IR推進か抑止か? 経済と治安の間でゆらめく東京都のこれまでを振り返る

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IR推進か抑止か? 経済と治安の間でゆらめく東京都のこれまでを振り返る

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小川裕夫

フリーランスライター

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大きな経済効果が強調される一方、治安悪化や依存症などのリスクがつきまとうカジノを含む統合型リゾート(IR)。そんなIRについて、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

2016年12月にIR推進法が成立

 2020年、年明け最初の国会が1月20日(月)に召集されて開会しました。今国会で議論されなければならない政治課題は多々ありますが、中でもIR法案に注目が集まっています。

 訪日外国人観光客が急増し、観光産業の発展を促すためにも腰を据えた観光政策は必要で、そうした観点からIR整備の必要性が説かれています。

 IRは「統合型リゾート」を意味する用語で “カジノ”だけを意味するものではありません。しかし、IRはカジノ解禁を含むことが前提になっているため、その是非を含めてカジノが主に論じられることは仕方がありません。

カジノのイメージ(画像:写真AC)



 金銭を賭したギャンブル場は、競馬・競輪・競艇・オートレースなど、国が公認した公営競技だけで認められています。これらに加え、カジノに関しても2016年12月にIR推進法が成立して開設への道筋がつけられました。

 IR推進法が成立する以前から、さまざまな自治体がカジノ誘致に手をあげていました。カジノが開設されれば、多くの外国人観光客が街を訪れるため、経済効果が見込めます。また、カジノ建設に関連した建設業や宿泊業、IRに併設される劇場などでのエンターテインメントや飲食業なども活性化します。

 そのほか、周辺のレストランなどもにぎわうことが想定できますし、アクセスするための鉄道・バスといった公共交通インフラの整備も進みます。

 今般、地方の都市は人口減少・少子高齢化が顕著になり、過疎化が進んでいます。日本経済全体も停滞気味です。地域を活性化する起爆剤として、めぼしい産業がない市町村が停滞を打破するためにカジノを誘致しようと動くことは不自然な話ではありません。

誘致をにおわせる小池都知事

 しかしIRの建前では、あくまでも外国人観光客をターゲットにしています。そのため、政財界では外国人観光客が足を向けにくい地方都市よりも、東京・大阪といった大都市圏に開設するべきとの空気が支配的になっています。

 石原慎太郎都知事(当時)は、まだIR議論が本格化する前から東京都の調査費として年間1000万円の予算をつけていました。そして、2002(平成14)年には都庁の展望室でカジノのプレイベントを実施しています。

 石原都知事の旗振りもあり、東京都はお台場の近くにカジノ用地を確保。カジノ開設の急先鋒(せんぽう)と目されていました。東京都のカジノ開設の方針は、後任の猪瀬直樹都知事にも引き継がれます。

カジノ構想が持ち上がっていたお台場(画像:写真AC)



 しかし、2014年に就任した舛添要一都知事は、カジノ開設に消極的な姿勢に転じました。2016年の就任当初、小池百合子都知事はカジノに言及することはほとんどありませんでした。2019年頃から、ようやくカジノに関する発言も出てきています。小池都知事は、誘致をにおわせる発言をしています。

 東京圏では、ほかに神奈川県横浜市や千葉県千葉市などがカジノ開設に意欲を見せています。横浜市の林文子市長はカジノに対して慎重な姿勢を取っていましたが、2019年になって方針を変更しています。

 一方、当初から一貫して誘致に力を入れているのが大阪市です。今般、関西国際空港から入出国する外国人観光客は増えています。関西に足を運ぶ外国人観光客には京都・奈良といった歴史ある都市が人気になっていますが、大阪の人気も高く、そのために大阪でも外国人観光客による経済活性化への期待が大きくなっています。

 また、2025年には大阪万博の開催が決まり、今後も外国人観光客の増加が見込めます。そうしたことから、大阪ではカジノによる経済効果を期待して開設を強く働きかけているのです。

カジノ開設で治安悪化の懸念も

 カジノを含むIR議論は粛々と進められていましたが、2019年12月に風雲急を告げる事態が発生します。内閣府副大臣でIRを担当していた秋元司議員が、中国企業からIRへの便宜を受けていたことで外為法・収賄容疑で逮捕されたのです。

 現役の国会議員が逮捕されるという衝撃的なニュースを受け、IR誘致を目指していた千葉市はIR誘致の断念を表明。IR撤退の動きは、ほかの自治体にも広がりを見せています。

治安悪化のイメージ(画像:写真AC)



 その一方、再び招致レースに加わった東京都はカジノ開設への意欲を絶やしていません。2020年には東京五輪が開催されるため、これまで以上に外国人観光客が東京を訪れることが予測されます。そうした事情を踏まえれば、東京都は五輪開催までにカジノを開設しておきたかったと考えていたはずです。

 今国会でIR議論も本格化すると予想されますが、現職国会議員の逮捕もあって議論に影響が出ることは間違いありません。仮に熟議の末に東京にカジノが開設されることが決まっても、五輪開催までには間に合いません。それだけに、早急に答えを出すことに意味はありません。

 カジノが開設されれば、付近の住民は治安や街の美化が気になるでしょう。観光振興や経済活性化という観点だけではなく、多方面から腰を据えた議論が望まれています。

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