新型コロナに東京は持ちこたえられるか? 統計のプロが厚労省データを冷静に読み解く

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新型コロナに東京は持ちこたえられるか? 統計のプロが厚労省データを冷静に読み解く

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本川裕

統計データ分析家、統計探偵

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感染拡大が続く新型コロナウイルス。東京で「感染爆発」は起こるのか、統計データ分析家の本川裕さんが、データを基に首都の現状を読み解きます。

東京における感染者の急増をどう見るか

 東京都が日ごとに発表する新型コロナウイルス感染者が、それまでの20人以下から、2020年3月25日(木)から3日間、毎日40人を超え、28日(土)には63人、29日(日)には68人に達しました。感染者の中には、台東区の永寿総合病院の院内感染とともに感染経路不明の人数が多かった点に注目が集まりました。

 こうした動きの中で、東京都の小池百合子知事は、25日に緊急記者会見を行い、東京の状況を「感染爆発 重大局面」と位置づけ、都民に対し平日の在宅勤務、週末の外出自粛を呼びかけました。翌日には、埼玉、千葉など東京圏の知事からも東京との往来自粛要請のメッセージが発せられました。要請の中では感染の発見が難しい、若年層の慎重な行動が特に求められました。

新型コロナウイルス感染拡大のイメージ(画像:写真AC)



 こうした動きの中で、新聞・テレビでも報じられたように、首都圏の繁華街や花見名所において、28~29日の土日は普段とは比較にならないほど人出が少なくなりました。

 首都東京におけるこうした動きにより、今後、感染経路を追えない感染者がさらに増加して、イタリアのような患者の増加に医療が追いつかない感染爆発に至るのではなかろうかという不安が高まっています。

 東京で感染爆発が起きるかどうかを直接データで示すことは困難ですが、ここでは、厚生労働省が公表している統計情報から、東京をめぐる感染の状況について、気になる基本的なデータを整理しておきます。

人口10万人当たりの感染者数は

「表1」には、厚生労働省が全国から感染者情報を集めて整理している「症例一覧」を集計して、これまで確認された、感染者数の多い都道府県がどこかを整理しました。順位は、実数と人口10万人当たりの両方を掲げました。

「表1」感染者の多い都道府県(画像:本川裕)



 全国の中で、東京で確認されている感染者数が最も多い点が繰り返し報道されていますが、人口も1300万人と全国一多いので当たり前の側面もあります。

 そこで人口10万人当たりの感染者数を算出してみると、北海道が3.22人と最も多く、東京は1.65人と全国平均の1.06人よりは多くなっていますが、全国順位は6位とそれほど高いわけではありません。

 順位の高い都道府県は、東京、大阪、愛知といった大都市圏中枢部と北海道や大分、和歌山など感染拡大が目立っている特定地域とから構成されています。東京だけが特別という訳ではなさそうです。

 最近になって東京における感染者数が急拡大してきている点が気になります。

 そこで次の「図1」には、「表1」と同じ厚生労働省のデータで感染確定日別の累積感染者数の動きを主要地域別に表しました。新聞・テレビで報じられているのは、各自治体が公表した患者数であり、今日は何人確認されたかという「判明日」別にグラフが作成されていますが、ここでは「感染が確定された日」ごとの数字で追っています。

東京・北海道・愛知・大阪を比較

 この推移を見ると、確かに、東京の感染者数の拡大は、これまで感染拡大が目立っていた北海道や愛知などを3月下旬から抜き去る動きを示しており、東京での感染爆発が懸念されるのももっともだと感じさせます。

「図1」主要感染地域の感染者数推移(画像:本川裕)



 しかし、人口10万人当たりの感染者数の推移を見ると、東京や大阪は最近伸びが著しい点は確かですが、まだ、北海道や愛知ほどのレベルに達した訳ではないことが分かります。

 また、イタリアのロンバルディア州では同指標が390人というレベルに達しているのと比較すると、なお「都市封鎖」という状況には遠いと言わざるを得ません。

 東京都が外出自粛を要請した25日に小池百合子知事は「行動力のある若い人は感染している自覚がないまま活動する」可能性が高いと警鐘を鳴らし、人々が多く集まる場所には出向かないよう呼び掛けました。

 そこで、若者が感染を広げる可能性が高いかに関するデータを確認してみよう。

 まず、年齢別の感染者数、重症・死亡者数のデータを次の「図2」に掲げました。韓国の例とも比較しています。

若者層が感染を広げる懸念は大きいか

 3月28日までの感染者数は50代が271人と最も多く、それ以前、それ以後では少なくなります。一方、重症者・死亡者は80歳以上が41人で最も多くなっています。さらに死亡者だけの人数でも80歳以上が31人と最も多くなっています。80歳未満の死亡者の実数は70代では18人、60代、50代ではそれぞれひとり、その他はゼロ人となっています。

