東京vs横浜 アフターコロナの「統合型リゾート」誘致合戦は今後どうなるのか?

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東京vs横浜 アフターコロナの「統合型リゾート」誘致合戦は今後どうなるのか?

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小川裕夫

フリーランスライター

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新型コロナウイルス禍の終息後を見越して、早くもIRの誘致・整備に向けた動きが早くも見られます。詳細をフリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

新型コロナで一気に冷え込んだ観光経済

 新型コロナウイルスのまん延によって外国人観光客が急減しています。

 また、政府や地方自治体が不要不急の外出を自粛するよう要請したこともあり、日本人の国内旅行も大幅に減少しています。これらの影響で観光地の経済は一気に冷え込み、あちこちから悲鳴が聞こえてきます。

シンガポールに設置されているIR(画像:写真AC)



 第2次安倍政権が発足して以来、ビザの緩和・円安といった要因もあり、中国・韓国・台湾・香港などから多くの観光客が日本を訪問しています。

 当初、政府は2020年度までに訪日外国人観光客を2000万人にする目標を立てていましたが、政府の目標は軽々とクリア。想定外の活況に、政府は何度も目標を上方修正しています。現在、政府は2020年度の目標を4000万人としています。

「アフターコロナ」の観光立国とは

 新型コロナウイルスの影響で、2020年度の4000万人という目標を達成することは難しい情勢になっています。それでも、政府が観光立国を目指す姿勢に変化はありません。

 そのため、新型コロナウイルス禍の終息後に向けた動きが早くも見られます。そのひとつが、IRの誘致・整備に向けた取り組みです。

カジノの本場・ラスベガスの風景(画像:写真AC)

 2016年、国会でIR推進法が成立。2018年にはIR整備法が成立しました。これらの法案成立を受けて、日本国内でもIR開設の扉が開かれました。

 IRをめぐる議論は、カジノの是非が中心になっています。IRは「Integrated Resort」の略称で、日本語では「統合型リゾート」と訳されます。そうした言葉から考えれば、IRは決してカジノだけを意味するものではありません。

IRは全国に3か所まで

 それにも関わらず、「IR = カジノ」のイメージが広く定着しています。

 その背景には、IR関連法がうたう統合型リゾートが関連法案なしでも十分に実現可能だからです。ただし、カジノだけは関連法案なくして実現できません。そうした部分から、IRの本丸がカジノと捉えられるようになったのです。

 IR関連法が成立することで、カジノ開設の道筋がつけられました。とはいえ、IRを希望する自治体の要望をすべて受け入れることはできません。IRを希望する自治体すべてにIRを開設すれば、全国各地にIRが乱立してしまうからです。

急ピッチで進められる開発のイメージ(画像:写真AC)



 IRが乱立すれば、客の奪い合いが起きてしまいます。客の奪い合いが激化すれば、IRが共倒れする事態も想定されます。そうした共倒れが起きないように、政府はIRの開設数を調整する方針です。現状、IRは全国に最大で3か所までとされています。

 IRが全国で最大3か所に限定されたわけですから、開設を望んでいる自治体は誘致活動を必死になって展開するでしょう。

都はIR用地を湾岸エリアに確保

 IRの誘致・開設を積極的に取り組んでいる自治体はいくつかあります。東京都もそのうちのひとつですが、隣県の横浜市も有力候補地のひとつです。

 東京と横浜は距離的に近いため、両都市にIRが開設される可能性は極めて低いと考えられます。先述したように、両都市にIRが開設されると客の奪い合いが起きてしまうからです。

 東京都はIRという言葉が流布していない頃から、積極的にカジノ開設を働きかけました。

東京都庁(画像:写真AC)

 石原慎太郎都知事(当時)は、お台場に公営カジノの開設を検討。都庁の展望室で、プレイベントも実施しています。その流れを引き継いだ後任の猪瀬直樹都知事も、カジノを含むIRに前向きな姿勢を見せていました。

 東京都はIR用地を湾岸エリアに確保しており、GOサインが出れば迅速な整備が可能な状態なのです。

IR誘致に言及するようになった小池都知事

 しかし猪瀬直樹都知事が辞任した2014年、新たに就任した舛添要一都知事がカジノに後ろ向きな姿勢へ転じました。

 方針を転換したこともあり、東京は一時的にIR招致レースから後退。そのため、2014年以降は横浜と大阪がIR誘致のトップランナーを走ってきました。

 そして2016年、小池百合子都知事が就任。トップが交代したことでIRへの姿勢も変化するとの観測もありました。しかし、就任当初の小池都知事はIRに対する姿勢を鮮明にしませんでした。

小池百合子都知事。2020年1月撮影(画像:東京都)



 最近になり、ようやく小池都知事はIR誘致に言及するようになり、東京でもIR誘致の機運が再燃しています。

 東京と横浜はIRを誘致するライバルとしてしのぎを削っていますが、その横浜市は2020年代後半までにIR開設にこぎ着けたいとの青写真を描いています。

横浜市が広報動画公開、反対派を置き去りに

 IRに力を込める横浜市は、4月1日(水)にIR誘致に向けたPR動画を公開。約20分にも及ぶ長編動画は、横浜市の主張に沿う内容になっています。

「横浜イノベーションIR」の基本コンセプト。4月1日に公開された横浜IRの広報動画から抜粋(画像:横浜市)

 動画の内容は反対派の市民を置き去りにしている感が否めませんが、横浜市は動画を公開することでIR誘致に弾みをつけようとしています。

 観光立国を目指すわが国において、観光産業の活性化やインバウンド需要の創出・拡大は最重要課題といえます。横浜市の動きは、ライバルの東京を刺激することにもなるでしょう。現在、東京はIRに対して活発な動きは見せていません。

 それだけに、横浜市の動画公開によって東京はどんな反応を見せるのかが気になるところです。

 過熱するIRの誘致合戦は、東京都民や横浜市民のみならず旅行業界や観光産業に関連の深い諸団体・関係者からも注目が集まっています。

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