恋人なし、友達少なめ、職場なし……孤独にむせび泣いた私は、東京で「居場所」が欲しかった【連載】東京・居場所さがし(1)

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恋人なし、友達少なめ、職場なし……孤独にむせび泣いた私は、東京で「居場所」が欲しかった【連載】東京・居場所さがし(1)

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いしいまき

漫画家、イラストレーター

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約1400万人もの人が住んでいるのに、ほとんどの人と交わることのない街・東京は、孤独を感じやすい街といえるでしょう。たったひとりで暮らすこの大都市で、自分の居場所をいかにして見つけるか。漫画家でイラストレーターのいしいまきさんも、在宅業務という仕事柄「ひとりぼっち」を感じやすいひとりなのだと言います。

気づいたら、1か月も人としゃべっていない!

「ああ……もう1か月以上人としゃべってない……」

 上京して4か月、2018年の暮れのことでした。

 厳密に言えば宅配の人やコンビニの店員とはしゃべっているのです。ただ、温かみのある「人間同士の会話」をしていないことに気づきました。

 私(いしいまき。漫画家、イラストレーター)が鹿児島から上京してきたのは2018年8月、35歳のとき。普段は主に自宅でひとり、エッセー漫画や実用書の漫画を描く仕事をしています。

 上京前からちょくちょく東京に行ってはイベントに出たり同業者の飲み会に参加したりしていたので、友達はそれなりにいました。「上京したらたまにしか会えなかった友達にたくさん会える」と期待していたのですが……、蓋(ふた)を開けてみると、想像してた状況とはだいぶ違っていたのです。

 その理由は、結婚と出産。30代半ばともなれば、数年前まで独身だった友人たちも家庭を持ち日々忙しく過ごしています。

 上京した当初はそんな友達たちと会っていたりもしていたのですが、一方の私は独身・ひとり暮らし。夫、義理の両親、子ども、ママ友……彼女たちの口から出てくる単語すべてが、未知の世界の話です。

 普段は「独身よりも既婚の方がエライという価値観」に疑問を持っているものの、実際には「毎日の仕事に加えて、家事や子育てに奮闘している友人の話を優先しなければ人でなしである」という考えに憑りつかれてしまい、気づけば延々と笑顔で友達の愚痴を聞いてしまうのでした。

結婚、出産……生活の状況が少しずつ変わって、それまでの友達と疎遠に……(いしいまきさん制作)



 毎回そんな感じではやはり疲れてしまいます。私はだんだん友達に会わなくなっていきました。折しも仕事が忙しくなってきたころだったため、会員制交流サイト(SNS)で「仕事が忙しい」とつぶやき「決して会いたくないからではない」という雰囲気をかもし出しつつ、人間世界のしがらみから距離を置いたのでした。

 この「独身と既婚(特に子どもあり)の友情問題」はなかなか難しいテーマだと思いますが、経済状況も忙しさも変わっていくなかで疎遠になってしまうのは自然なこと。無理して一緒の時間を過ごさなくても、友達なら状況が変わればまた自然と会う頻度が増えていくだろうと想像していました。

気になっていた「バー」へ勇気を出して行ってみた

 しかしそんなふうにして友達と距離を置いた私は、気づけば冒頭の「1か月会話なし状態」に陥ってしまっていたわけです。

 もともとひとりでいることが好きではあるものの、この状態が健全であるとは思えません。人に会わないと身なりにも食事にも気を遣わなくなり、「私は人なのか獣なのか……?」と不安と焦燥感に包まれます。

 そのうえ、うっかりアマゾンプライムで見てしまった映画『嫌われ松子の一生』の松子の最期(セルフネグレクトや汚部屋や孤独死などの要素)に自分を重ねて、ワンルーム7畳のアパートでひとり大号泣する始末。

「ひ……人と会話したい……居場所を探さねば……!」

 こうして、私の「東京居場所さがし」が始まりました。

「居場所」というものを考えたとき、実は上京前から気になっていた「バー」が思い浮かびました。それは、「毎日日替わりで違う人が店長を務め、その日の店長が企画するイベントが日替わりで開かれるバー」、通称イベントバー。最近少しずつ増えてきたので、ご存じの方も多いかもしれません。

 調べてみると、小金井市にある私の家からそう離れていない場所にも1軒あったのです。

 普通のバーだと常連客などがいたりして何だかんだハードルが高かったりします。しかも目的はお酒を飲むことなので、何回か通わないと交流まで至らない可能性も。

 しかしイベントバーでは、その日開かれるイベントごとに興味がある人が入れ代わり立ち代わり集まるため、お酒を楽しむことより交流を目的にした人が多いのが特長です。例えば「マジック好きが集まるバー」や「催眠術が体験できるバー」といった具合に。始めに私が行ったのは「初見歓迎バー」でした。

 要は「初めて方もどうぞお気軽に」という意味のバー。初見歓迎とわざわざ謳(うた)っているのだから、邪険にされることはまずないでしょう。

 自宅アパートからJRと私鉄を乗り継いで行ってみると、その日の「店長役」は若い男性と女性のふたりでした。緊張気味の私をおもてなししてくれ、いろいろ話をしてくれました(1日店長は、プロではなく「イベントをやってみたい」という一般の人が店を借りて接客しています)。

思いきって行ってみたイベントバーで、うれしい出会いを果たした体験(いしいまきさん制作)



 今の若い世代の間ではやっているものや、そのバーができた経緯……などなど、いろいろな話を聞けて楽しかった……。そして何より、人と話した! という充実感に私はその日久しぶりに包まれたのでした。

「知り合い以上、友達未満」の、心地よい関係

 それ以降私のなかのハードルはぐっと下がり、ちょっと遠出して別のイベントバーに行ってみたり、いろいろなイベントに顔を出したりするようになりました。

 そこで出会うお客さんは、老若男女さまざま。もちろんイベントによって偏りはありますが、自分の興味に合いそうなイベントを選べばアラフォー独身でも居づらいことはありません。

 しばらくすると複数回顔を合わせる人がいたりして、何となく「ゆるいつながり」に身を置くことができるようになったのです。知り合い以上友達未満。このゆるさが、いい感じ。

 ワークショップやサークルなどもいいのですが、固定スケジュールがあったり、そもそも何か具体的な作業をやるために集まったりしているので、「ちょっと人と話したいだけ」というニーズにはハマらないかもしれません。活発に交流したい場合はよいかもしれませんが、ゆるゆると低空飛行のテンションで交流したい人にはイベントバーがおすすめです。

 何せ店なので、オープンしている間に自分の好きな時間だけいればいいのですから。そして、「自分自身が1日店長になり、イベントを企画し開催する」という体験もできるのがイベントバーの魅力。

「1日店長になる体験」についてはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、ともあれイベントバーへ参加することで、私は「東京居場所さがし」の第一歩を踏み出したのでした。

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