700体の「ひな人形」で出雲・因幡の神話を再現 ホテル雅叙園東京の「百段雛まつり」とは

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700体の「ひな人形」で出雲・因幡の神話を再現 ホテル雅叙園東京の「百段雛まつり」とは

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立花加久

フリーライター

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3月15日まで「ホテル雅叙園 東京」で行われている「百段雛まつり2020 出雲・因幡・萩ひな紀行」を、フリーライターの立花加久さんが取材しました。

来場者数は延べ60万人超

 七つの部屋を99段の階段でつなげた「ホテル雅叙園 東京」(目黒区下目黒)の「百段階段」で、ひな人形の展覧会「百段雛まつり2020 出雲・因幡・萩ひな紀行」が3月15日(日)まで開催されています。

 2020年で11回目を迎えるこの展覧会は、日本各地にある歴史的かつ文化的価値のあるひな人形が集まる全国的にも珍しい展覧会で、これまでの来場者数は延べ60万人を超えます。

「漁樵の間」に飾られている「座敷雛」(画像:立花加久)



 今回は幕末や明治維新の志士たちを生んだ中国地方から、主に江戸から明治にかけて生まれた貴重な文化財的人形が出展されています。

 七つの部屋を下から順番に訪れ観覧するという、独特な空間で繰り広げられる人形絵巻は素晴らしいのひと言です。

炭坑王の「座敷雛」に驚く

 中でも圧巻は、日光東照宮(栃木県日光市)の美術彩色をほうふつとさせる柱や梁(はり)に囲まれた「漁樵(ぎょしょう)の間」に飾られている「座敷雛」です。

「座敷雛」は明治時代に栄華を極めた、福岡県飯塚市の炭坑王・伊藤伝右衛門(1861~1947年)の旧宅の広間で毎年飾られていたひな飾りを再現したもの。

福岡県飯塚市の位置(画像:(C)Google)

「座敷雛」そのものは愛媛県の八幡浜の発祥ですが、飯塚市の「座敷雛」は毎年お題を決め、壮大に飾り付けるのが特徴です。ちなみに今回は、698体もの人形が出雲や因幡の神話の世界を彩っています。

 海外からの来館者も多い人形展の壮大な人形絵巻に、言葉をなくし感涙する人も少なくないと言います。私も眺めているうちに、遠近感覚が次第にあやしくなり、心地よい没入感に包まれました。

目黒なのにアモーレ! カンターレ! マンジャーレ!

 そんな非日常的なひな人形のパノラマ世界の次に訪れたのは、お座敷宴会が執り行える「草丘(そうきゅう)の間」とい名の大広間です。

雛のしつらえ(画像:立花加久)



 ここでは先ほどとは打って変わり、部屋の照明を落として窓からの外光を取り込んだ落ち着いたムードです。部屋の真ん中にあえて洋風の長テーブルを置き、「雛のしつらえ」と名付けた現代の生活スタイルの中で、ひな人形の楽しみ方を提案する展示スペースとのこと。。

「イタリア語のアモーレ! カンターレ! マンジャーレ!ーー愛して、うたって、食べての要素が全てそろっているのがおひなさまなんです」

と語るのは「雛のしつらえ」を監修した、インテリアコーディネーターの石橋とみ子さんです。まさにここは、ポジティブに生きる現代女性のためのパーティー会場といった趣です。

ひな人形の歴史は、平安時代から

 ひな人形の歴史は、平安時代にさかのぼります。人型をかたどった紙を川に流し、自分や家族に降りかかる災いをはらったそうで、陰陽師(おんみょうじ)の儀式にも通じます。なお陰陽師とは、国家や天皇家を呪術で守護したとされる官職です。

 今回の人形展でも、鳥取県に伝わる郷土行事「流しびな」として紹介されていました。

流しびな(画像:立花加久)

 ひな人形がまとう美しい柄の着物や、その細部にわたる精緻な装飾品や道具類は、世界に誇る日本の伝統工芸です。

 日本人がこれほどまでに人形に精緻なリアルさを求め続けた本来の理由は、身代わりになってもらうにふさわしい説得力を人形のビジュアルに持たせるためだったのかもーーと想像してしまいました。

ひな人形の現代的な楽しみ方とは

 そんな身代わりのための人形も近代に入ると、現在とほぼ変わらぬひな壇の形に修練され、新たな役割を担うことになります。それは、道具立てやおもてなしの様式を学ぶための女子教育の教材としての役割でした。

「陰影礼賛して影を楽しんだり、窓からの借景を利用したり、マンションの白い壁に飾ったりして、ひな人形のしつらえをひな祭りにこだわらず、日常生活に生かしてみることは心を豊かにしてくれるはずです。小ぶりのひな人形をお部屋に飾ったりするのはいかがでしょうか」

と、石橋さんは時代とともに変遷を重ねてきた、ひな人形の現代的な楽しみ方を提案します。

 最近は成人女性が自分のためにひな人形を買う「マイ雛ドール」が静かなブームとか。中でも多いケースは、初節句の孫のひな人形を買うついでに祖母が自分のひな人形を購入するというものです。

 時代とともに変化する女性のあり方は、これまでのひな人形のあり方も変えているようです。

 自分たちの幸せを、こんな小さな人形に託し続けて来た日本人の思いを感じた今回のひな人形展。あなたなら、どのような思いを託しますか?

 会期中は無休。開催時間は10~17時。当日券は大人1600円、大学生・高校生1000円、中学生・小学生600円。

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