モロッコ料理からガラス工芸まで――マニア化する「大人の習い事」、いったいなぜ?

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モロッコ料理からガラス工芸まで――マニア化する「大人の習い事」、いったいなぜ?

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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近年増加する大人のための習い事教室・ワークショップについて、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

拡大の背景に働き方改革が

 近年、大人のための習い事教室・ワークショップが増加しています。英会話やパソコン、資格取得のスクールなど実用的な教室などのほか、料理教室やクラフト系ワークショップなどの趣味やライフスタイルに関わる教室・ワークショップに注目が集まっています。女性を中心に興味を持つ人が増えており、自分もなにか始めたいと考えている人も多いのではないでしょうか。

仕事後の料理教室のイメージ(画像:写真AC)



 需要拡大の背景のひとつには、働き方改革による残業や休日出勤の抑制によって余暇時間が比較的確保しやすくなっていることが挙げられます。社会的意識として仕事以外にも人生のやりがいを持ちたいと言う風潮が高まっており、1日が仕事だけで終わってしまうことに抵抗感がある人も多くなっています。

 このような動向を受けて、商業施設の中には「サードプレイス」として新しい習い事教室・ワークショップを導入する動きが見られます。サードプレイスとは、家庭(ファーストプレイス)と学校や職場(セカンドプレイス)以外で自分の時間を持てる場所を意味します。簡単に言ってしまえば、サラリーマンが帰宅前に馴染みの居酒屋で一杯飲んで大将や常連客と他愛のない話をして帰るといったところでしょうか。

 働く女性が増える中、サードプレイスはストレス管理の観点からも重要性が高まっていると言われています。家庭と職場の中間地点に位置する、駅ビルなどの趣味の習い事教室・ワークショップはサードプレイスの機能が期待できるでしょう。

 国内のスクールビジネスは大手チェーンによって全国に拡大し、商業施設開発がそれを牽引していった経緯があります。1980~1990年代の郊外商業施設の開発拡大期においては、文化系集客業態としてカルチャースクールが積極的に導入されました。

 カルチャースクールは主に専業企業のチェーンや、新聞やテレビ系企業のチェーンが運営し、いけ花やフラワーアレンジメント、習字、ペン字、編み物、洋裁など、いわゆる習い事の教室を中心に学びのコースを総合的に取り揃えたものです。

カテゴリー特化のスクールが増加

 更に2000年代に入り都市型商業施設の開発が活発化すると、サードプレイスと言う言葉が使われるようになり、男性向けに模型などの工作ができる個人用貸工房や、働く女性向けのビジネススクール・ビジネスマナースクールなどが登場しました。

仕事後のビジネススクールのイメージ(画像:写真AC)



 最近の動向はこれらとは異なる様相を呈しています。個人経営もしくは小規模な組織が運営する教室が増加し、場所も自宅かマンションの一室のアトリエなど小規模なスペースで、少人数制で行うものが増えています。

 そのため、内容が細分化していることも特徴で、例えばお菓子作り教室と言ってもひとつの教室でさまざまなコースがあるものだけでなく、グルテンフリー、シュガークラフト、欧米伝統菓子、和菓子、発酵食品などとひとつの教室でひとつのカテゴリーに特化し、専門性の高いものがでてきています。

 料理教室も和食や中華、洋食、フレンチ、イタリアンと言った定番的なものだけではなく、韓国、ベトナム、タイ、インド、ブラジル、メキシコ、スペイン、モロッコなど、本場の外国人が教える教室が増えており、多国籍化しています。

 クラフト系は特に多様化が顕著。一般的な手芸の分野はもちろん、キャンドルやステンドグラス、ガラス工芸、レジン、金継ぎ、つまみ細工と言ったものまであります。特に都内にはこのような多彩な教室・ワークショップが多数揃っていると言えるでしょう。

 また、教室の雰囲気も含め、作品のテイストやデザインなど講師のセンスが強く反映されることも特筆されます。個人経営の場合には受講時間が臨機応変だったり、おやつが出たりと、カリキュラムが緩やかなことも魅力です。

 従来の習い事は、

・嗜みとして身につけること
・家族のために実用的に役立てること
・自分の価値を上げること

が主な目的でした。自分のためであるものの、他人の評価も大切で、誰もが良いと感じるように内容は比較的画一的なものになっていました。

生徒の対象、地元住民から更に広く

 一方で現在は習ったものを自分の生活に取り入れ、ライフスタイルを豊かにするということを目的にする人が増えており、人と同じではなく自分の個性に合う特化したものが望まれるようになっています。そのため、細分化された教室・ワークショップに需要があると考えられます。

 小規模な教室や特化した教室が増加している要因には、ネットが普及したことにより見つけやすくなったことも挙げられます。自分のやりたいことがはっきりしていれば検索して個々の教室を見つけることは容易です。インスタグラムの画像などを参考に、自分のセンスに合った教室を見つけることもできるでしょう。

インスタグラムを使って、自分に合う教室を見つけるイメージ(画像:写真AC)



 ネットによってさまざまな分野の専門家と消費者が直接交流する機会も増えており、是非教えてほしいと促されて教室・ワークショップを開くケースも見られます。カルチャースクールより前の習い事教室は個人経営が中心で、地元住民を対象にしたものでした。今の状況は地元だけではなく広範囲を対象として、原点に戻っていると言えるでしょう。

 その他にもレストランのシェフが開催する料理教室や、フラワーショップでのフラワーアレンジメント教室など、店舗が実施する街なかのワークショップも増加しています。

 また、企業ミュージアムやアートミュージアムにおいても、展示内容を深く理解してもらうために料理やクラフト系のワークショップを導入するところが見られます。料理や工芸は地域性や風土を反映しやすいことから、観光施設にも幅広く導入されています。

 今はさまざまな場所でワークショップに出会える状況と言えるでしょう。このようなワークショップは1回だけのものが多く、習い事の入り口として気軽に体験してみるのも良いかもしれません。

個性を発揮する場所としての教室

 現在の教室・ワークショップに期待されるのは、個人の可能性の拡大です。習い事をきっかけに自分の個性を発信するだけでなく、作品を希望者に販売したり、さらに自分も教室を立ち上げたりしたいと考える人が出てきています。

さまざまな個性が尊重される世界のイメージ(画像:写真AC)

 働き方改革では副業を推奨していることから、このような動きは社会的にも歓迎されると言えるでしょう。しかし、いけ花やお茶のように講師になるまでのステップが確立されたシステムに乗るといったようなものではありません。好きな趣味を学んでいるうちに結果としてそうなったらいいなという、緩やかな可能性と言えます。それだけ敷居も低く、自由度も高く、多くの人に機会をもたらす可能性があると言えます。

 身近にはさまざまな教室・ワークショップがあります。気になるものに参加してみてはいかがでしょうか。

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