目玉焼きの下にとろ~り肉と野菜あんかけがチラリ 浅草「あさひ」の中華丼【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(2)

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目玉焼きの下にとろ~り肉と野菜あんかけがチラリ 浅草「あさひ」の中華丼【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(2)

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下関マグロ

サンポマスター、食べ歩き評論家

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都内散歩と食べ歩きにくわしいフリーライターの下関マグロさんが、都内一押しの「マグロ飯」を紹介します。

「町中華」とは何か?

 友人でフリーライターの北尾トロと町中華探検隊を結成したのは2014年のはじめでした。きっかけは2013年の暮れ、高円寺を散歩しているときに「大陸」という中華料理屋さんが閉店したことを知ったからです。

 それをトロに告げると、彼は「ああゆう『マチチュウカ』は、どんどんなくなるね」と言うのです。

 えっ、マチチュウカ?

表記を聞けば「町中華」。トロによれば、昔からある言葉だといいます。それから僕たちは、都内の町中華を巡るようになったのです。なお町中華とは、中華料理などをはじめとする庶民価格のメニューがたくさんある食堂の総称です。

あさひの中華丼(850円)。チャーシュー、目玉焼きがのっている珍しいビジュアル(画像:下関マグロ)



 新宿御苑前駅の近くに「来々軒」という町中華があり、トロとふたりで訪れました。老夫婦が切り盛りするカウンターだけのお店で、店名からしてバリバリの中華という感じなんですが、表の短冊には「当店一番人気 オムライス」と書いてあるのです。そう、町中華は中華といいながらもオムライスやカツ丼、カレーライスを出していたりするのです。当然のようにオムライスをいただきました。

 これは面白いと思ったら、その年の夏、ご主人が熱中症で倒れたとかで店を閉めてしまったのです。そうか、町中華ってなくなっちゃうんだということを思い知らされました。

 散歩の記事を書くことが多いのであちらこちらを歩くのですが、これまで見過ごしてきた町中華がやたらと目に入ってくるようになってきました。そこでいいかんじの店構えの町中華を見つけるとデジカメで撮影し、後日うかがうということを開始。そうしていると、どんな外観のお店がいい町中華なのかがわかるようになってきたのです。

肉と野菜のあんかけは目玉焼きの下に

「浅草の観光客が行かないエリアを歩く」という散歩記事を書くためにロケハンしているときに見つけたのが「あさひ」(台東区浅草3)です。

浅草観音裏、柳通りにある老舗町中華の「あさひ」(画像:下関マグロ)



 浅草寺から言問通りを越えると観光客もまばらになってきます。このあたりのエリアは、「観音裏」とか「奥浅草」と呼ばれています。柳通りという文字通り柳の並木がある通りを行くと、なんともいいかんじのたたずまいのあさひがあります。

 ここは間違いなくいい町中華だろうと外観を見て直感しました。年季の入った店舗ながら、暖簾は新しいかんじです。しかも、暖簾がまっすぐではなく、ちょっとアーチ型になっているのもいいですね。

 ほどなく訪問したのですが、店内はカウンター席にテーブル席が3つあって、ひとりでもグループでも気軽に入れるお店です。お料理はどれもおいしくて、ちょっと通っていろいろいただきました。なかでもちょっと変わっているのが中華丼(850円)でした。

 普通、中華丼はご飯全体に肉や野菜のあんかけが掛けられているじゃないですか。でもあさひの中華丼はチャーシュー、ナルト、目玉焼きがのっている独特なビジュアルなんですよ。目玉焼きの下に肉と野菜のあんかけがあって、なんだかとってもゴージャスなんですよ。いただいてみるとこれがめちゃくちゃおいしいのです。

 4代目の植木隆一さんにこの中華丼について聞けば、「先代からのものをそのままつくっているだけです。最初はよそで中華丼を食べて目玉焼きがのっていないのに逆にビックリしました」とのこと。

 創業時期を聞けば、「資料が残っていないから、創業年や店名の由来もわからないんですよ。2代目の祖父に聞いたら、『戦争中だから“あさひ”ってつけたんじゃねえか』って言ってましたよ、だから創業は戦争中じゃないかと思うんですけどね」と、歴史ある老舗ならではの話です。

 それにしても、戦時下の日本人にとってあさひというワードは戦意を高揚させるものだったのですね。たとえば、1937(昭和12)年に国家によって作られた「愛国行進曲」の歌詞は、歌いはじめが「見よ東海の空開けて、旭日高く輝くは」というものでした。旭日とは朝日のことです。

若旦那は新テイストメニューを提案

 厨房を担当する4代目の植木隆一さんはお料理をしているときは厳しい表情ですが、お話をすると下町の気さくなダンナさんという感じです。フロアは息子さんの5代目・隆正さんがつとめていて、世代交代もうまくいっているようです。先代からの味を守っている4代目ですが、新しいものへも果敢に挑戦しています。

 これまでの町中華ではちょっとなかった「パクパクパクチーそば」(900円)は女性にとても人気です。ネーミングも面白いのですが、奇をてらっているわけではなく、エスニックなラーメンに仕上がっていて、とてもおいしいのです。

パクパクパクチーそば。たっぷりのパクチーが入っている(画像:下関マグロ)



 古いけど新しい町中華の名店はメディアでも取り上げられる機会が多いので行列しているときもありますが、並んで食べる価値アリですよ。

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