にわかファンで終わるか、真のラグビーファンになるか――試金石は2020年「トップリーグ」だ

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にわかファンで終わるか、真のラグビーファンになるか――試金石は2020年「トップリーグ」だ

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冨田格

ライター、編集者

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「ラグビーワールドカップ2019日本大会」での日本代表チームの活躍で、急増した「にわかファン」。その勢いは「2019ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるほどです。しかし本当に人気が定着するにはこれからが重要と、ライターの冨田格さんは熱く語ります。

大ブームはなぜ起きた?

 2019年12月11日(水)、昼休みの「丸の内仲通り」(千代田区丸の内)は5万人が押し寄せる騒ぎとなりました。「ラグビーワールドカップ2019日本大会(W杯)」で悲願のベスト8進出を果たした日本代表チームによる「ONE TEAMパレード ~たくさんのBRAVEをありがとう~」が開催されたのです。

 満面の笑顔でファンの声援に応える代表選手たちの中、最初から最後まで号泣し続けた田中史朗選手(キャノンイーグルス所属)の姿をテレビを通じてご覧になった人も多いでしょう。

ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会で初の8強入りを果たし、パレードを終えて記念撮影する日本代表=11日、東京都千代田区(画像:時事)



 私も、オンタイムでTBS系「ひるおび」のテレビ中継を見ていました。そこで印象に残ったのが、インタビューに応える選手たちも、スタジオゲストの元日本代表の山田章仁選手、木津武士選手も、示し合わせたかのように「来年1月12日から始まるトップリーグに来てください」と口にしていたことです。

 思い返せば、2019年9月20日(金)の開幕戦が始まるまで、ここまでの大ブームになると予想していた人はいたでしょうか? W杯招致に尽力した森喜朗氏は5年前の時点で「チケットが余ることなんかない」と断言していたそうですが、ほとんどの人はピンときていなかった思います。

 その理由は「ラグビーを見たことがなかったので面白さを知らなかった」ことに尽きます。この大ブームにもっとも貢献したのは地上波テレビである、ということに異論のある人はいないでしょう。

ブームに貢献したのはSNS

 日本戦を中心に、オールブラックス(ニュージーランド代表チームの愛称)など人気チームの試合が地上波で放送されたことで、初めてラグビーを観戦した人が激増しました。

東京のラグビー聖地「秩父宮ラグビー場」(画像:冨田格)



「ルールがよくわからない」というビギナーに共通するネックを解消すべく、地上波テレビの実況放送がわかりやすいルール解説を心がけていたため、ビギナーでも毎週末の日本代表戦を見ているうちに一通りのルールが理解できるようになりました。ラグビーはシンプルな競技ですから、基本的なルールさえおさえればその面白さは誰にだって伝わります。

 日本代表の快進撃のおかげで、報道番組やワイドショーでも連日ラグビーが取り上げられ、関心を持つ人たちがさらに増えてきました。要は、流行語大賞の候補に挙げられた「にわかファン」がどんどん増えていったわけです。

 地上波テレビに続いてブームを巻き起こすことに貢献したのは、SNSです。日本代表の試合が終わるたびに、とてつもない量のスポーツニュースや多くの人の感想が飛び交いました。膨大な量のSNS情報を見ているうちに、W杯の裏で起きているドラマや物語も把握できます。それらを共有することで、「にわかファン」の応援欲はさらに強まっていきました。

 悲願のベスト8進出を果たした日本代表が準々決勝で南アフリカに敗れた後も、日本代表選手たちはテレビ番組に引っ張りだことなり、ラグビーへの注目度が下がることはありませんでした。カメラの前で堂々と話ができる図太さを日本代表選手たちが持ち合わせていたことや、ユニークなキャラクター揃いだったことも功を奏しました。また、テレビ映えするヘアスタイルを担当し、個性を強調するビジュアルを作り出した理髪店「the BARBA TOKYO」(千代田区内神田)の力も大きかったことは言うまでもありません。

トップリーグのチケットは軒並み完売

 年が明ければ、新たな戦いのステージである「ジャパンラグビートップリーグ(以下、トップリーグ)」が始まります。日本代表のほとんどの選手は、トップリーグのチームに所属しています。同リーグは1月12日(日)から5月9日(土)まで毎週末に試合が組まれており、3月までのチケットは既に発売されています。

1月11日に「全国大学ラグビーフットボール選手権大会決勝」が行われる国立競技場(画像:冨田格)



