口裂け女はいずこへ……かつての「都市伝説」が最近の若者に全くウケない理由

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口裂け女はいずこへ……かつての「都市伝説」が最近の若者に全くウケない理由

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道満綾香

Z総研トレンド分析担当

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口裂け女やツチノコに代表されるような「都市伝説」は1970年代頃盛んに生まれ、当時の子どもや若者を大いににぎわせました。一方、2020年の若者は、こうした都市伝説のたぐいに全くピンと来ない様子。このジェネレーションギャップの理由は何か、「Z総研」トレンド分析担当の道満綾香さんが考察します。

都市伝説に「恐れる」時代から「消費する」時代へ

 そのうわさは1978(昭和53)年、岐阜県で生まれたと言われています。

 顔半分を隠すほど大きなマスクをした若い女性が、学校帰りの子どもの前に現れ「私、きれい?」と話しかける。その問いに「きれい」と答えると、「……これでも?」と言いながらおもむろにマスクを外す。外したマスクの下には、耳元まで無残に裂けた異様な口が……。

 そう、「口裂け女」の都市伝説です。

 このうわさは当時の子どもや若者の間で伝言ゲームのように伝わっていき、内容の恐ろしさも相まって一気に全国へと広がりました。もちろん東京も例外ではありません。在京の大手メディアが取り上げて、“情報拡散”の一翼を担ったくらいですから。

 こうした都市伝説や怪談話のたぐいは、この時期の日本を大いににぎわせていたようです。例えば「ツチノコ」や「トイレの花子さん」の話を、子どもの頃の記憶として懐かしく思い出す世代も多いのではないでしょうか。

かつて日本中の子どもや若者を恐怖に陥れた「口裂け女」のうわさは今いずこ(画像:写真AC)



 インターネットも無い時代、友達から直接聞いた話はどこか全否定しきれない信ぴょう性をはらみ、また「事実確認をしようにもその手段が極めて限られている」という状況は、若い世代を中心にこれほどまでの熱狂を生んだ一因となったのかもしれません。

 さて、翻って2020年、令和を生きる若い世代は、こうしたうわさをどのように捉えているのでしょうか。

「今ならブームにならないのでは?」

 Z世代(1996~2012年に生まれた若者たち)の流行や価値観について調査・分析を行っている私たち「Z総研」では、東京に住むZ世代の若者がこのような「都市伝説」についてどう感じるのか、今回ヒアリングを試みました。返ってきた答えを以下に紹介します。

「口裂け女の話自体は知っています。小学校の頃、教室の共有の本置き場にあった学校の怖いうわさや学校の怪談系の本や漫画を読むのがはやったので、その本を読んで知ったのが最初だったと思います」

「口裂け女のうわさを今もし聞いたらどう感じるか、ですか? まあ漠然と、そういう人に会ったらマジで怖いな、とは思いますね(笑)。けど今だったら、昔大はやりしたほどのブームにはならないかな、と」

「私が子どもの頃(10年ほど前)はよくテレビで夏の心霊番組とかを家族で見るのを楽しみにしていたのですが、最近ではめっきり見なくなりましたね。でもその分、YouTuber(動画投稿サイトに自作の動画をアップする人)の『心霊スポットに行ってみた』とか『都市伝説の解説をしてみた』とかいう動画を目にすることが増えました」

「テレビで見たり友達同士でうわさをしたりすることはなくなったけど、都市伝説や心霊番組と同じようなコンテンツ自体は、今も身近にあるように思います」

都市伝説や怪談話が流行した頃、今以上に「暗い夜道を歩くのが怖い」と感じる子どもが多かった(画像:写真AC)



 このように、現代でも都市伝説は人気ジャンルのひとつではあるよう。ただ、かつて流行した都市伝説とは、そのスタイルや受け取り手の感じ方はずいぶん変化しているようです。

 それでは「現代版・都市伝説」の例をひとつ挙げてみましょう。

「誘拐・監禁された少女」の動画

「鳩羽(はとば)つぐ」という存在をご存じでしょうか。2018年から2019年にかけて、Z世代の間で話題となったバーチャルYouTuber(CGキャラを使った動画投稿者)のひとりです。

 2018年2月28日にYouTubeに動画が初投稿されると、その不可解さや謎めいた要素の多さが話題になり、1本目の動画の再生回数は約188万回にまで達しました(2020年4月19日現在)。

 幼い少女の姿をしたキャラクターのかわいらしい見た目も魅力のひとつではありますが、それとは相反するような不自然さや不気味な雰囲気を漂わす動画が「誘拐された女の子が犯人に強要されて配信させられている(という設定の動画)のではないか」などと、さまざまな憶測や考察を呼び、SNSを中心にネット上で盛り上がりを見せたのです。

