「ドラマ主題歌」は切ない思い出を呼び起こす記憶装置? TBSドラマシリーズ「木曜座」から考える

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「ドラマ主題歌」は切ない思い出を呼び起こす記憶装置? TBSドラマシリーズ「木曜座」から考える

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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毎週見ていたテレビドラマの主題歌は、のちに聴き返すと当時のさまざまな記憶をよみがえらせてくれます。ドラマと主題歌が密接な関係を築く黎明(れいめい)期、TBS「木曜座」の功績を法政大学大学院の増淵敏之教授が語ります。

ドラマと主題歌の密接な関係を生んだ「木曜座」

 新型コロナの感染拡大で自宅にいることが多くなると、なぜか昔のことをしばしば思い出します。

 さて皆さん、TBSの「木曜座」という連続ドラマシリーズをご存じでしょうか。

 1978(昭和53)年から1983年、基本的には1クール(1シリーズ 9~15回程度)で放送されていたドラマ枠の名称です。一部の作品はMBS(毎日放送)制作ですが、「ドラマのTBS」の面目躍如ともいえるシリーズでした。

「木曜座」は1970(昭和45)年から1977年まで続いた人気ドラマシリーズの『木下惠介・人間の歌シリーズ』の後枠でした。

 ただこのシリーズは木下プロダクションの制作で、TBSの社員が出向してドラマの制作に当たっていました。「木曜座」はこのシリーズの延長戦にあるものとして捉えてもいいでしょう。ただ路線は、大人の愛を描くラブストーリー的な作品が多くなりました。

 1979(昭和54)年の『水中花』では松坂慶子が大人の色気を漂わせる女優としてブレークする契機を作り、また彼女が歌った主題歌、原作者の五木寛之が作詞を手掛けた「愛の水中花」がヒットしました。

「木曜座」も、のちの「月9」に見られるように、テレビドラマと主題歌の密接な関係が生まれていく端緒に当たるのかもしれません。

 1980(昭和55)年、立原正秋原作の『恋人たち』が放送されましたが、主演の根津甚八はその後、役者としての地位を確立し、相手役の大竹しのぶは本格的な女優としての一歩を踏み出します。

『恋人たち』のメインビジュアル(画像:TBSテレビ)



 筆者の記憶に残る主題歌は3曲あります。

 まずは1978(昭和53)年の『愛がわたしを』の主題歌「終わりのない歌」。惣領智子(そうりょう ともこ)が歌っていました。ドラマの方は男性週刊誌の編集部を舞台に繰り広げられる男女の恋の物語でした。出演は大原麗子、近藤正臣、名取裕子などです。

ミュージシャンがドラマを華やがせた時代

 大原麗子は残念ながら、すでに鬼籍に入ってしまいましたが、この頃が絶頂期でした。もちろん近藤正臣も二枚目俳優として活躍していました。彼は現在でも映画に、大河ドラマに欠かせない役者ですが、それにしても見事に年齢とともに渋い味の役者になりました。

 この曲は及川恒平・作詞、惣領泰則・作曲で、とても印象に残るものでした。現在でもYouTubeで数多くのカバーを見かけます。

 さて惣領智子はその後、日系アメリカ人の高橋真理子とデュオ「Tinna」を結成、再び「木曜座」の主題歌に起用されます。1979(昭和54)年の『愛と喝采と』の主題歌「もうひとつの心」です。

ドラマ『愛と喝采と』の主題歌「もうひとつの心」(画像:東芝EMI)



 元歌手で音楽プロダクションの社長を務める主人公は、自分が果たせなかった夢を後進に託すべく、スター歌手育成に全てを賭けていました。そしてその夢を新人歌手に託すこととなる。社長役は十朱幸代、新人歌手は岸田智史でした。その他には渡瀬恒彦、名取裕子が出演していました。

「木曜座」は当時、TBSの看板だったプロデューサー、鴨下信一、久世光彦を要する大山勝美班ではなく、やがて『金八先生』シリーズを手掛けることになる柳井満班が担当していました。

 柳井満はそれまであまり知名度が高くなかったミュージシャンをドラマの主役級に抜てきして、主題歌も担当させる手法を好んで使いました。また名前のあるミュージシャンや歌手も積極的に起用していました。『愛と喝采と』はその典型的な例でした。

テレビが夢見させた東京という幻

 Tinnaの曲も「終わりのない歌」同様、及川恒平・作詞、惣領泰則・作曲の佳曲でしたが、しかし挿入歌を岸田智史が自ら歌う「きみの朝」の方が大ヒットしたことでも知られています。岸田は1976(昭和51)年にCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)からデビュー、この「きみの朝」によってスターダムにのし上がります。

 さて最後に1979(昭和54)年の『たとえば、愛』の主題歌、豊島たづみ「とまどいトワイライト」です。

 この曲は作詞・阿木燿子、作曲・宇崎竜童でした。どちらかというと歌謡曲テイストの曲といえましょうか。

脚本家・倉本聡によるドラマ『たとえば、愛』(画像:ウェブサイト「TBSチャンネル」)



 このドラマは、1年前に離婚をしていた人気深夜番組DJの主人公が、自身の番組を担当する広告代理店の課長との再婚を控えていて、しかし披露宴当日、前夫が披露宴に出席すると知って驚きます。ふたりの男性のなかで複雑に揺れ動く女性を描いたものでした。

 主演は大原麗子、前夫を原田芳雄、再婚相手を津川雅彦が演じていました。豊島はその後も宇津井健、秋吉久美子の主演の『オレンジ色の愛』でも主題歌を担当、「行き暮れて」という曲でした。

 筆者は「木曜座」が放送されている頃、ちょうど大学生でした。そのため記憶に鮮明に残っている作品が幾つもあり、また振り返ると当時のテレビ局は現在に比べると、有名プロデューサーの時代だったようにも思えます。筆者が大学卒業後にテレビ制作会社に勤めたのもそういう人たちへの憧れだったのかもしれません。

 テレビを通じて、筆者は遠くにある、手が届きそうで届かない「夢の東京」を見ていたのでしょう。それははかない幻にすぎないものだったとしても、一大学生の職業選択へのテレビドラマの影響は少なくなかったと思います。そしてその人生の分岐点を思い出すとき、先述した曲が記憶の断片とともにリフレインするのです。

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