鹿ハンバーグから猪ウィンナーまで――加速する「ジビエ人気」の裏に潜む「3つの課題」とは?

  • ライフ
鹿ハンバーグから猪ウィンナーまで――加速する「ジビエ人気」の裏に潜む「3つの課題」とは?

\ この記事を書いた人 /

アーバンライフ東京編集部のプロフィール画像

アーバンライフ東京編集部

編集部

ライターページへ

家畜ではなく野生動物の肉のことを指すジビエ(gibier、仏語)、あなたは食べたことありますか? 日本ではもともと害獣駆除の一環だったジビエが今、東京都内でにわかに注目を集め始めているようです。

都内初、百貨店でジビエ精肉の販売スタート

 ジビエ(gibier、仏語)とは、牛や豚、鳥など畜産の肉に対し、狩猟によって捕獲された野生動物の肉を指します。日本では鹿やイノシシの肉を指します。

 日本ではまだまだ馴染みの薄いジビエが今、東京都内でじわりと消費拡大の動きを見せているようです。2019年11月には東京ビッグサイト(江東区有明)で6回目となる「日本ジビエサミット」が開催されたほか、都内百貨店の生鮮コーナーでは同21日(木)、都内初となる鹿の精肉の販売が試験的に始まりました。今後ジビエが私たちの食卓に並ぶようになるには、どのような課題があるのでしょうか。

ジビエを使った料理の試食も並んで、大いに賑わった日本ジビエサミットの会場(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影)



「第6回日本ジビエサミットin東京」2日目となる21日(木)。講演セミナーの特別講師として登壇した、畜肉加工品などを製造・販売する柿安本店(三重県桑名市)の赤塚保正社長は、同日スタートさせたばかりの事業を公表して会場の関係者を沸かせました。

「実は本日21日から、試験的にではありますが、都内・池袋の百貨店で鹿の精肉の販売を始めたところです。実演販売をやっています。百貨店でジビエの精肉を販売するというのは、おそらく初めてのことではないでしょうか。お客様の声に耳を傾けながら、(ジビエ消費拡大に向けた取り組みを)どんどんブラッシュアップしていければと考えています」

 赤塚社長はジビエの健康面での認知が進んでいる点に着目。自社の惣菜ブランド・柿安ダイニングで「鹿肉そぼろ&牛肉しぐれ煮丼」「鹿肉入り和風おろしジビエハンバーグセット」などを販売し、好評を得た実績を報告しました。

 さらに外食大手などでつくる日本フードサービス協会(港区浜松町)の食材調達・開発等委員会の委員長として、数年前から同委員会の重要施策のひとつに「ジビエの外食メニュー化の推進」を掲げていることを紹介。

 国内ジビエ加工処理施設の視察を委員会のプログラムに組み入れ、加盟各社の仕入れ責任者などに現場を見学してもらうことにより「ジビエは安全安心」という理解を深めることに尽力していると語りました。

ニーズが高まれど供給が追い付かないジレンマ

 注目を集めるジビエの消費拡大を後押しするのが、2018年5月に農林水産省が導入した「国産ジビエ認証制度」です。

 同制度は野生の鹿やイノシシ肉を消費者が安心して食べられるよう、流通品の安全性と透明性を図るために衛生管理基準や認証体制に明確な基準を設けたもの。

 例えば、それまで義務化されていなかったラベル表示(捕獲地・内容量・保存方法・加工者など)をルールのひとつとして明記。これにより、畜産加工肉と変わらない安全性を消費者に明示する体制が整ったことになります。

2018年5月に制定された「国産ジビエ認証制度」の意義について赤塚社長らが議論した講演セミナーの様子(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影)



