7月の都知事選、本当に行える? 投票所という名の「3密空間」から考える

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7月の都知事選、本当に行える? 投票所という名の「3密空間」から考える

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小川裕夫

フリーランスライター

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民主主義を支える重要なシステムである選挙。そんな選挙は新型コロナ禍の現在も通常通り行われています。その危険性について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

鍵を握る東京都の取り組み

 2020年4月17日(金)、政府は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象にしていた緊急事態宣言の適用地域を全国へ拡大させると発表しました。

東京都庁の外観(画像:写真AC)



 同日の夕方、安倍晋三首相は記者会見を開いて、事の経過を説明。感染拡大を食い止めるため、不要不急の外出などを控えるように要請しました。

 一足早く緊急事態宣言の適用地域になっていた7都府県は繁華街から人が消え、デパート・遊園地・飲食店などが軒並み休業しました。また、図書館や博物館といった文教施設も休館をしています。

 全国の自治体で感染を封じ込めるための対策が採られていますが、人口が多い東京都は、密集空間が生まれやすい環境です。東京都の取り組みが鍵を握るといっても過言ではありません。

選挙は不要不急のイベントか

 新型コロナウイルス対策で注目が集まる東京都ですが、その一方で目黒区長選が4月19日(日)に投開票を迎えました。時代とともに投票率が低くなっているとはいえ、選挙が民主主義を支える重要なシステムであることは否定できません。

東京都目黒区の位置(画像:(C)Google)

 しかし、選挙が不要不急か? と問われれば、話は別です。

 通常、選挙戦の期間中は立候補者の陣営が構える事務所、政党事務所、駅前などで実施される街頭演説、個人演説会の会場になる学校の体育館や公民館などに多くの人が集まります。

 多くの人が集まれば、感染拡大の要因とされる「3密」が生まれるのです。選挙の風物詩的な存在になっている選挙カーも、車内には多くの関係者が乗り合わせています。広くない車内に、多くの人が同乗しているわけですから危険な空間です。

 目黒区長選は目黒区民にしか投票権はありませんが、区内で働いている人や取引先の企業がある人、商工会・観光協会といった各種業界団体関係者が応援や手伝いに駆けつけます。そうした人たちが新型コロナウイルスに感染し、地元に戻って感染をさらに拡大させる懸念もあるのです。

感染リスクが極めて高い選挙

 感染拡大が懸念されるのは、立候補者の陣営だけの話ではありません。

 投開票に立ち合う選挙管理委員会の職員などは、投票所や開票所といった密閉空間で長時間にわたって作業をしなければなりません。

 また、開票作業は多くの人が手分けして票を集計しています。開票作業では多数の投票用紙を触らなければなりませんし、多くの人が顔を突き合わせて集計作業をしています。

投票用紙のイメージ(画像:写真AC)



 とにかく、選挙は感染リスクが極めて高いのです。

 それは1票を投じる有権者にとっても同じです。滞在時間は短いながらも、3密空間の投票所に足を運ばなければなりません。

 また、投票所以外にも感染リスクが潜んでいます。投票の判断材料になる街頭演説に足を運んだり、選挙事務所にマニフェストを取りに行ったりする行為も感染リスクを高めます。

 新型コロナウイルス禍が深刻化してからも、全国各地では選挙が実施されてきました。各陣営は集会を屋外で実施するように努め、握手はしない、選挙カーの使用は控えるといった感染拡大防止策を講じています。それでも感染拡大の懸念は拭い去れません。

 そうした新型コロナウイルス禍の影響もあって、3~4月に投開票された選挙の多くは低投票率に終わりました。危機感が広がった目黒区長選は前回より、投票率は7ポイント上昇しました。

7月に控えた都知事選挙

 これまでの選挙でも新型コロナウイルス禍の影響が出ていますが、2020年7月はさらに大きな選挙を控えています。それが、有権者1000万人にもおよぶ東京都知事選挙です。

東京都庁の外観(画像:写真AC)

 緊急事態宣言の期間はゴールデンウィーク明けの5月6日(水)とされていますが、新型コロナウイルスは収束の見通しが立っていません。長引けば、都知事選も影響を受けます。前回の2016東京都知事選は、投票率が59.73%で約662万人もの有権者が1票を投じました。

 期日前投票が広く浸透したこともあり、有権者が投票所に足を運ぶタイミングは分散する傾向になっています。とはいえ、狭い投票所に多くの人が行くわけですから、そこが3密であることは変わりません。

都知事選は電子投票導入か

 今回の都知事選も、投票所が3密になることは確実です。今から3密対策を講じることになるでしょう。

 投票所で3密を避けるには、電子投票の導入を進めることが考えられます。電子投票は、2002(平成14)年に岡山県新見市の市長選・市議選で初導入されました。

三重県四日市市で行われた電子投票のイメージ(画像:四日市市)



 紙の投票用紙を使わずに、電子機器を用いる投票は、有権者は紙に触れることがなく衛生的です。また、開票作業は一瞬で終了するので、開票作業を担うスタッフを3密から守ることができます。

 しかし、電子投票は投票所に機器を設置するため、投票所に足を運ぶ有権者を3密の危険にさらすことになります。

インターネット投票は問題山積

 電子投票よりもさらに安全で衛生的な、自宅のパソコン・スマホから投票ができるインターネット投票の実現を目指す動きもあります。

 しかしインターネット投票は法律の規制をはじめ、

・投票の秘密をどう守るのか
・不正投票防止策をどう講じるのか

といった問題をクリアしていません。

 そのため国内では前例がなく、今夏の都知事選までにインターネット投票が実現する見込みもありません。

 選挙は民主主義の根幹です。

 4月17日の安倍晋三首相会見では、フリーランスライターの畠山理仁(はたけやま みちよし)さんが、緊急事態宣言下における選挙のあり方を問う質問をしています。

 安倍晋三首相は4月26日(日)投開票の静岡4区の補選を引き合いに出しながら、「不要不急のものではないという判断の中において、感染リスクを避けながら実行させていただいています」と回答。新型コロナウイルス禍がまん延する中でも、今のところは選挙を延期しないという認識のようです。

感染拡大を防止するために外出を控えることを要請し、キャッチコピー「STAY HOME」を発表した小池百合子・東京都知事(画像:小川裕夫)

 選挙は、私たちの暮らしにとって欠かせないものです。選挙結果は、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。それだけにないがしろにはできません。

 しかし、感染拡大のリスクを負ってまで実施するほど不要不急のものなのか? という煩悶(はんもん)を抱えているのです。

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