新型コロナ禍のエンタメ業界に続々と支援の輪が広がりつつあるワケ

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新型コロナ禍のエンタメ業界に続々と支援の輪が広がりつつあるワケ

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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新型コロナ禍で困窮する各業界を支援すべく、クラウドファンディングなどのサービスが活用されています。その背景にはいったい何があるのでしょうか。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

広がるエンタメ支援の輪

 新型コロナウイルスによる外出自粛が長期化し、幅広い産業に影響が拡大しています。

 特に大きな打撃を被っているものに、映画館やライブハウス、劇場、ゲームセンターなどのエンターテインメント事業者があります。その中でも中小事業者は人件費や賃料などの固定費が重い負担となってきており、このままでは5月中旬以降、廃業に追い込まれる事業者が次々に出てくると言われています。

国内産業を支える支援のイメージ(画像:写真AC)



 国や自治体の支援策があるものの、手続きがわかりにくかったり、時間がかかったりして、まだ支援金が手元にいきわたっていません。そのような深刻な状況の中、ネット上で関係者や消費者が事業者を支援しようと言う輪が広がってきています。

目標金額の約3倍が集まった

 例えば、映画業界では映画監督の深田晃司さんと濱口竜介さんが発起人となり、閉館の危機にある全国のミニシアターを支援するための「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げ、クラウドファンディングで支援を募っています。プロジェクトには、俳優の斉藤工さんや渡辺真起子さんなども賛同しました。

クラウドファンディングで行われた「ミニシアター・エイド基金」(画像:MotionGallery)

 コロナ収束後に使用できる「未来チケット」の販売を行い、特別ストリーミング配信サイト「サンクス・シアター」で有志の映画人たちが提供した激レア映画を配信しました。2020年5月12日(火)時点で集まった金額は2億7943万2390円と、目標金額1億円の約3倍となっています。

 また、関西のミニシアター13館による支援プロジェクト「Save our local Cinemas」では支援Tシャツの販売や自粛後に使用できる映画チケット販売などの企画を実施。映画監督や俳優がツイッターで情報拡散し、Tシャツは完売となっています。

音楽業界ではライブハウス支援も

 音楽業界ではタワーレコードが4月27日(月)より、協力企業やアーティストとともに全国の独立系ライブハウス約350店を支援するプロジェクト「LIVE FORCE, LIVE HOUSE.」を開始しました。

 プロジェクトでは、オリジナルデザインの支援ピンズをサイトで販売、そこから得られた利益全額を支援金として、ライブハウスへ送金する仕組みとなっています。

 ロックバンド「toe」の発起によりスタートした「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」は同名のフォルダのアクセス権を販売し、ライブハウスや活動の場を失ったアーティストを支援しています。

「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」のスキーム図解(画像:MUSIC UNITES AGAINST COVID-19)



 支援の返礼として、フォルダ内には賛同しているミュージシャン(東京事変やスチャダラパー、石野卓球、Charaなど約70組)が提供する楽曲データがあり、期間中(4月19日~6月末日)は聞き放題になっています。スピーディーでわかりやすいシステムにより、開始から4日で2万件の支援がありました。

「ゲーマーの聖地」も立ち上がった

 ゲームセンターでは、「ゲーマーの聖地」と呼ばれる「ゲーセンミカド」(新宿区)の取り組みが注目されています。

 今回の休業をポジティブに受け止め、営業権を取得したゲームセンターのリニューアルなど、4月以降に予定していた事業計画の資金をクラウドファンディングで募りました。返礼品には、プレイ回数券や横断幕に名前を刻める権利などが用意されました。

 5月10日(日)に終了したクラウドファンディングには、目標の2000万円をこれまた大幅に上回る3732万8892円の支援が寄せられました。

 また、有志のゲームセンターが行っている「ゲーセン支援チャリティーキーホルダー」は新型コロナウイルスの影響で売り上げ減少、休業を余儀なくされているゲームセンターの継続支援のために、店舗のロゴやイラストをモチーフとしたアクリルキーホルダーを通販サイト「いらすとぷらす」で販売するというもの。

「いらすとぷらす」で販売される「ゲーセン支援チャリティーキーホルダー」(画像:いらすとぷらす)

 その他にもクリエーター支援サイト「Ci-en」で支援を訴える施設もあります。

背景にある「エシカル消費」の波

 このように、さまざまな支援プロジェクトが打ち出されていますが、いわゆる募金とは異なり、多くは礼品が用意されており、利用者からみると商品を購入して支援する感覚があります。そのため、参加のハードルが低く、幅広い層を巻き込みやすくなっており、また対象や使用目的が具体的で共感しやすい特徴もあります。

 このような支援が拡大する背景には、国内消費者の新しい消費行動が大きく影響していると言えます。

 それは広義の「エシカル消費」と言えるかもしれません。エシカル消費とは、社会問題を解決するためにそれに貢献している商品を積極的に購入すると言うものです。

全国の1万251人を対象に行われた「サステナビリティ(持続可能性)」に関するインターネット調査の結果。「エシカル消費」の認知度は6番目(画像:MyVoice)



 わが国では1990年代に化粧品メーカー「ザ・ボディショップ」の上陸によって若い女性を中心にその概念が波及され、徐々に浸透していきました。消費によって社会問題にコミットするということが幅広い消費者に認識されることになったのは、2011年の東日本大震災が契機と言えます。

 震災直後には自粛の機運が高まり、花見など大人数の宴会の中止が相次ぎましたが、被災地の酒造メーカーがネットで消費を訴えたことから日本酒を購入する人が増加。消費することで支援するというスタイルが、消費者の中に広がりました。

支援に対して大きな可能性を持つSNS

 またクラウドファンディングなど、ネット上で資金調達するシステムが普及してきていたことも今回の支援の拡大を後押ししています。

クラウドファンディングのイメージ(画像:写真AC)

 今は、SNSの普及によりマスメディアを通さなくとも一個人が世界中に情報発信できる時代となっており、小さな訴えかけも多くの賛同者を得られれば大きな力を持つことを消費者はよく理解しています。またSNSにさまざまな可能性があることを学んだのも、震災からと言えます。

 新型コロナウイルスによるエンターテインメント支援では、ドイツ政府が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。特に今は」として、文化産業に携わるフリーランサーや小規模事業者に500億ユーロ(約6兆円)の財政支援を表明しました。そういったことからも、日本国内でも国が芸術・文化分野にもっと資金を注入すべきとの意見があります。

一個人でもクラファン達成できる

 この意見はとてももっともなことですが、外出自粛が長期化する中、その影響は生活インフラに関わる産業にまで拡大してきており、限られた財源の中で優先度と公平性のバランスを求められる国の施策においては、ある程度の限界があるのも事実でしょう。

 消費者が必要とするエンターテインメント、たとえ利用者が少なくとも強く存続を望まれるエンターテインメントは消費者の支援が広がる可能性があります。

クラウドファンディング成功の秘策は「熱意」(画像:写真AC)



 クラウドファンディングは有名人でなければ目標額を集められないと言う人もいますが、実際に見てみると、有名人でも熱意が伝わらないと失敗したり、無名な一個人でも熱意が強かったり、面白い企画だったりすれば達成することができます。

 気になる支援策があったら、ぜひ参加してみてください。

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