「20匹以上の子猫が道端に……」 突然のレスキュー要請と男性が流した涙のワケ

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「20匹以上の子猫が道端に……」 突然のレスキュー要請と男性が流した涙のワケ

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山本葉子

東京キャットガーディアン代表

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保健所や動物愛護センターなどから猫を引き取り、飼育を希望する人に譲渡する活動を続ける「東京キャットガーディアン」(豊島区南大塚)代表・山本葉子さんが、保護活動の一端を紹介するとともに命の重みについて問い掛けます。

ある朝かかってきた、1本の電話

 暖かくなって、桜も咲いて、何かムクムクと生き物の気配が強くなってくる季節。子猫たちをあちこちで見つけてしまう時期でもあります。

 行き場のない猫たちを引き受けて、ケアをして、新しい里親さんへつなぐ「猫のシェルター」を運営している私(山本葉子。東京キャットガーディアン代表)たち。保健所などの行政機関や一般の方からの猫の受け入れを通年行っており、この時期は相談の電話が急増します。

 男性の声で「通勤途中に子猫をたくさん拾ってしまいまして」と電話をいただいたその日は、急に寒さがぶり返していて、外は大人の猫でもつらいだろうと思うような天候。……え? 子猫が……たくさん?!

東京キャットガーディアンが保護した子猫たち(画像:東京キャットガーディアン)



 きょうだいの子猫たちを保護してくださったのかなと聞き返すと「動き回るので正確には数えられないけど、20匹くらい」とのお返事。大変です。

 お互い慌てている時のヒアリングはなかなか思うように進みません。まずは子猫たちの健康状態が一刻を争うようなものかどうかを確認したいのですが、男性は自身で動物を飼ったことがない様子です。私たちの会で引き取る前提で少しずつ会話を進めます。

まず確認しなければならないこと

「猫たちは元気そうですか?」
「えーと、動いてます。あ、動いてない子もいる」
(全部の猫に触って、温かいかどうか確認してもらう。大丈夫そう)

「へその緒はついてますか?」
「ついてないです」
(生まれたてではないということが分かり、ひと安心)

「頭からお尻まで何cmくらいでしょう?」
「大きい子で僕の靴くらい、一番小さい子はその半分かなぁ」
(男性の足のサイズは24cmとのことでした)

「目は開いていますか?」
「開いてる子と開いてない子がいます」
(目やになどで目がふさがっている子もいる様子)

東京キャットガーディアンが保護した子猫たち(画像:東京キャットガーディアン)



 子猫用のフードについてざっと説明。食べさせ方も話して、その間にもピーピーと聞こえる鳴き声が、周りの騒音で定期的にかき消されます。列車の音。電話場所は東京都内にある大型駅の高架下でした。猫たちは小さめのダンボール3個に分けて入れられていて、元気の良い子が次々飛び出しそうになっているというのです。

「連れて来れますか?」とお聞きすると「会社に行く途中なので今すぐには向かえません。退社後に」との返答。動物病院などに一時預かりを頼んではどうかと提案もしたのですが、始業時間に間に合わないようです。

 男性は大変丁寧な口調でしたが、時間が切迫しているせいでしょう、「とにかくまた後でかけます」と、電話はそこで切れてしまいました。

次々と寄せられた善意の申し出

 こうなると、次に電話がかかってくるまでの間にできることと言ったら「気をもむ」だけです。想像は悪い方へ悪い方へと向かいます。ご飯が食べられただろうか? 下痢や吐き気などはないのだろうか? さっきは温かいと言っていたけど低体温になっていないだろうか……?

