平成18)年のことのよう。

 1997年に東京ディズニーランドがパレードを始めたことなどをきっかけに、日本でも人気が高まっていったハロウィーン。2000年代半ば頃から各食品メーカーも相次いで関連商品を発売したのと、ちょうど時を同じくしています。

 ハロウィーンをめぐっては近年、渋谷周辺での参加者の暴徒化が問題視され、イメージが若干悪くなってしまいましたが、そもそも日本では小さな子どもが主役で親しまれてきたイベント。チロルチョコは2019年も、2006年時の商品を踏襲したかわいらしいパッケージのハロウィーンチョコを発売しています。

活性化にもひと役? ご当地商品

 さて、これまで累計400種類にも及ぶ多彩な商品のなかには「ご当地」系をうたう商品も数多くみられます。

 同社サイトの過去商品一覧を見るに、「ご当地」商品が数多く並ぶようになったのは2011年以降、国内の出来事でいえば、東日本大震災後ということになります。人気キャラクターのキティさんとコラボし、全国各都道府県でしか買えない限定のパッケージデザイン商品を次々と展開しました。

 思えば第2次安倍内閣が「地方創生」を掲げたのは2014年9月のこと。東京一極集中を是正して地方の人口減少に歯止めをかけるという趣旨でしたが、チロルチョコは時の政権より少し早く、地方へ熱い視線を向けていたのかもしれません。

福岡創業、秋葉原に分社オフィス

 同社開発部の松嶋祐介さんによるとチロルチョコは、早いものだと企画から発売までが「数か月程度」というスピード感ある商品。季節に合わせた限定商品も多く、早ければ「3か月くらい」で入れ替わっていくものもあるといいます。

 ちなみに、もとは1903(明治36)年に福岡県で創業した松尾製菓が、創業100周年を機にチロルチョコの企画・販売部門を分社化して2004(平成)年に設立したのが、現在のチロルチョコ株式会社です。

 JR秋葉原駅にほど近い千代田区外神田にオフィスを構えたのは、「オタク文化やインバウンド、ITの集まる一番トレンド力の高い街」だったからだとか。新しい流行をキャッチし、商品化にマッチするものかどうかを常に厳しい目で見極めているそうです。

2004年に分社化したチロルチョコの本社は秋葉原駅近くに(画像:(C)Google)



 41年前、正方形のチロルチョコが誕生した当時の社是は「より良いものをより安く」。そして2020年現在の社是は「楽しいお菓子で世の中を明るく」。モノを提供する時代から、コト(楽しい経験)を提供する時代へと、会社の理念も変化しました。

「これからも消費者に楽しんでもらえる新商品の企画を考えていきたい」と話す松嶋さん。

 この先どのようなチロルチョコが誕生し、そこにはどのような日本の世相が映し出されているのか。ほんのひと粒のチョコレートにたくさんの楽しみ方が詰まっているようです。

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