隅田川近くの「洗濯機カフェ」に老若男女がこぞって集まるワケ
墨田区千歳にある「喫茶ランドリー」。洗濯機や乾燥機、さらにはミシンとアイロンまで備えているという、一風変わったカフェです。ここには子どもや主婦、サラリーマン、お年寄りまで、地域の人々がなぜかこぞってやってくるといいます。
カフェ、ランドリー、その機能を超えて
大西さんたちが気を配るのは、誰でも立ち寄れる場所にするだけでなく「この場所を自由に使ってください」と地域に向けてオープンにすること。そうすることで開店以来、思いもよらない交流が芽生えてきたといいます。
開店間もない頃、「店内のスペース借りていいですか?」と集まってきた近所の女性たち数人が、おもむろにパン作りを始めたことがあったそうです。さらに焼き上がったパンを女性たちは、店内でコーヒーを飲む客たちに景気よく振る舞いました。それまで話をしたこともない住民同士の間に会話が生まれた瞬間でした。
「家事室」と名付けられた小上がりのランドリースペースでは、幼稚園・保育園に上がる子どもを持つ母親たちが上履き袋や小物袋を縫うために備え付けのミシンを囲み、その隣では家族の洗濯物を抱えてやってきた別の女性が、広々とした作業台の上でアイロンがけ。「家でやるより気持ちいいわー」と、ピンとしわの伸びた服を抱えて帰って行ったそうです。
記者が取材に訪れた日、小学生たちが家事室に集まって勉強に励んでいたのも、学習塾に勤める常連客の女性が「子どもの勉強を見てあげる会を開きたい」と提案した企画。

「カフェ」や「ランドリー」といった機能を超えて、地域に交流をもたらす仕組みがここでは回り始めているようです。
静かにつながりたい人にも、居心地のいい場所
わいわいと賑わう空間は一方で、その賑わいが醸成されればされるほど後から来る人にとって踏み込みづらい場所にもなってしまう半面もはらんでいます。
そのため大西さんたちが心がけるのは、「いつも決まって同じ“属性”の人たちがいる状況をつくらない」ことだそう。
ある日の午後には小学生が宿題をする集まりが開かれて、またある夜は背広姿のサラリーマンたちが仕事のための勉強会を開催。別の昼には年配のご婦人ふたりが趣味の編み物に興じていき、また別の日になれば、店内にいるお客さんが全員ひとりで静かにお茶を楽しんでいる。
ベビーカーに乗った赤ちゃんも、杖を突いたお年寄りもひとつのカフェに居合わせくつろぐことで、さながら「まちの縮図」がそこに立ち現れます。

「そういう役割を担う『1階』が増えていくことは、誰かにとっての居場所ができること、また街のなかでの関係が豊かになることにつながります。受け皿となる場所ができることによって、誰かの何気ないアイデアが形になり、別の誰かの助けになることだって起こり得ます。その『場所』の役割を担うのは、もちろんカフェでなくても、居酒屋でもクリーニング店でもコンビニでもいいのです」(大西さん)。
2018年1月の開店から間もなく2年。少子高齢化や人口減少が進み、社会や地域のネットワークをいかに構築していくかが課題とされる今、解決に向けたひとつのヒントが「喫茶ランドリー」にありました。

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