新型コロナもなんのその? 東大と早慶が「オンライン授業」に難なく対応できる理由

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新型コロナもなんのその? 東大と早慶が「オンライン授業」に難なく対応できる理由

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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新型コロナウイルス感染拡大で、授業のオンライン化が急がれる中、東大を始めとする都内有名大学の対応に注目が集まっています。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

オンライン授業の導入割合とは

 新型コロナウイルス感染拡大で、全国の多くの大学は新年度の授業開始を遅らせています。

 文部科学省が2020年4月10日(金)までにまとめた学校再開状況によると、通常の講義に代わってインターネットを介したオンライン授業を利用する割合は、

・国立大学:74.4%
・公立大学:41.6%
・私立大学:46.0%

となっています。

 国立大学の数字が群を抜いて高くなっていますが、東京都内の有名大学は国公私立大学関係なくオンライン授業の導入にかじをきっています。

 特に東京大学(文京区本郷)や早稲田大学(新宿区戸塚町)、慶応義塾大学(港区三田)は素早い対応を行っています。なぜこれらの大学は時勢を待たず、先手を打つことができたのでしょうか。

経験や実績を積んでいた東大

 東京大学は都内の大学の中でも、オンライン授業を行うことをいち早く決めました。

東京大学の外観(画像:(C)Google)



 オンライン授業は、手続きやシステム構築に時間がかかります。一朝一夕で始められるものではありません。しかし東京大学は2013年秋から、米スタンフォード大学などの海外の有名大学が参加する大規模公開オンライン講座にコースを提供するなど、これまでに経験や実績を積んできました。

 東京大学が「学事暦通りに授業を行いオンライン化を推奨する」と言い切ったのは、ひと月前の3月18日(水)。その背景には、こうしたものに裏付けられていたからなのです。

 とはいっても、長い歴史を有する東京大学でも初めての試みです。学生の専攻が決定した後期課程以降は、理系学部を中心に実践的な内容も多くなります。いつまでもオンライン講座1本で授業を消化できるとは思えません。

 しかし学生に向けた総長メッセージで試行錯誤を重ねることを予想し、困難を乗り越えるために教員と学生の一致団結を呼びかけています。

早大は春学期を全てオンラインで

 新型コロナウイルスに関してあらゆる面で迅速な対応を行っている早稲田大学は4月1日(水)、春学期の授業は原則的にオンラインで行うと決定しました。

早稲田大学・大隈講堂の外観(画像:写真AC)



 他の大学は夏休み前までの全ての期間、通常授業は行わないと断言していないことを踏まえると、早稲田大学の踏み込んだ対応は目を引き、はじめから「コロナは夏までに収束しない」と考えていることがわかります。

 また早稲田大学は、東京大学が会員大学としてコースを提供している「日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)」に2014年から参加していることもあり、東京大学と同様にノウハウを蓄積しています。

 その一方、学部や学科が多く在籍する学生数も多いことから、授業開始は5月11日(月)に設定し、準備期間に充てていると考えられます。

 本格的なオンライン授業導入により多少の混乱が起きると予想されますが、これまでの流れを見ていると、多くの大学が早稲田大学の対応を後追いしています。

 日本の大学の中で留学生を一番多く受け入れている大学ということもあり、その対応は驚くほど早いものとなっています。何事も先陣を切って動く、早稲田大学の今後は注視する価値があるでしょう。

4週間はオンライン授業を行う慶大

 かたや東京大学や早稲田大学と比べアピールが控えめな慶応義塾大学は、米国の難関大学として知られるジョンズ・ホプキンズ大学が参加するデジタル教育プラットホーム「FutureLearn」に、2018年7月からコースを開講しています。

慶応義塾大学の外観(画像:(C)Google)

 確かに上記二大学と比べてオンライン授業の歴史は短いと言えるでしょう。しかし慶応義塾大学も今回の緊急事態を受け、オンライン授業を行うことを告知しています。授業は4月30日(木)から行う予定のため、現在は総力を挙げて準備に取り掛かっていると予想されます。

 また慶応義塾大学は「少なくとも4週間はオンライン授業を行う」としており、状況次第では通常の授業形態に戻すことを示唆しています。しかし5月末までに事態が好転していなければ、早稲田大学同様、オンライン授業を続行するでしょう。

 いずれにしてもコロナ禍で対面式の授業が行えない中、配信経験のある大学は規模の大きい総合大学でも緊急時のフットワークが軽いのです。

コロナ禍で真価が問われる大学

 この緊急事態で誰もがオンライン授業の必要性を感じているものの、実際に導入するには資金力と行動力が必要です。そんな中、東京大学や早稲田大学、慶応義塾大学は有名大学の名にあぐらをかかず、いざというときの判断力や対応力に優位性を示しています。

 もちろん通常の対面式講義と異なり、教員は学生の反応を感じにくく、また学生は集中力が途切れやすくなるなど、問題点も今後も出てくることでしょう。それに加えて、学生はパソコンやタブレット端末を準備する必要があり、通信データも大きくなることからその費用も無視できません。

 しかし教育機関であるはずの大学がのんびり対応していては、学費を納入する学生に対して面目が立たず、その責任を全うしているとは到底言えません。

オンライン授業のイメージ(画像:写真AC)



 非常事態宣言が出されるなど経験したことのない状況であっても、大学が学生に教育の機会を与えるために奔走することは至極当然であり、逆にこのようなときこそ、大学の気概や真価を発揮できる絶好の機会となるのではないでしょうか。

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