創業明治10年、甘味処なのにこだわりの自家製麺 本郷「ゑちごや」のラーメン【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(6)

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創業明治10年、甘味処なのにこだわりの自家製麺 本郷「ゑちごや」のラーメン【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(6)

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下関マグロ

サンポマスター、食べ歩き評論家

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都内散歩と食べ歩きにくわしいフリーライターの下関マグロさんが、都内一押しの「マグロ飯」を紹介します。

創業は142年前

 文京区の本郷界隈は人気の散歩エリアです。明治の文豪たちに愛された町であり、その道は昔ながらの路地が続きます。本郷三丁目の交差点から、東京大学方面へ歩くと文京区が建てた「別れの橋跡・見送り坂と見返り坂」という説明板があります。

 戦国武将・太田道灌(1432~1486年)の時代、ここが江戸の境目で、かつては菊坂の谷に向かって川が流れ、そこに橋が架かっていました。江戸追放になった者が橋を渡っていくのですが、見送りの人々は本郷三丁目寄りの南側の坂から見送り、追放される者は見送る人々を振り返った坂があったそうです。

 本郷通りから言問通りに下っていく道が菊坂通りです。この坂道の街灯にはこの街にゆかりのある文豪たちの説明書きがあって、それらを読みながら歩くのも楽しいものです。

甘味中華「ゑちごや」では自家製のお餅をラーメンに入れた、「もち入りラーメン」が食べられる(画像:下関マグロ)



 菊坂通りを下りきり、もうすぐ言問通りだという場所に「ゑちごや」(文京区本郷)という甘味処を見つけました。和菓子を売っているだけではなく、店頭の食品サンプルを見れば、ラーメンやタンメンもあるようです。筆者が勝手に「甘味中華」と呼んでいる町中華のひとつのスタイルです。のれんには「創業明治10年」とありました。西暦に直すと1877年。「もしやこれは、最古の町中華か」とのれんをくぐってみました。

麺は自家製麺、もちろんお餅も自家製

 店内はカウンターとテーブルのお店。その雰囲気は町中華というよりも甘味処という印象です。迎えてくれたのは、3代目の太田泰(ゆたか)さん(83歳)。

 創業についてうかがってみれば、初代の太田小太郎さんが新潟からやってきて、親戚の店を借りて青果店を開業したのがこの年だといいます。上野と新潟が鉄道でつながれるのはもっと後ですから、初代は歩いてここ菊坂にやってきたのかもしれませんね。なお2代目が生まれたのが1899(明治32)年。

「おやじがおふくろと結婚した大正の終わりごろから、夏にかき氷やあんみつを出すようになって、これがけっこう売れたようです」

と泰さん。それから徐々に和菓子屋になっていったのですね。

「ゑちごや」の外観(画像:下関マグロ)



 3代目の泰さんが生まれたのが1936(昭和11)年。お兄さんがいたそうですが亡くなったので、泰さんが長男の代わりとなったそうです。泰さんが20歳のときにお父さまが急逝。下に5人も兄弟がいたので、3代目の泰さんは必死に働きます。

「和菓子屋さんって、朝に商品を作ったら、あとはそれを売るだけでしょ。で、もっと商品の幅を広げようってことで、店を閉めたあとで近所の中華料理屋へ行って、皿洗いをする代わりに中華料理の作り方を教わったんですよ」

 ここで、甘味処と町中華が合体するわけですね。メニューを見ればラーメンや中華丼のメニューとともに焼き魚定食などをあります。もちろん、あんみつやお団子などもテイクアウトだけではなく、店内でいただくことができます。

 筆者が「甘味中華」で必ずいただくのが、餅入りのラーメン。ゑちごやでのメニュー名は「もち入りラーメン」とそのまんま。普通の町中華ではなかなかお目にかかれないメニューですよね。

 麺は自家製麺だそうです。もちろんお餅も自家製なので、ここでしかいただけない味。ラーメンのスープを吸ったお餅はとてもおいしくて、幸せな気分になります。「もち入りラーメン」の価格は650円です(2020年1月から680円)。

83歳になっても好奇心旺盛な店主

 2018年の暮れにお邪魔したとき、泰さんが嬉しそうにQRコードによるスマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」のキットを見せてくれました。「やるんですか?」と聞けば、「来年(2019年)からやろうと思ってるんですよ」とまるで少年のような笑顔でおっしゃる。83歳になっても好奇心は旺盛のようです。

昭和11年生まれの「ゑちごや」3代目店主・太田泰さん(画像:下関マグロ)



 というわけで、年が明けて、筆者はスマホにPayPayのアプリを入れて、同店を訪問しました。お会計のときに「このバーコードを読み込んで」と泰さん。無事に決済を済ませたところで、「PayPayどうですか?」と聞いたら、笑いながら「まだよくわかんないよ、あんたで4人目だから」とのこと。

 明治10年創業のお店も今はこういったスマートフォン決済をするなんて、初代は夢にも思わなかったでしょうね。

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