ご当地料理で「旅行欲」を満たす
暖かさが増してきて、まさに行楽シーズン。散歩や小旅行に出掛けましょう! ……と言いたいところですが、ご承知の通り、不要不急の外出は我慢我慢。出掛けたくてウズウズしている人も多いんじゃないでしょうか。
おこもり生活で1番の楽しみは、1日3度の食事ですよね。何を隠そう僕(カベルナリア吉田。紀行ライター)は、5年前から料理教室に通っているので、自粛期間中は毎日せっせと料理をしています。
そして、ふと思いついたんです。ご当地料理を自宅で作ったら、食卓で旅気分を味わえるんじゃないかって!
というわけで今回は簡単に作れる、「東京と近郊のご当地料理」をご紹介します。
湘南藤沢「村岡風 マヨ焼きそば」
まず神奈川から「村岡マヨ焼きそば」。村岡は藤沢市内の街で、「湘南藤沢グル麺コンテスト」というイベントでグランプリを獲得したのが、村岡マヨ焼きそばです。
僕は処女作の本がマヨネーズの本だったくらい、マヨネーズが大好き。ソースの代わりにマヨネーズで味つけする焼きそばと聞き、早速作ってみました。
ここで、ご当地グルメを再現する場合の注意点。多くのご当地グルメはルールやおきてがあり、村岡マヨ焼きそばにも五つのルールがあります。
1.マヨネーズを使う
2.食べるラー油を添える
3.オイスターソースを使う
4.できるだけ藤沢産の食材を使う
5.村岡への郷土愛を込めて作る
1~3は簡単ですね。4は買い物をするとき、食材の産地をよく見て、藤沢産のものがあれば使いましょう。5は……まだ村岡に行ったことがないんですよね。そして今回の記事は、あくまでもご当地グルメ「風」に料理を再現しようという内容なので、本物はコロナ騒動が収まったら現地に食べにいきましょう。
今回僕が作って紹介する料理はどれも、自粛が解けるまでの「つなぎ」です。地元の皆さまは「わが町の〇〇料理と違う!」と腹を立てず、寛大な心で見ていただけるとうれしいですね。
さて料理です。
豚肉とキャベツ、ニンジンとネギ、戻したキクラゲを油で炒めて塩コショウしたら、軽くマヨネーズも加えサッと混ぜ、いったん取り出します。続いてフライパンで油、ではなくマヨネーズを温め、焼きそばの麺を焼きます。このとき落としぶたなどを乗せて、両面を固焼きそば風にパリッと焼くと、おいしく仕上がります。
麺が焼けたらオイスターソース、しょうゆ、お酒、コショウを混ぜたものを加えてからめ、皿に盛ります。その上に、最初に炒めた具材を乗せ、食べるラー油を添えれば完成。オイスターソースの風味がよくて、マヨ味もしつこくなく、おいしくいただけますよ。
千葉・房総の漁師料理「なめろう」
さて次は千葉県から「なめろう」です。房総の漁師さんが、捕れたての魚を船上で料理したのが始まりだそうで、皿についた魚の身を「なめる」ほどおいしいから「なめろう」と呼ばれたとか(諸説あります)。今回は手に入りやすいアジで作ってみようと思います。
早速近所のスーパーマーケットで、3密を避けながら買い物(都知事の言いつけを守っています)。アジをさばくのは大変だから、刺し身を買って……って、あれま!
