もはや子どもは親の「投資対象」なのか――増加する都内世帯の教育費から考える

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もはや子どもは親の「投資対象」なのか――増加する都内世帯の教育費から考える

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言で浮き彫りとなった、地方と大都市圏の教育格差。これらの課題は今後どのようになり、また背景には何があるのでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

全国と東京23区の教育費の変動

 2020年度から実施される予定だった大学入試共通テスト。しかし英語の民間テスト導入を巡る萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言で、地方と大都市圏での機会格差や教育格差が浮き彫りとなり、メディアで大きく取り上げられました。

 一般的に子どもにかける教育費は、大都市圏の家庭の方が多いと言われています。しかし全国平均と比べ、どの程度の開きがあるのかはあまり知られていません。今回は、東京23区の教育費の変動や増加傾向が続く原因を探っていきたいと思います。

子どもと教育費に関するイメージ(画像:写真AC)



 総務省が実施する家計調査で、1か月にかかる教育費に関して、世帯がふたり以上かつ勤労者世帯の全国平均と東京23区を比較してみると興味深いことが分かります。

 2000(平成12)年度の全国平均は1万8261円、東京23区では2万4862円と差は約6000円でした。教育費は2014年にいったん底になり、その後は増加傾向に転じています。2014年度の全国平均は1万8094円、23区は2万2037円と差は約4000円。しかし現在はさらに拡大しています。

 2018年度を比べてみると、全国の教育費は1万9131円と1000円程度の増加に対し、東京23区の教育費は3万5932円と4年間で1万3000円以上も増加しているのです。両者の差は約1万5000円になり、数値だけ見ても地域格差は明らかとなっています。

比例する23区の教育費と中学受験者数

 東京23区の教育費の増加と、国私立中学受験者数の増加は深く関係しています。中学受験者数も2014年度を底に、2015年度以降は増加しています。首都圏中学模試センター(千代田区神田神保町)の調べによると、2019年に行われた首都圏の国私立中学の受験者総数は推計4万2000人。東京都教育委員会の「平成30年度 教育人口等推計報告書」では、23区での児童数は2023年度までに約3万人の増加が予想されています。

子どもと教育費に関するイメージ(画像:写真AC)



 そのため中学受験者数の増加は今後も続き、結果として23区の教育費は縮小することがないと考えるのが自然です。むしろ23区とそれ以外の地域、もしくは中学受験が盛んな地域とそれ以外の地方で教育費の差は埋まりようのないほど広がっていくでしょう。

 ここ数年の首都圏を中心とした中学受験熱の高まりは、2020年度からスタートする大学入試改革や私立大学の定員厳格化が影響していると指摘されています。得体のしれない新しい入試システムや人気私立大が狭き門となっている現実を前にし、保護者の「早い段階で道を作ってあげたい」「人気のある私立大への切符を確実に掴み取りたい」という親心がそうさせているのでしょう。

 それと同時に、教育費はある意味で「保険の色合い」が濃くなっています。子どもにとって最善かつ実益を伴う教育を与えたいと考える親が増え、「わが子が幸せになる最短ルート」「生活水準を落とさない人生」を求めているのです。自分たちの成功体験をわが子に無駄なく掴んで欲しいという気持ちが、教育費に顕著な形で表れています。

 富裕層を中心として、子どものためにお金を惜しまない親の存在が東京23区の教育費を伸ばしているのは間違いありません。富裕層でなくても、子どもがひとりの家庭はお金をかけがちです。教育という「すぐに結果の出ないゴール」に向かって、都心に住む教育熱心な親はまい進します。

 東京23区の公立小に通う児童数の増加も予想されることを踏まえると、より良い教育環境を求める家庭は今以上に都心に集中してくると考えられます。教育を重視する家庭が集まれば、同様に教育費が増加するのは自然なことなのです。

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