中央線「ラインモール構想」現地レポート ベンチャー魂とローカル人情の融合を見よ

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中央線「ラインモール構想」現地レポート ベンチャー魂とローカル人情の融合を見よ

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百瀬伸夫

IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザー

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「開かずの踏切」解消のために駅舎が高架化されたJR中央線。新たに生まれた高架下は今、若者のビジネスチャンスや地域の交流を生み出す場として変貌を遂げています。IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザーの百瀬伸夫さんが現地を歩きました。

意欲ある若者に起業のチャンス

 最近、駅の高架下を活用した商業施設が増えているのをご存じですか?

 比較的知られているのはJR秋葉原~御徒町間に生まれた職人の街「2k540 AKI-OKA ARTISAN」や、東急沿線「中目黒高架下」などですが、JR中央線でも高架下の空間を大胆に利活用する「中央ラインモール構想」が展開されています。

 この中央ラインモール構想、きっかけとなったのは中央線の「開かずの踏切」対策でした。

 JR東日本は、同線三鷹~立川駅間の駅舎を地上型から高架型へと建て替え、2014年に両駅区間の「開かずの踏切(ピーク時の遮断時間が1時間当たり40分以上となる踏切)」をすべて解消させました。

 この高架化によって駅周辺の回遊性が高まり、エリアの利便性が飛躍的に向上しました。さらに、新たに誕生した高架下の空間を重要なビジネスチャンスと位置づけ、「中央ラインモール構想」を掲げたのでした。

 対象となる三鷹~立川駅間の高架下は、全長9km・7万2000平方メートル。都心型の商業施設とは異なり、郊外ならではの地域コミュニティーを重視している点が特徴で、地域の若い起業家などを呼び込むなどして今注目を集めています。

2016年度のグッドデザイン賞に輝いた 「コミュニティステーション東小金井」(画像:百瀬伸夫)



 中央線沿線といえば新宿や中野、吉祥寺や立川など特色あるエリアが数多くありますが、都心を離れて公園や緑に恵まれた三鷹以西もまた大変人気の高い街々。その三鷹以西の5駅――武蔵境・東小金井・武蔵小金井・西国分寺・国立に質の高い店舗をそろえて、駅直結の商業施設としてオープンさせています。

 これらの商業施設は「ののわ(nonowa)」とう名称に統一されています。高架下のモールには商業施設、保育園、クリニック、デイサービス、駐車場など多彩な施設を設け、高架下の遊歩道を「ののみち」とネーミングしています。

 なかでも注目は、武蔵境~東小金井駅間の高架下にある地域共生型商業施設「コミュニティステーション東小金井」。地域の起業家が店舗やアトリエを開いています。

 都心の再開発ならタワーマンションや大型商業施設が建設されるところでしょうが、そこは中央線、少し様相が違います。夢を持つ地域の若者たちが中核にいて、スペースをシェアし合いながら中央線らしいクリエイティブなお店「Atelier tempo(アトリエ テンポ)」を切り盛りしています。2019年10月末には5周年を迎えました。

 ここでは5組のメンバーが、新しい日常料理の店、ペットフード・グッズ店、絵とデザインのアトリエ、革小物・鞄店、セミオーダー靴店……と、それぞれ質の高い商品を展開しています。

高架下に広がる、新たな形の商店街

 かつて街に商店ができる時というのは、こんな風に小さな店が1軒、また1軒と増えていき、最終的には商店街が築かれたのでしょう。そしてこの高架下も数年の時間をかけて今、まさしく「高架下商店街」といった様相で、ひとつの街として形作られ始めたところです。

「コミュニティステーション東小金井」の隣にあるのは、東小金井事業創造センター「KO-TO(コート)」(小金井市梶野町)で、小金井市が設置した公共の創業支援施設です。

 個室、ブース、シェアスペースをシェアオフィスとして利用でき、さらには住所の利用や法人登記、会議室の利用も可能。使い勝手の良さから、教育、介護福祉、食、クリエイターなどさまざまなな業種の起業家が集まっています。

「KO-TO」に続く「PO-TO(ポート)」は、東京都より「インキュベーション施設運営計画認定事業」に指定されたシェアルーム。店舗・工房・ショールームなどとして利用することができる施設です。

「PO-TO」に出店している個性豊かな店舗群(画像:百瀬伸夫)



 内装と空調設備が完備されていて、こちらも法人登記ができるので、「雑貨やカフェなど小さなお店を出したいけど資金的に難しかった」という人やベンチャー企業の取り組みなどを後押ししてくれる施設です。

 いずれの事業も順調で、2019年3月には隣接した場所に「MA-TO(マート)」が開設。こちらは「食とものづくり」のシェア施設で、3Dプリンターやレーザー加工などを備えた工房、お菓子や飲食物の製造・販売ができるキッチン、店舗として利用できる個室などがあり、「つくる」から「売る」までをワンストップでかなえることができます。

