東京で「中学受験が当たり前」は本当? エリア分析で見えてきた大きな勘違いとは

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東京で「中学受験が当たり前」は本当? エリア分析で見えてきた大きな勘違いとは

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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公立中学へは進学せず、私立・国立中学を受験するのが半ば当たり前、というふうにイメージされがちな東京の小学生たち。果たして実際はどうなっているのでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが、東京都教育委員会の統計を基に市区ごとの実態を解説します。

地域によってだいぶ違う、東京・お受験事情

 東京都の公立小学校に通う児童はその多くが中学受験をするというイメージが強いですが、果たして全ての地域で盛んなのでしょうか。「ある地区は中学受験が当たり前」でも「すぐ隣の区では珍しい」ということも間々あります。

第一志望の学校に合格できるよう祈願する絵馬(画像:写真AC)



 明確なデータを見ない限り、保護者の間で交わされる情報交換を鵜呑みにしたり、無為に不安をあおられたりしてしまいます。今回は、噂に翻弄されがちな「中学受験に関わる地域の温度差」を、東京都教育委員会の統計調査を基に検証していきます。

実は、公立小学校の児童8割が公立中学へ

 東京都教育委員会が2019年10月に公表した「2019年度公立学校統計調査」のなかの「公立学校卒業者(2018年度)の進路状況調査編」によると、卒業児童のうち都内の中学に進学した児童は9万3004人。そのうち8割以上が公立中に進学していることが明らかになっています。

東京の公立小学校卒業生が進学する中学校の、公立・私立・国立の割合(画像:東京都教育委員会「2019年度公立学校統計調査報告書」)

 世間一般が持つ「東京では中学受験が当たり前」というイメージとは少々かけ離れた数字ではないでしょうか。

 東京都全体をみると、都内私立中への進学率は都内中学への全進学者のうちの18.2%。国立中にいたっては0.4%にとどまっています。

 しかし地域別に詳しく見ていくと、東京都内の国私立に進学する児童の多い地域が浮かび上がってきました。

国私立中への進学率が最も高いのはウワサ通りの2区

 前出の「公立学校卒業者(2018年度)の進路状況調査編」から、都内中学校に進学した児童数を分母にして読み取っていくと、巷で噂されている港区と文京区では、国私立中への進学率がやはり抜きんでて高いことがわかりました。

 都内私立中への進学率は港区が42.2%、文京区は41.8%と、都内平均値の2倍以上になっています。

 国立中への進学者を入れると両区とも43%に達しており、港区と文京区の公立小に通う児童の実に半数近くが中学受験を経験していると考えられます。

東京都23区別の、各区立小学校卒業生の進学先一覧(画像:東京都教育委員会「2019年度公立学校統計調査報告書」)



 中学受験をする児童が多く住む学区であれば、子どもも通塾への抵抗感が薄れるメリットもあります。教育熱心な家庭では、子どもの就学前にわざわざ引っ越しをしてくる区でもあり、国私立中への進学率は今後も高水準を保って推移すると予想されます。

 一方で区によっては中学受験自体が珍しく、「受験をする子が浮いてしまう」と指摘されることがありますが、果たしてそうなのでしょうか。

 都内中学の進学者を基に見ていくと、都内私立中への進学率が一番低かったのは江戸川区の10.5%でした。港区と文京区と4倍もの差があり、23区でも地域によって中学受験に対する温度差があることが数値から見て取れます。

 23区で東京都の平均値18%を下回っているのは、江戸川区のほかに墨田区と板橋区、足立区そして葛飾区の計5区です。

 練馬区は私立中への進学率は都の平均以下ですが、都立中高一貫への進学者が100人を超えているため、一概に「中学受験が盛んではない区」とは決めつけられません。

 インターネットで簡単に情報収集できる時代になった今、中学受験を考えている家庭が集まる区とそうではない区の二極化はさらに進んでいきそうです。

東京都下でも平均値を超える4市が

 さらに東京都の市部にも目を向けてみると、私立中進学が都全体の平均値を超えている自治体があります。

 武蔵野市では31.0%、三鷹市は21.8%と高い数値となっています。調布市と狛江市もそれぞれ19.5% と18.0%と2割近くが都内私立中に進学。中学受験の定着は、23区に限らず市部でも地域によって相当程度進んでいることは間違いありません。

 この4つの市の共通点は、区部に隣接していることやJR・私鉄が通っていることなど。都心からほど近く、通学の手段もあることが私立中への進学には欠かせないため、それらの条件が揃っているからこそ、結果的に進学率も高くなっているといえるのかもしれません。

中学受験をめぐり、二極化の一途をたどる東京

 一方、東京都の市の中で最多人口を誇る八王子市。市内に9つの私立中がありながら、同市内で都内私立中に進学した児童は7.3%にとどまっています。このことから「近くに私立中があるから進学する」という考えだけで学校選びをしているわけではないことがわかります。

 以上、23区や市部のデータを見てきましたが、「東京 = 中学受験が当たり前」とは一概に言えないことがではないことがおわかりいただけたかと思います。

 中学受験を考えている家庭では、東京都教委のデータや保護者間での情報交換、そして塾の先生から聞かされる情報を基にして「引っ越し」までする時代になっています。

「子どもが中学受験をする・しない」によって、住居選びをも左右するような時代です。 簡単に情報が手に入ることで、教育に対する考えが似た世帯がひとつの地域に集まりやすくなり、その結果が中学受験の盛んな地域とそうではない地域を、恐ろしいほど明確にさせているのだと言えそうです。

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