文科省が招いた大学入試「新制度の全崩壊」 未来ある受験生の一生をアルバイトに委ねるのか

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文科省が招いた大学入試「新制度の全崩壊」 未来ある受験生の一生をアルバイトに委ねるのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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「民間英語試験の活用」に続いて「国語・数学の記述式問題」まで導入の見送りが決まりました。文部科学省が進める大学入学共通テストが揺れています。一体何が起きているのか、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

肝いりの「両翼」を失った文科省

 2020年度から始動する大学入学共通テストでは、目玉だった民間英語試験利用や国語と数学の記述式問題の導入見送りが2019年12月17日(火)に正式発表されました。同日の閣議後会見で萩生田光一文部科学大臣が明らかにしました。

 それに先立つ11月には、英語民間試験の活用も見送りが決定されたばかりです。これまでのセンター試験を廃止し、「思考力や表現力を問う」として文科省が鳴り物入りで推進してきた新入試制度は、一気にその両翼を失う格好となりました。

 受験生による自己採点とのズレ、また短期間で全国約50万人の受験生の記述問題を正確に採点できるのかなど、受験生や教育関係者、保護者から噴出した疑念については首肯するよりありません。まして全国最多の受験生を擁する東京(2019年度センター試験の志願者数は約8万9000人)ではなおさら、あいまいな採点ルールが運用されれば混乱が生じるのは必至です。

 今回は、大学入試共通テストの採点をアルバイト学生が行うことの問題点について取り上げていきます。

「アルバイト学生が採点」の衝撃

 2019年11月5日(火)の衆院文部科学委員会。参考人として出席したベネッセコーポレーション(岡山市)は、大学入学共通テストで採点業務を行う子会社が「学生アルバイト」を採点担当に雇う考えであることを明らかにしました。受験生の運命を左右する試験の採点にアルバイト学生が携わるということについて、受験生自身や保護者から歓迎する声は一切聞こえてきませんでした。

 これまでのセンター試験では、鉛筆で黒く塗りつぶしたマークシートの回答を機械が読み取っていたため、人の手による直接的な採点は行われていません。それを新制度では、わずか20日間で約50万人分の答案を採点する――。果たして、マンパワーでそれほど短期間に正確な採点ができるのでしょうか。

大学入学共通テストの相次ぐ見直しを迫られ、揺れる文部科学省(画像:写真AC)



 学生時代にテストの採点業務を経験したという人もいるかと思います。

 そうした人ならご存じでしょうが、記述問題で正答例通りに回答を書く受験生はまずいません。そのため、どの回答がどの程度、正答例に近いのかを擦り合わせて考えることが求められます。つまり、極めて高度な読解力と判断能力が必要になるのです。

 もちろん、マーク式の試験もまた採点が簡単というわけではありません。記入欄を見間違えて採点してしまうといった危険性をはらんでいるからです。その懸念を排除するためには複数回の見直し作業が必要になり、時間がいくらあっても足りないでしょう。

 記述式試験は導入が見送りとなり、現時点では姿を消したとはいえ、試験の採点に二重三重のチェック体制が必要なことに変わりはありません。と同時に2次試験の日程を控えてスピード感も求められるなかで、すべてのアルバイト学生が「迅速かつ正確に採点をする」というのは不可能に近いのではないでしょうか。

万全な漏洩対策などあり得ない

 記述式問題が延期となった今、数年間は現行のセンター試験と同じマーク式のテストが行われると予想されます。

 機械による採点であれば大きな混乱は生じにくいかもしれませんが、将来的な記述式の導入の可能性が残されている以上、正確性・公平性を期すための対策は今のうちから十分に議論しておく必要があるでしょう。

大学入試センターに臨む受験生たち(画像:写真AC)



 スムーズかつ正確な採点をするために、核となるのは当然、信頼性の高い採点者の確保または育成です。

 採点業務を落札したベネッセの子会社は、記述問題の採点で雇うアルバイト学生の数を約1万人と推計していました。この人数をアルバイトに頼らず全て専門家でカバーすることは容易ではありません。ある程度アルバイトで補いつつ採点のチェック体制を厳しくするという方法が現実的には採られるとみられます。

 そのアルバイト人材の選定方法についても、厳格に定める必要があるでしょう。採用されたアルバイトのなかに、例えばSNS上に採点状況を投稿したり、わざと採点ミスをしたりといった行為をする人物が紛れ込む恐れをいかに排除するか。採点に関わる人間が多ければ多いほど、問題が起きやすくなるといえます。

今度こそ教育現場の声に耳を傾けよ

 文科省は、受験生や教育現場の声に真摯に耳を傾けず「英語の民間試験利用」「記述式問題導入」というゴールありきでこれまで計画を推し進めてきました。そしてその結果、2か月足らずのうちに改革の2本柱どちらも失う結果を招いてしまったことはある種の必然をはらんでいたのかもしれません。

 そして、新制度での大学入試テストを受けるはずだった高校2年生にとって、一連の混乱は迷惑以外の何ものでもないでしょう。

 新制度が見送りとなった今、学生や教育現場にいる教員の意見を聞き、どういった方式ならば混乱や経済的負担が少なく、かつ正確に学力が測れるのかという議論をあらためて尽くす必要があります。問題点を直視し、解決策を明確にしていくことが文科省に今最も求められている責務なのです。

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