 一方、ジビエの普及にはまだまだ課題も山積しています。

 赤塚社長と、対談相手を務めた日本ジビエ振興協会(長野県茅野市)代表理事の藤木徳彦さんの両者が挙げる課題は大きく3つ。

 ひとつめは、ジビエ加工処理施設の不足です。地域の猟師が捕獲した鹿やイノシシはジビエ専用の処理施設に持ち込まれて冷凍庫などにストックされますが、施設数や施設内の受け入れキャパシティーが足りずに買い取れないということも間々あるのだそう。ジビエの流通拡大のために加工・保管インフラの整備はもっとも急ぐべき課題とも言えそうです。

 次に、コストの軽減です。現在、食用に使われる主な部位はロースやモモなど。それ以外の部位は廃棄されてしまうことが多く、結果として利用部位の価格が高騰する状況があるといいます。この問題を解消するためのヒントが、柿安ダイニングの「鹿肉そぼろ」のようにさまざまな部位を使ったメニューを展開することにあると言えそうです。

 そのために必要なのがジビエ専門の料理人を育成すること。せっかく良質な食材であっても、それに合った調理をしなければ食材の本当の良さが消費者に伝わらないこともあります。ジビエに特化した調理技術を持つプロを育てることで、一般の消費者が懸念しがちな「臭みがある」「硬い」「高い」といったマイナスイメージの払しょくにつながれば――。そう、ふたりは口をそろえました。

出展者が続々、ターゲットは東京・女性??

 今回のジビエサミットは2019年11月20日(水)~22日(金)の日程で開催。会場となる東京ビッグサイト西展示ホール内には、全国各地の企業・自治体のブースが並び熱気を帯びていました。

 北海道鷹栖(たかす)町の北建建設は、狩猟・加工・販売まで一貫して行うエゾ鹿の商品などを陳列。本来は羊肉が定番の北海道名物ジンギスカン用としてエゾ鹿味付き冷凍肉を展開するなど、ユニークなオリジナル商品が特長です。

 同社ジビエ事業部の竹内寿和さんは「取り組みが始まった当初のジビエは、害獣駆除という目的が前面に押し出されていました。しかし実際に食べてもらえれば分かりますが、鹿肉は非常においしく魅力的な食材。まずは食べてもらう、知ってもらうことが大事ですね」。

出展者と来場者がその場で商談を始めるほど熱気があふれた「日本ジビエサミット」の会場(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影)



 岐阜県揖斐川町から出展したキサラエフアールカンパニーズの社長、所千加さんは「主なターゲットは30~40代の自立した女性たち。仕事から帰った後、自宅でお酒を飲むお供として選んでもらえるよう、手に取りやすい値段やパッケージのデザインにもこだわっています。東京都内の百貨店さんなどにも商品を置いてもらっていますよ」。

 今回出展した企業のほとんどが、物販品や精肉の卸先として東京都内の小売業・レストランを挙げていました。

 会場で振舞われていたイノシシのウィンナーや燻製、鹿のスネ煮込み、ハンバーグなどを試食してみたところ、動物っぽい臭みはまったく感じず、逆にギュッと引き締まった旨味がとても真新しい印象。お肉としてのおいしさは申し分なく、牛や豚とはまったく異なるこの味わいは新しもの好きの「肉党(肉食好きの人)」たちをグサグサ刺激するはずだと感じました。

 熱烈な肉党の一員として、この味を街のレストランや自宅で普通に食べられる日が来ることを願わずにはいられません。

「魚は養殖より天然が人気。肉もそうなるといいね」

 サミットのある関係者の言葉が印象的でした。「ジビエの魅力は、畜産と違って自然そのものによって育てられた、たくましく引き締まった旨味です。日本人は、魚と聞くと天然ものに目がないけど、肉となると家畜ものに慣れてしまっている。肉も『天然もの』の良さが広く知られるようになるといいですよね」

もとは害獣対策のひとつだったジビエ料理。会場には害獣被害防止に関する出展も並んだ(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影)

 ジビエは、精肉の販売こそまだまだ一般的ではありませんが、加工食品の物販は東京都内でも百貨店などで見つけることができます。野趣あふれる旨味とはどんなものなのか、街で見かけたらぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。

関連記事