人間にとって本来「心地よい」場所とは? 東京都「外出自粛要請」のなか考える

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人間にとって本来「心地よい」場所とは? 東京都「外出自粛要請」のなか考える

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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新型コロナウイルスの影響で社会が息苦しくなるなか、「メンタルマップ」「サードプレイス」という概念で自分と向き合おうと、法政大学大学院教授の増淵敏之さんは訴えています。

外濠からの美しい眺め

 2020年も桜は開花しましたが、新型コロナウイルスの影響で外出する機会がなかなかありません。

東京の街並みのイメージ(画像:写真AC)



 筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)の勤務する学校が近い外濠(そとぼり)公園は観桜の定番スポットです。日を浴びてきらめく濠の水と、桜のコントラストが魅力的に映っています。

 最近、新見附橋(新宿区市ヶ谷田町)から飯田橋方面を見渡すと、視野を遮断していた木々が伐採されて、堀の中にあるレストラン「CANAL CAFE(カナル カフェ)」(新宿区神楽坂)まで見渡せるようになりました。

 職場がある市ヶ谷は東に神楽坂があるので、飯田橋方面にしばしば足を向けます。反対の四谷方面にはほとんど行きません。そのため筆者の捉える市ヶ谷かいわいは、メンタルマップでいうと、飯田橋方面に広がっているということになります。

メンタルマップとは何か

 メンタルマップとは、自らの行動範囲について記憶を基に地図化する作業のことです。例えばメンタルマップを自由に描いてみると、そこには書き手の持つ「空間的知識の広がり」が反映されます。

 例えば自分の職場が都心部にあると仮定すると、手書き地図には都心部から居住地に向けて扇型の範囲で地図が描かれる傾向が強いといわれています。

新見附橋(新宿区市ヶ谷田町)から飯田橋方面を望む(画像:(C)Google)

 練馬在住の筆者であれば、市ヶ谷から練馬方面、つまり渋谷や新宿、池袋ということになります。確かに日常で銀座や日本橋、上野、浅草は用がない限り足を運びませんし、青山や六本木も同様です。メンタルマップはようするに、自分の「生活圏」ということになります。

 おそらくその範囲に行きつけの場所、習いごとをする場所、買い物に行く場所などが点在しているのだとも思います。もちろん「心地よい」場所や風景のきれいな場所という個人にとっての特別な場所もあるのかもしれません。

練馬区桜台から板橋区桜川までのエリア

 さて練馬かいわいの桜の名所といえば、千川通りの桜並木です。春になると、その通りを毎年歩きます。

千川通りの夜桜(画像:写真AC)



 このかいわいの地名は練馬区桜台です。地名の由来は、桜台駅から取ったものだと言います。さらにこの駅名の由来は、1915(大正4)年に行われた大正天皇即位の記念に植えられた千川上水の桜並木があったためだとされています。なお駅の開業は、1936(昭和11)年です。

 聞いた話によると、氷川台駅の近くを流れる石神井川の桜並木も見事で、川に沿って約1000本の桜が植えられているといいます。

 この桜並木は開進橋(練馬区氷川台)からとしまえん(同区向山)まで続いており、また逆方向の練馬区から板橋区にかけて広がる都立城北中央公園まで続いているようです。なおこの桜並木は、1934(昭和9)年の昭和天皇誕生記念で植えられたものとされています。

 その先は板橋区になり、地名は桜川となります。このかいわいの一部が1932年、板橋区の一部になり、桜川となりました。地名の由来は石神井川沿いの桜並木から来ているそうです。

 桜台から桜川にかけての一帯は、東京の隠れた桜エリアのスポットのひとつなのです。

「サードプレイス」とは何か

 皆さんは、米国の社会学者のレイ・オルデンバーグが提唱した「サードプレイス」という概念をご存じでしょうか。

レイ・オルデンバーグの著作『サードプレイス』(画像:みすず書房)



 サード(3番目)ですから当然、ファーストやセカンドもあります。概念の意味は、次の通りです。

・ファーストプレイス:家
・セカンドプレイス:職場
・サードプレイス:ふたつの中間地点にある第三の場所

 オルデンバーグはこのサードプレイスが、当事者にとって「心地よい」場所になっていくと述べています。例としてフランスのカフェやイギリスのパブを挙げていますが、日本流に言えば「行きつけの店」ということでしょうか。

 彼はサードプレイスを、都市生活者にとって「良好な人間関係を提供する重要な場」であるとし、その特徴として次の6点を挙げています。

・無料あるいは安い
・食事や飲料が提供されている
・アクセスがしやすい、徒歩圏内
・習慣的に集まってくる
・フレンドリーで心地よい
・古い友人でも新しい友人でも見つかるところである。

 オルデンバーグは集まってくる人々にとって、サードプレイスが「心地よい」場所であることが重要という指摘をしています。

「行きつけの店」はマップの上ではひとつの「点」になります。この「点」を基礎として、かいわいという「面」がイメージ上に作られます。これが自分のメンタルマップ形成につながっていくのです。

 氷川台や桜台、桜川の桜も、筆者のメンタルマップのなかでは「心地よい」特別な場所になっていきます。そこは「行きつけの店」といったコミュニティースペースではありませんが、自分との対話を楽しむ、自分だけのサードプレイスになっているのです。

 古い友人も新しい友人も見つからないかもしれませんが、新しい自分に出会うことができるのかもしれません。また折を見てそぞろ歩きができればと思っています。

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