 得意のスイーツ作りノウハウを活かしてケーキ屋さんを始めたり、 オリジナルのアクセサリーを作ったり、趣味を活かした教室を開いたりといったチャレンジが可能です。「やっと貯めた資金で設備投資をしても失敗したらどうしよう」という起業家のハードルを下げてくれる頼もしい施設です。

 KO-TO、PO-TO、MA-TO、は道路側だけでなく裏側にも工房や事務所などがあり、現在なんと100以上の起業家が集積する創業支援施設に成長を遂げました。

 若い人が多く、横のつながりも活発で、業種の垣根を越えたコミュニケーションがすでに生まれており、今後は新たな産業の創出も期待できます。ゆったりとした時間が流れているような街並みですが、高架下には100人分の夢が詰まった、官民連携による新しい形の「新・商店街」が広がっているのです。

地域の人々を家族に見立てた「文化祭」

 この東小金井高架下の「コミュニティステーション東小金井」広場で2019年10月、「家族の文化祭」という名の催しが開かれました。

 地域で暮らし、集まる仲間を「かぞく」と捉え、大人も子どもも一緒に楽しめるイベントです。

 内容は、都心ではまず体験できないような「ローカルファースト」。都心のイベントのように「人込みに揉まれて過ごしたせいか、終わるころには何だか疲れた」などという感じとは大違いです。子どもの頃、遊園地でメリーゴーランドに乗って、家族に手を振ったあの瞬間のような、温かく幸せ感にあふれたイベントです。

高架下で展開される「家族の文化祭」。さまざまな演奏会が開かれている(画像:百瀬伸夫)



 イベントのテーマは「根ざす」。植物にちなんだメインワークショップの「まちなか植物観察」では、イラストレーターとルーペやメモ帳など観察グッズを作り、植物観察家とまち歩きをしてファミリーで植物観察。

 オープニングパレードは小学生による古いヨーロッパ音楽などの演奏です。さらにはプロによるフルート、クラリネット、チェロなどのステージ。蓄音機や古いラジオから懐かしい音を聴かせてくれる「空想レコード店」なんていうユニークな出し物もありました。

 昼食にひと味違うフード店のお弁当を食べた後は、並んでも食べたい人気のクッキー店で焼き菓子を。ワークショップで足もみ体験をしたり、草木染めコーナーを眺めたり、サテライト会場の「梶野公園」では、けん玉やベーゴマ遊びなどに子どもも大人も一緒になって盛り上がっていました。

 東小金井駅では連携イベント「東小金井駅開業55周年記念 親子で鉄道フェス」が開催されて、ミニ列車、鉄道模型に男の子たちが目を輝かせ、制服を着た子ども駅長の写真を撮るママでこちらも大賑わいでした。

魅力的な店々、その一部をご紹介。

 この場所には夢いっぱいで起業したステキなお店や会社がたくさんあるのですが、少しご紹介します。

●poppin’soda party (ポッピンソーダパーティ)
 パーティーアイテム&バルーンショップのご店主、石井あゆみさんは子育て中のお母さん。保育園前という立地を生かし、PO-TOで起業しました。その後お子さんが幼稚園に入ったことで時間的制約ができたため、MA-TOの屋外店舗に移転。バルーンで飾られた白いワゴンが高架下のアイコンとなり、ヨーロッパの街角のような明るく楽しい一角になっています。子どものバースデーパーティーにはたくさんのバルーンで演出するのが最近のトレンドですが、以前キャビンアテンダントだった石井さんの接客はお客様にも評判のようです。

● studio83 (スタジオハチミチ)
 事務所兼店舗を構える辰巳知子さんは、まちに開かれた建築設計事務所としてご夫婦で2015年にPO-TOで開業。知的で落ち着いた雰囲気の辰巳さんが住宅、店舗、事務所の設計から、中古戸建やマンションのリノベーションまで、理想の場所づくりのパートナーとして気軽に相談に乗ってくれます(一級建築士、福祉住環境コーディネーター、既存住宅診断士)。

建築士の辰巳さんが手にしているのは「建築模型展示中」のパネル(画像:百瀬伸夫)



● HACOBE(ハコベ)
 広告制作会社のアンテナショップとしてPO-TOで開業。オリジナルデザインの紙製品や小物を社長の妻がおもてなしの接客で販売します。 Tシャツのデザイン、パンフレット、ショップカード、ロゴなど印刷できるものなら何でも対応してくれます。2020年の「EDO×SPORTSカレンダー」はオリンピックイヤーにふさわしく、江戸時代を思わせるちょんまげ・着姿の人々が自転車に乗ったりサッカーやホッケー、野球をしたりとセンス抜群のイラスト入りです。

 いかがでしょうか。私は、高架下からの「新しいまちづくり」が確実に始まっていると感じています。

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