3密を避けて微妙な時間に行ったせいか、アジの刺し身はなく、丸ごとの尾頭付きしかありません。こうなりゃさばこう、ってことで買いました。腕に覚えのない人は、無理せず刺し身で作ってくださいね。
アジは尾の近くの「ぜいご」(トゲ状のウロコ)をそぎ切り、頭をエイヤッと落としたら腹側に包丁を入れ、内臓をかきだし流水で洗います。これを三枚におろして皮をはぎ、包丁でたたき細かくします。刺し身が手に入れば、この「包丁でたたく」ところから始めてください。
ショウガとネギとニンニクのみじん切り、みそにしょうゆ少々を混ぜたものをたたいたアジに乗せ、さらにたたいて混ぜれば完成です。青じその葉を敷いた上に盛れば、日本酒がほしくなりそうですね。
埼玉・毛呂山町「豚玉毛丼風 豚玉丼」
続いて埼玉は毛呂山町の「豚玉毛丼(ぶったまげどん)」。毛呂山町は埼玉県南西部の緑豊かな町で、ユズが名産です。養鶏も盛んで、鶏卵の産地でもあり、このふたつの名物を使った名物が「豚玉毛丼」なんです。
作り方は簡単。豚の薄切り肉をフライパンで軽く焼き、いったん取り出します。ここにみりんとしょうゆ、だし汁に砂糖と、あればユズ果汁を加えて火にかけて、煮たったら炒めた豚肉を入れ、卵を落とします。卵はそのままでも混ぜてもお好みで。僕はそのまま落としました。
卵が好みに固さになったら、豚肉と一緒に煮汁ごとご飯に乗せ、三つ葉をトッピング。さらにユズの皮を好みであしらいます。……なんですが、今の時期はユズがないんですよね。代わりにユズコショウか、レモンやカボスで試してもいいと思いますが、わが家の冷蔵庫を見るとなんと……オレンジマーマレードが!
試してみたら意外や意外、おいしかったです。毛呂山町の人に怒られそうですが、今回作ったのは「豚玉毛丼風 豚玉丼」ってことで、見逃してください。
ガッツリ豪快! 「大宮風 ナポリタン」
埼玉からもう一品、大宮ナポリタンも作ってみました。これまたルールがあります。
その1、旧大宮市内の店舗で出すものを「大宮ナポリタン」と呼ぶ……そうですが、家庭での再現は無理なので、これもコロナが収束したら食べに行くのでお目こぼしを。今回紹介するのはそんなわけで「大宮ナポリタン風 ナポリタン」です。
ルールその2、埼玉県産の野菜を1種類以上使うこと。これは何とかなりそうです。
埼玉は全国屈指の農産県で、ネギやホウレンソウ、ブロッコリーにナスなどの生産量は全国トップクラス。トマト味にはナスが合うから、埼玉県産のナスがあるといいな……と思いつつ、スーパーの野菜売り場へ。最近の野菜はどれも産地が書いてあるので、埼玉県産を探します。
……え、今日の埼玉野菜は2種類、キュウリと里芋?
どちらもナポリタンとの相性は微妙な気がしますが、ルールは守らなければいけません。買って帰って料理スタート!
大宮ナポリはボリュームたっぷり、食べ応えも特徴なので、スパゲッティは太めの1.7mmを用意しました。これを表示時間より1分長くゆでます。
そして具材は薄切りのタマネギとピーマン、水煮マッシュルームとウインナー、そしてキュウリと里芋! キュウリはシャキシャキした歯ごたえを残したいので厚めに、里芋は火が通りやすいよう薄めに切りました。
フライパンでオリーブ油を熱し、まずタマネギと里芋、続いてウインナー、ピーマンの順に炒めて、最後にマッシュルームとキュウリを加えます。キュウリは生でも食べられるから、さっと油が回ればOKです。
具材を炒めたらフライパンの片側半分に寄せ、空いたスペースにケチャップに砂糖少々、しょうゆ少々、ウスターソース少々を混ぜたものを投入し、炒めて水分を飛ばします。ここにゆでて水を切ったスパゲッティとバターを加え、大きく均等に混ぜれば完成です。
ボリュームたっぷりのナポリタンができました。そして意外にキュウリが合う! 合わない野菜はたぶんないので、店で見つけた埼玉野菜、何でも試してみましょう。アナタだけの大宮風 ナポリタン、作ってみませんか? なんてね。
秩父名物の「わらじカツ丼」