 お昼が過ぎて午後になって日が陰ってきて、いろいろ手につかなくなっていたたまれなくなった頃に、再度電話はかかってきました。

「(シェルターの最寄り)駅に着きました。改札出るところです」
「わっ、もうそんなに近くにですか?」

 シェルターはちょうど夕ご飯タイム。スタッフたちが走り回って給餌と投薬、ケアに当たっている時間です。駅からシェルターまでは徒歩で3分ほどなので、私が彼を駅まで迎えに行き一緒に歩いて戻ってこようと、急いで向かいました。

東京キャットガーディアンが保護した子猫たち(画像:東京キャットガーディアン)



 最初に目に入ったのは黒山の人だかり。駅前です。何が起きているのかすぐには分からずに、ざわざわしながら近づいていくと、人の群れの真ん中に小柄な男性が立っていました。

 30代前半くらいの、スーツ姿の男性でした。大きな段ボール箱を抱え、彼は笑顔ながら困惑しているように見えました。ピーピー子猫の大合唱。それを聞いて集まった周りの人から、数分の間に次々と一時保護や里親希望のお申し出が続いていたのです。

男性が流した、2種類の涙

 それは不思議な光景でした。まるで良いことと良い人しか存在しないような空間。集まってくれた方々にざっと経緯とお礼を伝え、保護直後なのでシェルター内の病院でのケアを先に行う旨も説明しました。

 周囲がいったん落ち着いてから彼と一緒に歩き出すと、後ろから「頑張れー」「バイバイ、良かったねー」と声がかかって、そして何かがパラパラとはじけるような音が響きました。拍手でした。

 男性は、必死に抑えていましたがうれし泣きしてしまって、ふたりで支え合いながらシェルターに着きました。

 子猫たちは全部で21匹。大きさ・顔つきなどから、きょうだいをグループ分けして5家族。早速ご飯とふさがっている目のケアをスタッフが手分けして行います。全員食欲あり! 大丈夫そう。

 ありがとうございます、大変でしたね……と、男性に声をかけました。するといったん収まっていた涙がまた。ただ、彼がそこからポツポツと話してくれた内容はつらいもので、さっきの駅前の涙とは違うのだと気づきました。

東京キャットガーディアンが保護した子猫たち(画像:東京キャットガーディアン)



 朝、高架下で鳴き声に引き寄せられて子猫たちを見つけてから、小一時間悩んでいたそうです。でも「やっぱり放っておけない」と、受け入れの当てを探して必死でスマホ検索。保護団体(私たちの会)に何とか連絡をつけ、段ボール3箱を抱えてタクシーで会社へ直行。

 拝み倒して管理人室に子猫たちを置いてもらい、お昼休みをジリジリしながら待って、コンビニに「猫缶」を買いに走る――。

 それらを上司の方が快く思わなかったようです。どんな言葉を投げつけられたのか、詳しくは話してはくれませんでしたが、彼を庇(かば)ってくれた同僚たちもろとも「1日中針のむしろ」だったそうです。

小さな行動が、猫の命を救うということ

「でも、1日の終わりに良い結果でよかったです」
「はい」
「人間、捨てたもんじゃないですね」
「はい」

 21匹は皆、4週齢以降くらい。やせておらず、直前までエサを与えられていたようでした。また目立った汚れもなかったことから、室内飼育されていたのではないかと考えられます。

 避妊去勢手術をしないままの飼い猫たちが子猫を産んで、「家ではこれ以上飼えない」と考えた飼い主が外に捨てていってしまったのかもしれません。

東京キャットガーディアンが保護した子猫たち(画像:東京キャットガーディアン)



 子猫と出会う。関わったらつらいこと、費用がかかるかもしれないこと、大変な努力が要ること、そして報われない結果になるかもしれないこと。

 でも助けたいと思ったら、行動してほしいのです。春、子猫たちが姿を見せる時。手を貸してあげられない理由を探すより、今は温かい場所に保護して、おいしいご飯を与えたら、猫もきっとうれしいはずです。最終的に、自分が望んだ結果が得られても得られなくても、人が泣くのは後からで良いのです。

 彼が助けてくれた21匹の子猫たちは、今それぞれの新しい家族と一緒にお家で暮らしています。

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