 東京では秩父宮ラグビー場(港区北青山)を中心に、町田市立陸上競技場(町田市野津田町)、夢の島競技場(江東区夢の島)で試合が行われますが、秩父宮ラグビー場の試合は数試合を除き完売に近い状態ですし、町田で開催される1試合は完売しています。

 日本ラグビーフットボール協会(港区北青山)の公式サポーター「JRFUメンバーズクラブ」の入会希望者もW杯期間中に激増したため、通常は1週間程度で届くはずの入会特典アイテム(会員証など)の発送も大幅に遅れているそうです。そうしたことから、W杯で生まれたラグビー熱は冷めずに続いているように思えますが、選手の口ぶりからは危機感が感じられます。

 その理由は、五郎丸歩選手が行うキック前のルーティーンが話題となった4年前のW杯後の状況にあります。

 今回のW杯準々決勝で敗れた南アフリカを撃破した2015年の「ブライトンの奇跡」によって、ラグビーは一時的に注目が集まったものの、入場券が完売したはずのトップリーグが開幕してみるとスタジアムは閑散としていたのです。このような事態はチケットの販売方法に問題があったために起きたのですが、その後も観客は増えることはなく、文字通り一過性のブームとして終わってしまいました。

選手たち抱く危機感の理由

 このことは、選手や関係者、そして長年応援し続けてきたラグビーファンの心にも深い傷を残しました。だからこそ同じ轍(わだち)は踏むまい、一過性のブームで終わらせまいと、選手たちは「トップリーグに足を運んでください」とPR活動に熱を入れているのです。

パナソニックワイルドナイツのホーム「熊谷ラグビー場」(画像:冨田格)



 先述したようにトップリーグのチケットの売れ行きは悪くないようですが、その人気にはバラツキがあり、完売しているのは日本代表の所属人数が多いチームの試合が中心となっています。W杯で活躍した日本代表の選手の姿を一目見たいというファン心理は当然ですが、それだけではラグビー人気の「底上げ」にはならないでしょう。

 W杯をきっかけにラグビーを好きになった「にわかファン」こそ一番わかっています。「急速に盛り上がったブームは、また飽きてしまうのも早い」ことを。

 トップリーグでお目当ての選手を一度見たら満足してしまい、一気にラグビー熱が燃え尽きてしまう人が続出する可能性もあります。汗ばむ陽気の日も多かったW杯とは違い、真冬のラグビー観戦は観客にとっても寒さとの厳しい戦いです。ファンたちのラグビー熱が燃え尽きたり、寒さとの戦いに敗れたりしたら、選手たちの危惧している通りになってしまいます。

 ラグビー人気が定着するのか、それとも一過性のブームで終わってしまうのか――。トップリーグが始まる前の今こそ、実は「正念場」でもあるのです。

「にわかファン」に火を付けろ

 果たして、選手たちが頑張るだけでいいのでしょうか? これからトップリーグを見に行こうとしている、私たち「にわか」上がりの初心者ファンにもできることはないのでしょうか?

 ラグビー人気の盛り上がりに貢献したのは「テレビ」と「SNS」だけではありません。2019年の流行語大賞になった「ONE TEAM」というスピリットがとても大きかったのです。選手や関係者が頑張り、マスコミの報道も過熱し、そして「にわか」も含めた私たちファンもONE TEAMになったからこそ、あそこまで盛り上がったのではないでしょうか。

トップリーグ所属チームのプレシーズンマッチに加えて、7人制ラグビー日本代表の試合を見る機会もある(画像:冨田格)



 このラグビー人気を定着させるためには「ONE TEAM」になることが絶対必要です。選手たちだけに任せるのではなく、ラグビーを応援する私たちに何ができるのか、を考えてみます。そのような訳で、なぜ「にわかファン」が増えたのかという原点に立ち返ってみましょう。

「ラグビーの面白さを知らなかった人が、W杯で初めてラグビーを見てその面白さを知ったから」

 これに尽きるのではないでしょうか。つまり、見る機会を作ることが重要なのです。トップリーグはW杯と違い、地上波でのテレビ中継はほとんど期待できません。ならば私たちが見る機会を作って、新規の「にわかファン」を増やす、もしくはラグビー熱が消えてしまいそうな人の心に再び「燃料」を投下することが必要になってきます。