埼玉からさらにもう1品、秩父名物わらじカツ丼も作りました。大きくて平たい、まさに「わらじ」のようなカツを乗せた豪快な丼です。
「家で揚げ物は大変!」という人は、大ぶりのトンカツを買ってきて試しましょう。しょうゆと酒、みりんと砂糖を混ぜたタレに軽く浸し、ご飯に乗せるだけ。好みで刻みのりや紅ショウガを添えてもいいですね。
僕は料理教室歴5年のプライドがあるので、カツを揚げました。筋切りをしたソテー用豚肉をラップで包み、めん棒などでたたいて1.5倍の大きさにして揚げます。一見すごい量ですが、和風のタレでアッサリおいしくいただきました。
東京・下町の味わい「深川めし」
東京名物を忘れていました。アサリを使った下町の味、深川めしを作ってみましょう。具材を炊き込むタイプと、みそ仕立ての汁をぶっかけるバージョンがありますが、今回は炊き込みました。
アサリは下処理が面倒なら、缶詰のむき身を……と言いたいところですが、アサリの蒸し汁が味のポイントになります。ほかの魚介に比べ、はるかに処理は簡単なので、ぜひ活(い)きアサリで挑戦してください。
アサリは塩水に30分ほどつけて砂抜きをし(「砂抜き済み」として売っていても、必ずやりましょう)、カラをこすり合わせて洗います。
鍋に入れて酒と水を少量加え、フタをして強火で2分。カラが開いたら身をひとつずつ外し、分けておきます。蒸し汁に水を足して分量を調整し、洗って水切りした米に加えて30分おきます。
ここに刻んだ油揚げとしょうゆ少々を加えて炊き、炊き上がったらアサリの身を加えて軽く混ぜ、三つ葉を散らせば完成です。ほんのり香る磯の風味に「ああ、東京にもこんな素朴な名物があるんだ」と感動することでしょう。
「手作りカレー横須賀風」
最後は再び神奈川に戻り「よこすか海軍カレー」……なのですが、これまた五つのルールがあります。
1.1908(明治41)年の「海軍割烹(かっぽう)術参考書」のレシピをもとに復元したカレーである
2.原則として、横須賀市内でしか提供できない
3.サラダと牛乳をセットにして提供する
4.「ご当地グルメ」であり「B級グルメ」ではない
5.カレーの街よこすかの認定店だけが名称使用を許可されている
以上の五つです。
厳格さが漂うのは、やはり海軍の料理だからでしょうか。
とにかくカレールーが市販される前のレシピが基準なので「小麦粉とカレー粉で作る」部分はまめに守り、具材の肉とタマネギ、ニンジンとジャガイモはサイコロ状に切り、チャツネを付けて提供する。5か条の中の三つめ「サラダと牛乳をつける」も守り「手作りカレー横須賀風」として紹介します。これならいいですよね?
まずみじん切りのタマネギとニンニクを、バターで強火で薄茶色になるまで炒め、小麦粉をふり入れてさらに炒め、カレー粉を加えまたさらに炒めます。ここにスープの素と水とケチャップ、ウスターソースを加え、弱火で煮ること20分。
その間に肉とタマネギとジャガイモは2cm角、ニンジンは1cm角に切り、まず肉に塩コショウとカレー粉をまぶして、焼き色がつく程度に炒めます。続いて野菜も一緒に炒め、油が回ったら最初の鍋に入れ、弱火で20分煮込みます。
塩コショウその他、好みの隠し味で整えれば完成。僕は最後にしょうゆをひと回しと、カレー粉を少し足して調整しました。
……なのですが、イチから作るのは大変ですね。気分だけ横須賀を味わいたい人は、市販のルーを使うか、あるいはできているカレーに牛乳とサラダを添えて小旅行気分に浸ってもいいんじゃないでしょうか。チャツネはオーソドックスに福神漬けを添えました。
ちなみに手間はかかるけど、ルーから作るカレーの味は格別ですよ。
グルメ旅行の代わりに、自宅でグルメざんまいを
というわけで7品ご紹介しました。
これを書いている時点で(2020年5月中旬)東京のコロナ感染者数は減少傾向ですが、まだまだ油断は禁物。気軽に小旅行を楽しめるまでには、時間がかかりそうです。
収束までの間、ご自宅でご当地料理を手軽に再現して、旅気分を味わってみてはいかがでしょうか。