深夜アニメ『イエスタデイをうたって』が描く、2000年代初頭の淡き東京の記憶
2020年4月30日
ライフ静かなブームを呼んでいる、深夜アニメ『イエスタデイをうたって』。世田谷を舞台に描いたこの作品の魅力は何でしょうか。法政大学大学院教授の増淵敏之さんが解説します。
進展するリクオとハルの関係
漫画『イエスタデイをうたって』のエンディングは、叙情的です。
リクオとハルは互いの存在を確認するのですが、時に迷い、時に立ち止まり、ふたりの状況は思うように進展しません。ようやくラストでキスシーンになり、それがとても際立っています。
単行本の最終巻は他の登場人物のエピソードが中心になっており、ふたりが最後に登場するといった感じです。主人公のリクオとハルのエピソードは後回しになっており、そこが群像劇である、この作品のすばらしさだと思います。そしてこの物語の背景には下北沢とその周辺が存在しているのです。
この4月に発売された『イエスタデイをうたって afterword』には、最終回の後日談を描いた新作読み切り「イエスタデイをうたって 特別編―11・S14―」が収録されています。

本編でなかなか進展しなかったリクオとハルの関係ですが、ようやくリクオの実家を訪ねることになります。不器用なふたりですが、少しずつ前に向かって進んでいくのです。心が温まる後日談です。
この物語は、煮え切らない性格のリクオ、知的でしっかり者のしな子が重要なキャラクターですが、やはり純粋無垢(むく)で、自由闊達(かったつ)なハルがこの作品の最大の魅力でしょう。
単行本の第7巻の表紙はリクオ、第11巻はしな子と一緒にハルが描かれています。しかしそれ以外はハル単独の絵柄になっていることからも、その点がうかがい知れるのではないでしょうか。
さて、現在はまち歩きが難しい状況ですが、新型コロナ禍もいずれは収束します。この時期は収束後に行きたい場所への思いをため込み、まち歩きが自由にできるようになったら、その場所を思いきり闊歩(かっぽ)しましょう。
『イエスタデイをうたって』の主人公たちも同じです。時に悩みを抱え、時に後ろ向きになる――でも、やはり前を向いて歩いていくのです。
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