戦前の大横綱「双葉山」が敗れた日――両国の石碑に面影をたどって

大相撲初場所が真っ盛りのこの季節、思い出す取り組みがあるとノンフィクション作家の合田一道さんが振り返ります。新聞が号外を出すほどに世間を驚かせた、昭和の大番狂わせの一番です。


初入幕の安芸ノ海が勝負後に打った電報

 藪入りというのは、奉公人が年に一度休みをもらい、晴れて実家に戻る日です。驚かれる人も多いでしょうが、当時は子守とか女中などといって、職業ともいえない 「おてつだいさん」 のような人が大勢いたのです。

 双葉山は初日から3日間勝ちっぱなしで、前人未到の69連勝。この日の相手の安芸ノ海は前場所に初めて入幕を果たした新鋭です。

 この取り組みに勝つと節日の70連勝に達するので、観衆は大きな期待を寄せ、盛んな声援を送りました。

 仕切り直しを10回重ねて時間いっぱい、両者は立ち上がりました。以下、展開を記すと こうです。

※ ※ ※

 安芸が突っ張り、双葉がそれを突き返す。 安芸が右の前まわしを引き、右上手を取って頭をつけた。双葉は上手が取れないまま、右からすくい投げを2度打つが決まらない。双葉の体が後ろに反り返ったとき、 安芸は右前まわしを引きつけ、とっさに外がけを放った。その瞬間、双葉の体は左から崩れて土俵下に落ちた――。

※ ※ ※

 無敵の双葉山が負けた、場内は騒然となりました。まるでこの世に何事か起こったよう な異様な雰囲気になりました。新聞は驚き、号外を出す騒ぎになりました。

双葉山が敗れた瞬間を報じる東京朝日新聞(画像:合田一道)

 翌日の東京朝日新聞は、社会面トップで次の見出しで伝えました。

“不抜(ふばつ)双葉城” 陥落す/英雄安芸は泣く/
藪入日に/鉄傘(てっさん)未聞の嵐

 写真は3枚組で、安芸が突っ張る場面、安芸が外がけを掛ける場面、双葉が横転する場面を掲載しました。

 読売新聞の小島六郎記者は、取り組み後の様子をこう書きました。

(双葉山は)悠々と起き上がり、座布団の雨が降る。殺気をおびた興奮の大鉄傘(国技館の丸屋根)の騒音をあとにして引き上げていったのである。

 双葉山を敗(やぶ)った安芸ノ海は一躍、ヒーローになりました。最後に掛けた外がけが右足か左足か、と問われて、

「夢中だったので、 どっちかわからない」

と答えました。そしてもみくちゃになるなか、広島の母親に電報を打ったのです。

「オカアサン カチマシタ」

世界大戦への道を歩みゆく日本で


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