食欲と外出自粛のはざまで揺れる消費者の苦悩 長期にわたれば限界も

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食欲と外出自粛のはざまで揺れる消費者の苦悩 長期にわたれば限界も

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小野員裕

フードライター、カレー研究家

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緊急事態宣言発令後、外食産業が置かれた現状についてフードライターの小野員裕さんが解説します。

外食産業は瀕死の状態

 東京都や大阪府など7都府県を対象に2020年4月7日(火)、緊急事態宣言が発令され、16日(木)にその対象は全国に広げられました。

 外出などが規制されたことで客足が途絶えた外食産業は現在、瀕死(ひんし)の状態です。特にターミナル駅周辺にある会社は従業員の出勤を大幅に規制していることから、その周辺にある飲食店は開店休業状態となっています。

テイクアウトやデリバリーを始めた飲食店が増加(画像:小野員裕)



 私(小野員裕。フードライター)は仕事の打ち合わせのため、新宿や神田、有楽町、新橋、表参道を見て回りましたが、まさに閑散とした状態。知り合いの業務用食材卸も死活問題です。

 そのような家ごもり状況の中、にわかに活気づいているのが戸越銀座や吉祥寺周辺の商店街です。

 ストレス軽減のために、散歩がてら多くの人が集まるのでしょう。また、コロナ感染が比較的低い地方都市に旅行へ行く人たちも増加しているようですが、現地にとっては迷惑な話です。

 ところで、私鉄沿線の小さな駅周辺にある個人経営の飲食店は、通常通り営業していてもそれなりに人が入っています。その多くの店は大手資本の飲食店と異なり余力がないため、先行きに不安を感じて営業せざるを得ないのでしょう。

 東京都は一般飲食店を「社会生活を維持する上で必要な施設」と判断しており、原則営業可能です。一方、居酒屋には実質的な休業を要請しているものの、営業時間を朝5時から20時まで、酒の販売を19時までと、柔軟な対応をとしています。

酒飲みには退屈な毎日

 私は毎日のように飲食の現場を見ていますが、店内での飲食を休止し、業態をテイクアウトに変え、生き延びる術を探っている店は確実に増えています。

 例えばとんかつ専門店「とん米」(新宿区高田馬場)は、テイクアウトのみで営業。600円から800円代の弁当が飛ぶように売れ、はたから見ていて普段の客入りより良い状態を保っているように見えます。

「とん米」の「ヒレ串カツとエビフライ」(画像:小野員裕)



 試しに「ヒレ串カツとエビフライ」の弁当を購入しましたが、さすが専門店、極めておいしい仕上がりでした。

 インスタグラムやフェイスブックのタイムラインに最近上がってくる写真は「家飲み」や「家庭料理」が多数ですが、その中に、公園で弁当を食べている写真を多く見かけます。

 しかし酒飲みには退屈な毎日です。家飲みに慣れていない人たちは一体どこでどうしているのでしょうか。

 先日、私鉄沿線の比較的大きな駅で仕事仲間と待ち合わせをしました。その目的は、老舗の焼きとん居酒屋がどのような状況かを見聞するためです。

 訪れると店先は人だかりが。焼きとん、煮込みなどのテイクアウトも行っていました。こちらも飛ぶように売れており、目を見張りました。

 開け放たれた店内のカウンターは、ご隠居でほぼ満杯。テーブル席は閑散としており、取りあえず軽く飲もうと、感染リスクが低いであろう入り口近くのテーブルに座りました。まずは消毒液で手を清め、ビールでカンパイ。一通りつまみを注文し、おかみさんに営業時間を聞きました。

「営業を1時間繰り上げて、16時からラストは20時までなのよ。都のお達しだからね」

 普段であれば、この時間帯は満席で予約必至の人気店です。

「売り上げは3割減ね、でもほかの店に比べればうちはまだいいほうかも。おかげさまでテイクアウトを始めたので助かっている状態ね」

とのことでした。

「居酒屋がわり」という抜け道

 20時に店を退散し、街がどのような状況かを確認するためにうろつきましたが、おおよその店は閉店していました。

「中華料理屋をのぞいてみようか」

ということで、比較的大きな中華屋を見つけました。

 ここでも窓が開け放たれ、入り口には消毒液が常備。中をのぞくとけっこう客が入っていて、皆、中華をつまみに酒を飲んでいました。2次会といきたいところですが、これはリスクが高いと判断し、入店を断念しました。

 これだけ繁盛しているということは、早々に閉まってしまう居酒屋で飲み足りない人たちが、規制の緩い中華料理屋を使って「居酒屋がわり」に使っているのでしょう。またはこの「抜け道」を知っている酒好きが、最初から飲み屋として利用していることも考えられます。想像するに、定食屋もこのような状況なのかもしれません。

営業時間を短縮する街の居酒屋(画像:小野員裕)



 私の地元に小さな立ち飲み屋があります。ここは「貸し切り」の看板を常に掲げ、一見さんの入店を断っています。

「うちも営業しないと家賃が払えないから必死でね。でもコロナ感染は怖いから、せめて顔なじみの客だけにしてるのよ」

なるほど。

 素性の知れた客といってもリスクは伴いますが、常連客で店をまかなうのは苦肉の策なのでしょう。

 前述の通り、居酒屋の営業は20時までと要請されていますが、表看板の明かりを消して通常通り営業している店もたまに見かけます。

リスク覚悟で名店に訪れる人たち

 ラーメン屋に目を向けると、普段から行列の人気店は現在もその勢いが衰えていません。

 緊急事態宣言の発令寸前に、開店前の「べんてん」(練馬区旭町)を訪れました。てっきり一番乗りかと思いましたが、すでに16人の行列でした。50分ほどで入店し、食べ終えて表に出たら、さらに20人ほどの行列でした。

「べんてん」のラーメン(画像:小野員裕)

 私も含めて誰もがおいしいものにはあらがえず、リスク覚悟で訪れているのです。

 いくらリスクヘッジをしていると言っても、感染リスクは避けられません。本来なら外出せず家でじっとしているのが賢明ですが、自粛が長期にわたれば限界があります。

 決しておすすめはしませんが、それでも外食したい人たちは風通しのいい広々とした店を選択するべきでしょう。

 また自粛できずに懸命に頑張っている店には、店を応援する心意気でテイクアウトなどを使って売り上げを助けるのもいいですね。

 さらにウーバーイーツなどで、普段食べられないお店の料理を注文して、自宅でランチや夕食を華やかにするのも、この状況ならではの楽しみ方と言えるでしょう。

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