母娘ふたりで紡ぎ出す、亡き主人の本物の中華味 十条「玉屋」のラーメン【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(11)

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母娘ふたりで紡ぎ出す、亡き主人の本物の中華味 十条「玉屋」のラーメン【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(11)

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下関マグロ

サンポマスター、食べ歩き評論家

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都内散歩と食べ歩きにくわしいフリーライターの下関マグロさんが、都内一押しの「マグロ飯」を紹介します。

仙人のようにストイックなラーメン作り

 散歩の途中にその外観を見て、ぜひ行こうと思っていた町中華があります。色あせたのれんがなんともすてきな「玉屋」さん(北区十条仲原)です。

 JR十条駅から十条銀座商店街を抜けるとアーケードがなくなり、富士見銀座商店街となります。商店街は少し上り坂で、もうすぐ環七だというところにあるのが玉屋さんです。

本中華(醤油味)750円 やさしいスープにお肉も野菜もたっぷりでボリュームがあります(画像:下関マグロ)



 玉屋さんは1957(昭和32)年、田沼昭三郎さんによって創業されました。人気のメニューは「仙人ラーメン」。ちょっと変わったネーミングですが、昭三郎さんのラーメン作りに向かう姿が仙人のようだといわれるようになり、そこからつけられたのだそうです。

 当時は35円だったこのラーメン、現在は600円と価格は変わりましたが、その味は変わっていません。豚骨と鶏ガラのスープに煮干しやかつお節を合わせたいわゆるダブルスープです。レンゲでスープをすくうと透き通った黄金色がなんと美しく、いただいてみるとやさしさのあとに、奥深いうまみがやってきます。

 チャーシュー、刻みネギ、小松菜、メンマ、ナルト、ゆで卵といった具材が昔ながらのラーメンというビジュアルも泣かせますね。

 創業から2年後に志津江さんが嫁いできました。昭三郎さんは、日々ラーメンの味見をしていたそうですが、これを志津江さんにもさせていたそうです。

 3人の子どもを設け、いいときも悪いときも夫婦で乗り越えてきましたが、2016(平成28)年に昭三郎さんは88歳で亡くなります。

先代が「これぞ中華」との自負で命名

 その後、娘の千佳さんが店を手伝うようになって、現在は母娘のふたり体制で、以前よりメニューを絞って営業しています。志津江さんによれば、

「ラーメンなどの料理は主人から直接教えてもらったわけではないんです。ただ、いつもそばで見ていたし、毎日味見をしていたので、程なくご主人の味にたどりつけました。そのときは、ああ、これだったんだ、って感動しましたよ」

とのこと。

富士見銀座商店街の坂の途中にある「玉屋」さん、その店舗ファサードはなんともノスタルジック!(画像:下関マグロ)



 最初にいただいたのは仙人ラーメンと小カレーのセットでした。ラーメンもカレーもとにかくおいしいわけですよ。食べながら、メニューを見ているとカレーラーメンがありました。ラーメンもカレーもおいしいのだから、カレーラーメンも間違いなくおいしいはずです。次はカレーラーメンをいただきました。もちろん、おいしいわけですよ。その後もいろいろなメニューをいただきましたが、どれも間違いありませんでした。

 先日、玉屋さんののれんを久しぶりにくぐりました。消費税が上がったことで、550円だった仙人ラーメンが600円になっているのはいたしかたないとはいえ、これでも十分にお安いと思います。

 と、見たことのないメニューがありますね。「本中華(醤油味)750円」とありますよ。まさか、ハウス食品のインスタントラーメンじゃないですよね。大橋巨泉が「なんちゅうか、本中華」ってテレビCMやっていたのを思い出しましたよ。

 志津江さんに聞けば、「主人がいたころに出していたメニューなんです。野菜をいっぱい入れたラーメンがほしいというお客さんの要望に応えてできたそうです。まだタンメンもない頃で、味はしょうゆと塩が半々なんです。主人がこれぞ、本物の中華っていうことで、本中華と名付けたそうです」とのこと。

 で、いつ頃から提供されていたんでしょうか。「そうねぇ、私が嫁いできたときにはもうありましたよ」とのことです。それじゃ、本中華をいただきましょうか。

先代のメニューを復活させたい

 お肉も野菜もたっぷりですね。しょうゆと塩が半々ということですが、思った以上にソフトタッチでやさしいスープです。また、野菜のうま味がスープにしみ出て、深いうま味を感じますね。本中華はなぜ復活したんでしょうか。

右が店主の田沼志津江さん、左が娘の千佳さん。母娘のコンビでお店を切り盛りしています(画像:下関マグロ)



 娘の千佳さんによれば「復活したいメニューはまだあるのですが、混雑時に対応できるか不安なので少しずつ増やしていこうと思っています。本中華はタンメンのつくり方と似ていて、手間は同じなので復活しました」

 なるほど、メニューに入ってよかったぁ。できれば、もっといろいろ復活してほしいですね。また、食べに行きますよ!

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