 この例からも垣間見えるように、現代版の都市伝説は「フィクションのエンターテインメント」のひとつとして楽しまれている、という特徴があります。かつてのように「本当かもしれない、怖い」と未知の存在を怖がるのとは違って、作られた話であるということを共通認識とした上で、受け取り手側も考察などをすることで楽しむのです。

「誘拐された少女なのでは?」などと考察が盛り上がったバーチャルYouTuber「鳩羽つぐ」(画像:(C)鳩羽つぐ)



 この「考察」というのは、Z世代をはじめ最近のエンターテインメントを語る上での重要なキーワードとなっています。

 2019年4月から2019年9月まで日本テレビ系で放送された全20話の連続テレビドラマ「あなたの番です」「あなたの番です―反撃編―」の大ヒットは記憶に新しいでしょう。

 マンションを舞台に連続殺人事件が起きるというこのドラマは、毎話、新たな謎や犯人のヒントが提示されていく構成に視聴者が魅了され、放送終了後は毎週、犯人予想とその根拠を提示する「考察」がTwitterにいくつも投稿されました。

積極的に、能動的にコンテンツを消費する

 ほかにも2019年12月から2020年3月にSNS上で連載された連続漫画「100日後に死ぬワニ」では、主人公のワニがどのようにして死んでしまうのかを予想し合ったり、恋愛リアリティー番組「テラスハウス」がこの後どんな展開になるかを予想してInstagramのストーリーズ(24時間で消える短尺動画機能)でシェアしたりと、さまざまな形の考察ブームが生まれました。

 これら考察の対象となるコンテンツは、当然ながら(ほとんどが)フィクションです。このようにZ世代は、フィクションとわかった上で積極的に楽しんでいるという特徴があります。

「より能動的に情報を消費している」と、言い換えることもできるでしょう。

 さて、このように考察が白熱することにSNSが大きな役割を果たしているのは言うまでもありません。

 自分の考えたことを気軽に世の中に発信でき、他の人の意見を参考にして自分の考察をより充実させたり、議論を通じて新たな見解を発見したりと、SNSは考察をするのにとても適したツールです。

 SNSは文章と併せて写真や動画も同時に載せることができるので、自分が見つけた考察の「証拠」や見解・解説を不特定多数に伝えることができ、活発な議論を生み出しやすい場。テレビや雑誌、ネットの既存サイトなどと違って、情報をただ受信するだけでなく自ら発信し、それに対するレスポンスも受け取れ、さらには双方向の議論をすることもできる――。

 この「参加している感じ」が、考察の面白さをより引き立てているのではないでしょうか。

自らの「考察」をSNSで発信し、コンテンツに「参加」することを楽しむ最近の若者たち(画像:写真AC)



 ちなみに、Z世代はTwitterとInstagramを使い分けて考察を楽しんでいます。

 Twitterは主に他者の感想や考察を見るために使って知識・情報を増やし、Instagramではストーリーズを用いて友人と意見を共有、そこからDMなどでやり取りをし、話が盛り上がればリアルで会うところにまで発展させる、といった具合です。

「事実のような謎」を求める私たち

 そして最後にもうひとつ、考察されるコンテンツはそれなりに作り込まれているものでないとなかなか大勢にはウケません。

 不特定多数の人がさまざまな角度から考察に参加するため、謎の部分が単純過ぎればすぐに解き明かされてしまいますし、明らかな矛盾があると考察の熱を一気に冷めさせてしまいます。逆に謎が多過ぎても、考察の末に「正解にたどり着けたかもしれない」という達成感・爽快感が得にくく、面白みに欠けてしまうでしょう。

 一定の人数が同じ考察・結論を導き出すことによって「これが物語の真実なのでは?」と思えたり、一方で解析ツールを使っても解けない難しい謎に楽しく翻弄(ほんろう)されたりと、いわばクオリティーの高い“緩急”が必要なのです。

 受け取り手側にとって、フィクションだとわかってはいても一貫性のある「事実のような謎」が、コンテンツの価値をより高めることにつながっているのです。

 かつての都市伝説のように聞いたものをただそのまま伝言ゲームのように伝えるだけでなく、コンテンツとしての情報をより積極的に楽しみ、積極的に自ら参加していく、というのが現代的な情報への接し方です。

SNSなどのデジタルツールを使って、消費者にも制作者にもなる最近の若者たち(画像:写真AC)



 ただし「(能動的に)情報を消費する」といっても、単なる「消費者」でいるだけでは飽き足らず、自らも発信し、時にはコンテンツを制作する側にもなっていく(それを支えるYouTubeやSNSなどのツールも十分にそろっている)――この特長こそが、私たちZ総研が、Z世代を「クリエイティビティが高い世代」と称する大きな理由のひとつでもあります。

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