 死亡者数を感染者数で除したいわゆる「致死率」を計算してみると、80歳以上では20.7%と5人にひとりであり、60代以下ではほとんどゼロに近くなります。

 このように、明らかに、インフルエンザと同様、感染のリスクは超高齢者で特に高いことが分かります。

 少なくとも現在までの日本の場合では、若い世代は自分が感染すること自体は恐れることはなく、むしろ動き回らず、身近な高齢者や社会全体に感染を広げないようにすることが重要だということが分かります。

「図2」新型コロナウイルスによる年齢別の感染者数・死亡者数(画像:本川裕)



 感染者数や死亡数の年齢構成は、韓国も日本と似ています。ここでは掲げていませんが中国湖北省のデータも日本と同じパターンです。インフルエンザとも共通する新型コロナウイルス感染症の特徴と言えるでしょう。

 ただし、韓国の場合は、日本や中国と異なり感染者について20代がやや突出して高いことが分かります。

 これについて、韓国の新聞「朝鮮日報」日本語版(2020年3月23日付)は「怖いもの知らずの青春」というタイトルで20代の感染者が多い点を次にように報じています。

「20代の感染者が全体の29%を占め、世界的に見ても非常にまれなケースであることが分かった。これは、大邱地域の新興宗教団体「新天地イエス教」の若い信者だけでなく、全国的な現象だった」。

 これについて感染症の専門医師は、「若者たちは社会的距離を置くなどの感染症予防に消極的で、社会活動が多い若者層が、親や祖父母に家族内二次感染を引き起こす形で広がるケースが多いことが確認された」と語ったといいます。

 すなわち、韓国の若者と同様のことが若者の多い東京でも起きている、あるいは起きるのではないかという点が懸念されている訳です。

 この点に関する参照データを得るために、次の「図3」に、感染者に占める、20代以下の比率の推移を全国と東京に関して掲げました。

韓国との数値比較で見えてくること

 このデータを見ると、確かに東京では若者の感染が最近増えており、懸念される状況にあることが分かります。

 しかし全国の値と比べて、特段高いところまで行っていません。「図2」における韓国の感染者に占める20代以下の割合は33.3%であるのと比較すると、その半分以下の割合を維持しています。

「図3」東京には若年層の感染者が多いか(画像:本川裕)



 日本と韓国ではPCR検査を受ける人の数が大きく異なるのでその影響もあるでしょうが、こうしたデータを見ると日本の若者がそれほど特に危険な行動をしているとも思えません。

「図3」の厚生労働省のデータにはまだ十分に反映されていないと思われる東京都の最新の公表データ、3月25日~29日分について集計してみると、感染者総数256人のうち20代以下は43人、割合にして16.8%となっています。

 さらに上昇の傾向が認められますので、東京都知事が勧告しているように、若者の行動に一層の自重が求められることは言うまでもありません。

東京の医療体制は大丈夫か

 東京で感染爆発が起こるかどうかについて、データに基づいた確実な予想は難しいと思います。

 これまで見てきたように、東京が極端に危険な状況にあるとも思えませんが、もしかしたら、患者数が医療の受け入れ能力を超えてしまうことによって生じる「医療崩壊」が起きているイタリアやニューヨークのような状況に近づくかもしれません。

 そこで最後に、感染者がこれまで以上に増加したとしたら、東京の医療体制は持ちこたえられるのかについての基礎的な情報として、病床数と医師数の人口当たりの水準を県間比較したデータを「図4」に掲げておきました。

「図4」東京の病床数や医師数に余裕はあるか(画像:本川裕)



 人口当たりの水準については、総人口当たりの水準と65歳以上となる高齢人口当たりの水準の両方を掲げました。

「図2」で見たように、新型コロナウイルスの患者の中でも医療的なケアを必要とする者は高齢者にかなり片寄っています。従って、一般的な指標である総人口当たりというよりは、高齢人口当たりの水準が新型コロナウイルスへの対応力としては重要だということになります。

 東京の病院の病床数は人口当たりではあまり多くはありません。これは東京圏や中京圏の都県に共通する特徴です。もっとも高齢人口当たりでは、東京の高齢化はそれほどでないためもあって全国平均並みの水準にはなっています。

 一方、医師数については総人口当たりについても高い水準ですが、高齢人口当たりでは全国一の高さとなっています。つまり東京はお医者さんが多いのです。

 これだけで安心できる訳ではありませんが、東京人にとっては、多少、心強く感じられるデータではないでしょうか。

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