渋谷の路地裏にはなぜ古い店が残っているのか? 東急「再開発構想」から考える

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渋谷の路地裏にはなぜ古い店が残っているのか? 東急「再開発構想」から考える

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松田優幸

消費者経済総研 チーフ・コンサルタント

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東急が打ち出す「広域渋谷圏構想」を通して、渋谷が本来持つ魅力を消費者経済総研 チーフ・コンサルタントの松田優幸さんが解説します。

「広域渋谷圏構想」とは何か

 東急グループ(東急)が渋谷の街を広げています。東急は、建物を1棟ずつ建設しながら開発を継続。さらに、点(単体の建物) から面(広域エリア) へ広げようとしています。

 近年、渋谷駅の周りには渋谷スクランブルスクエア(渋谷2)、渋谷ストリーム(同3)などのほか、渋谷キャスト(同1)や渋谷ブリッジ(東1)も誕生しています。これらはいずれも東急が開発した複合商業施設です。

渋谷スペイン坂(画像:写真AC)



 しかし渋谷キャストと渋谷ブリッジは、渋谷駅の近くではありません。駅から徒歩約10分のため、少し遠い場所といえます。これらふたつの誕生により、渋谷は北と南へと街の広がりを見せています。

 東急は、渋谷の街をもっと広げる「広域渋谷圏構想」を打ち出しています。徒歩10分圏どころか、さらに広域です。

 ところで、「広域渋谷圏」とはどこを指しているのでしょうか? それは渋谷から半径2.5kmの、代官山や中目黒、恵比寿、原宿、表参道などを含むエリアです。

 それらの周辺の街が、広域渋谷圏の「周辺拠点」です。東急は「周辺拠点」においても、魅力的な街づくりをしようとしているのです。

高低差があり、複雑な街路を持つ渋谷

 再開発がすすむと東急の施設やその中に入るテナントは繁栄しますが、東急とは関係の無い周辺の路地や路地裏にある中小の店は、恩恵に預かることができるのでしょうか? 渋谷には、路地や路地裏に魅力的で個性的なお店が昔から存在していますので、もし衰退や閉店するとなると悲しいですよね。

広域渋谷圏のイメージ(画像:東急)



 渋谷の路地や路地裏に古くから中小の店があるのは、スペイン坂などを始めとする坂や複雑な街路のおかげです。渋谷はすり鉢状の街で「高低差」があり、加えて直線・直角な街ではありません。「高低差があり、複雑な街路」であることが、渋谷の個性なのです。

 坂や階段の上にどのような店があるかは、手前からはわかりません。しかし坂や階段を上ると「こんなお店があったんだ」と気づくので、発見の楽しさが生まれます。同様に複雑な街路は角を曲がるたびに、店を発見する楽しさがあります。そのため路地裏の店であっても、関心を引き寄せ存続できるのです。

 ちなみに建物を設計したり建設したりする際、「曲がり」があるよりも「直線」の方が簡単です。しかし近年の大型の商業施設は、わざわざ「通路を意図的に曲げる演出」を行っています。街での「発見の喜び」を、建物でも応用しているのです。

東急による店舗誘致の共通点

 さて東急が自社の施設に誘致する店は、どのような店でしょうか。高い賃料を払える大手チェーン店でしょうか? 東急は「中目黒高架下」や渋谷ストリームで、おいしく魅力的な「中小の飲食店」を積極的に誘致しています。

渋谷の高層ビルと空(画像:写真AC)



 高い賃料を払える店や大手チェーン店が、おいしく魅力的な店だとは限りません。東急は資本力ではなく、店の魅力で選んでいるのです。魅力的な店があれば、「この街に住みたい」と考える人が増えます。その結果、魅力的な東急の街に、住みたい・家を買いたい・買い物をしたい、となるわけです。

 住む人が増えれば、東急の住宅事業が潤います。当然買い物をする人が増えるため、グループ内の東急ストアや東急百貨店も潤います。また電車に乗る人も増えるため、東急電鉄も潤います。いわば街の人々の喜びと、東急の事業がリンクしているのです。

 しかしエリアの価値が向上すると、賃料の上昇を招きます。賃料が上昇すれば、資本力・賃料負担力のある大手チェーン店が増え、路地や路地裏の「“粋”な中小の店」が、減ってしまう恐れがあります。このような現象を「ジェントリフィケーション(高級化)」といいます。

 しかし、東急の「広域渋谷構想」ではこのような店も共存できるとしています。

古き良き「街の魅力」が失われない理由

 代官山や中目黒、表参道といった、渋谷の「周辺拠点」にも魅力的な店があります。これらは隣の街のため、渋谷から電車ではなく歩いて移動できます。これにより中心拠点の渋谷駅から周辺拠点への回遊が促進されます。中心拠点と周辺拠点の間を「中間ゾーン」とすると、今まで寂しかった中間ゾーンも歩く人が増えて賑わうのです。

 これにより中小のお店も恩恵を受け、閉店せずにいられます。再開発で失われがちな「街の粋な魅力」「古き良きもの」「多様性」が保持できるのです。

代官山の街並み(画像:写真AC)



 このように「広域渋谷構想」による再開発は、単なる再開発では、ありません。中心拠点の渋谷も、周辺拠点の代官山なども、中間ゾーンも、さらに古きも新しきも、東急と関係ない店も、いずれをも育む街となることができるのです。

 東急は「渋谷を広域化することで、長期的な渋谷全体の価値向上を狙う。短期・単発で、収益を狙う通常の大型再開発とは異なる」としています。東急は、再開発を通じて「広域渋谷圏」全体の価値を向上させていく計画です

 東急の「広域渋谷圏構想」からは、いずれをも育む街づくりの姿勢が感じられるのです。

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