カラムーチョから火鍋まで 「激辛ブーム」はいつから日本で始まったのか

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カラムーチョから火鍋まで 「激辛ブーム」はいつから日本で始まったのか

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星野正子

20世紀研究家

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今では東京でメジャーになった「激辛」料理・商品。その歴史について、20世紀研究家の星野正子さんが解説します。

口火を切ったのはカップラーメン

 食いしん坊にとって、「激辛」は「大盛り」の次ぐらいに好きな言葉ではないでしょうか。

 現在、都内各地には激辛を売りにしたお店も多く、ましてや辛さを調節できるとなると、筆者(星野正子。20世紀研究家)はついつい辛くしてしまいます。

 胃が後から熱くなって後悔しても、止められません。だって辛いものはおいしいですし、うそかまことか、身体にいいとも言われていますからね。

「激辛」のイメージ(画像:写真AC)



 さて日常的に使われている激辛ですが、そのブームはいつごろから始まったのでしょうか。激辛という言葉を探してみると発見しました。

「夏バテなんてイッキ解消 ― この激辛料理」という記事が、「週刊読売」1985年8月18日号に掲載されています。

 日本ではこれまで激辛ブームが何度も起こっていますが、その最初は1985(昭和60)年頃からです。

 このときブームになったのは料理よりもインスタントラーメンやスナック菓子で、その口火を切ったのは、ベルフーズ(現クラシエフーズ)が同年11月に発売した「カラメンテ」です。

 カラメンテは激辛味のカップラーメンで、もともとは本命商品の売り上げが伸び悩み、代打で製品化されたといいます。しかし、いかにも辛そうな若者向けの色彩デザインにしたことで大人気となりました。

口に入れたら「ひえええ~」な反応

 これを機に、辛いものを食べたいという若者の欲求が高まります。

 カラメンテより一足先に発売された湖池屋(板橋区成増)のスナック菓子「カラムーチョ」は、ブームとともに売り上げが急増。

 今では「ピリ辛でおいしい」と食べられているカラムーチョですが、発売当初はみんな、「ひえええ~」と過剰な辛さにもん絶しながら食べていました。

現在も人気のスナック菓子「カラムーチョチップス ホットチリ味」(画像:湖池屋)



 ちなみに同様のリアクションが同年に発売されたノーベル製菓(大阪市)のキャンデー「スーパーレモン」でも行われていた記憶があります。

唐辛子の価格が高騰

 激辛ブームを受け、たちまち足りなくなったのが唐辛子です。現在、唐辛子の生産地というとメキシコなどを想像しますが、当時の主な産地は中国でした。

 1986(昭和61)年には、日本の商社が中国の唐辛子を大量に買い付けます。ところが、唐辛子は農産物。中国では天候不順のために唐辛子の収穫量が減り、たちまち価格が高騰したのです。

唐辛子のイメージ(画像:写真AC)

 というわけで、商社はインドを始めとする新たな販路を探しながら、四苦八苦でブームを支えていたのです。

 こうして激辛がブームとなったわけですが、決して長く続いたわけではありません。

 これまでにも、日本にはない辛さを持つエスニック料理などは話題になっていましたが、あくまで「珍しい食べ物」という扱いでした。むしろ激辛という言葉は、手厳しい批評や、発言を指す言葉として使われていたのです。

過剰な味付けが「意外においしい」

 ところが激辛を筆頭に、強烈な味付けが脈々と人気を得ているジャンルがありました。それがスナック菓子です。

 どこのお店にも並ぶ定番商品となっていたカラムーチョですが、これに加えて湖池屋は1993(平成5)年、すっぱい味付けが際立つ「すっぱムーチョ」を発売。

 ノーベルのスーパーレモンなどと並んで、子どもや若者は辛い・酸っぱいといった一種過剰とも思える味付けの商品を「意外においしい」と感じ、愛好するようになっていきました。

ノーベル製菓のキャンデー「スーパーレモン」(画像:ノーベル製菓)



 こうした世代が成長するに連れ、より辛い味を求めるようになった結果、2000年代に入り、次々と激辛の食べ物が登場し、人気を得るようになったのです。

「暴君ハバネロ」の登場

 大きな転換点になったのは2003(平成15)年11月に東ハト(豊島区南池袋)が発売した「暴君ハバネロ」でした。

東ハトのスナック菓子「暴君ハバネロ」(画像:東ハト)

 そして、世界一辛い唐辛子・ハバネロを使った「暴君ハバネロ」のひときわ強烈な辛さにヒーヒー言いながら、辛さを楽しむ人々は思ったのです。

「もしかしたら、ハバネロよりも辛いものがあるんじゃないか……」

と。

 以降、メディアでは毎年のように品種改良される唐辛子の名前が報じられるようになり、辛さを示す「スコヴィル値」という言葉も認知されるようになります。

 ちなみに現在最も辛い唐辛子は、2013年にギネス認定された「キャロライナ・リーパー」で、その辛さは220万スコヴィル。もはや、どんなレベルかは想像できません。

本場の「四川火鍋」の辛さとは

 冒頭でも触れましたが、今や東京には辛くておいしいお店が数多くあります。

 中でも筆者のおすすめは、都内に増えてきた辛味の強い鍋料理「四川火鍋」です。湿度の高い夏を健康に過ごすために食べる四川火鍋は、健康だけでなく美容に最適という説もあります。

四川火鍋(画像:写真AC)



 都内には中国人が経営する本格的なお店も多いのですが、筆者は現在、ジレンマを感じています。

 なぜかというと、どのお店でも「現地と同じ辛さにして」と頼むと、「それは止めた方がいい」と言われるからです。どこのお店でも、日本人には辛すぎると心配してくれるのです。

 そうなると、がぜん挑戦してみたくなります。というわけで、本場の本気の辛さを味わうため、筆者はステイホーム週間を中国語の勉強に費やしています。

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