「にわかファン」もONE TEAMに貢献できること

 あなたの周囲にラグビーに興味を持ち始めた人、もしくはラグビー熱が冷めかけている「にわかファン」がいたら「生の試合を見に行こう」とトップリーグ観戦に誘ってみましょう。

 先述したように、トップリーグでも日本代表選手が多く所属するチームの試合はすでに完売になっています。しかし、チケットを入手できる試合もまだまだあります。多くの人がマークしていないチームの試合のチケットを買って観戦することは、トップリーグ全体の人気の底上げにも直結します。

 そして、ノーマークだったチームの試合を見ることは、まだ知らない「応援したくなる選手」を見つけるきっかけにもなります。確かに日本代表の選手たちは魅力的です。彼らはいわばラグビー界のトップスター。しかし、日本ラグビー界にはほかにもたくさんの逸材がいます。

東京のラグビー聖地「秩父宮ラグビー場」(画像:冨田格)



 トップリーグ観戦をして、世間的にはまだ無名の逸材を見つけ出したら、その選手を応援していくという新たな楽しみが生まれます。その選手が所属するチームに詳しくなったら、チームのファンにもなるでしょう。

 トップスターを見るために宝塚を生で見てみたら、まだ無名だが輝く団員を見つけてファンになってしまうように。または人気グループのバックで踊るジャニーズJr.の中に、将来スターになる可能性のあるメンバーを見つけて応援したくなるように――。

「トップリーグ開幕までは待てない」という人は、プレシーズンマッチを見に行く手もあります。1月第1週までの週末は、強化試合・練習試合という位置付けのプレシーズンマッチが開催されます。

 都内には、サントリーサンゴリアス(流大、ツイヘンドリック、北出卓也、中村亮土、松島幸太朗)、東芝ブレイブルーパス(リーチマイケル、徳永祥堯)、キャノンイーグルス(田中史朗、田村優)と日本代表の人気選手が所属するチームがあります。

「ノーサイドゲーム」も再放送される

 プレシーズンマッチに日本代表選手が登場するかどうかは未定ですが、ほかにはない醍醐味があります。それは、かなり近くから試合を観戦できることです。チームのホームグラウンドの場合は、ラグビー場の最前列よりも近い距離で観戦できる可能性があります。

 巨漢の選手たちが疾走する地響きのような音や、肉体をぶつけ合う衝撃音までリアルに感じることができるため、興奮すること間違いなしです。ほかにもチームのグッズ販売があったり、選手と触れ合える可能性があるのもプレシーズンマッチならではの楽しみです。

 先日、千葉・新浦安に練習拠点を構えるNTTコミュニケーションズシャイニングアークスのホームグラウンド(アークス浦安パーク)までプレシーズンマッチを観戦に行きました。南アフリカ代表だったマルコム・マークス選手が加入したので、興味を持ったのです。

トレインでコートに現れた選手たちの勇姿(画像:NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)



 ここのグラウンドは、コートの真横から至近距離で観戦できるため、伝わってくる迫力は凄いものでした。プレシーズンマッチとはいえ、MCと現役選手による実況解説が流されたり、ハーフタイム中は実況席から選手のトークショーが始まったりと、初めて生観戦する人も楽しめる工夫がなされています。

 実際に観戦すると興味はますます膨らんでくるもので、すっかりファンになり、チームのファンクラブに入会してしまいました。私はシャイニングアークスを応援しながら、トップリーグを追いかけていこうと決めたのです。

 生観戦に誘える相手がいないなら、SNSでラグビー関連情報を拡散して応援することもできます。年明けに行われるラグビー大学選手権の準決勝(1月2日。秩父宮ラグビー場)と決勝(同11日。国立競技場)はNHK総合での放送が決まっています。

 またラグビー人気盛り上げに一役買ったドラマ「ノーサイドゲーム」は1月3日(金)から5日(日)にかけてTBSテレビで全話一挙放送されます。ほかにも年末年始には、日本代表選手の出演番組やラグビー関連番組は多いと予想されます。SNSでテレビ放送の情報を拡散することは、ラグビーに興味を持つ人を増やすために重要です。

 2019年、私たちはラグビーの面白さを知ることができました。これを2019年の思い出として記憶の棚に仕舞い込む「にわかファン」で終わるのか、それともここをスタート地点として、さらにラグビーの面白さにハマる「ラグビーファン」になっていくのか。この年末が、大きなターニングポイントになりそうです。

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