神田で「平安時代の古文書」が売りに出されるってホント? 知られざる古書の入札イベント、さっそく話を聞いてきた

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神田で「平安時代の古文書」が売りに出されるってホント? 知られざる古書の入札イベント、さっそく話を聞いてきた

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「古典籍展観大入札会」なる催しが、2019年11月15日(金)から東京・神田で開かれます。奈良時代から明治時代までの古書や浮世絵など約2000点が出品されて、誰でも入札に参加できるそう。ただし、希少な作品には億単位の値段が付くこともあるとか……。

1世紀前の作品を、令和の東京で堪能する

 奈良時代から明治時代までの歴史的古書が並ぶ「古典籍展観大入札会」が、2019年11月15日(金)から東京古書会館(千代田区神田小川町)で始まります。歴史の教科書で見覚えのあるような作品を生で観ることができる、極めて貴重な機会です。

「古典籍展観大入札会」に並ぶ貴重な出展品の数々(2019年11月14日、遠藤綾乃撮影)



 出展されるのは古写本や古版本、名家の古筆(書簡)、古地図、錦絵、絵巻物、かるた、屏風などなど、およそ2000点。すべて会場で実際に手に取ることができます。さらに、欲しいものがあれば入札に参加することも可能です。

 ただし、「1点10万円以上(額・幅物20万円以上、嵩物30万円以上、屏風は100万円以上)」という最低入札価格の設定あり。……これは、本気で欲しいものがある場合には、お財布どころか銀行の通帳を握りしめて会場へ向かう必要があるかもしれません。

目玉は、西本願寺本三十六人家集の「石山切」

 主催する東京古典会は、東京都古書籍商業協同組合のなかで主に古書を扱う業者からなる組織。毎年この「大入札会」を開催していて、今回の目玉のひとつは「西本願寺本(にしほんがんじぼん)三十六人家集」の一部、「石山切(いしやまぎれ)」という古筆だそうです。

 西本願寺本三十六人家集は、三十六歌仙の和歌を集めた平安時代末期の装飾写本。三十六人家集のまとまった写本としては最古のもので、国宝にも指定されています。

 この三十六人家集のうちの「貫之集 下」と「伊勢集」が、西本願寺の諸事情により1929(昭和4)年に分割されて、もともと本願寺があった大阪の石山(現在の大阪城付近)にちなんで「石山切」と呼ばれるようになったのが、今回の出展品なのだそうです。

西本願寺本三十六人家集の一部、「石山切」。今回の入札会での目玉のひとつ(2019年11月14日、遠藤綾乃撮影)

 書かれている和歌は残念ながら素人には読み取れないものの、平安時代を代表する唐紙の摺り模様、下絵の装飾、金銀の箔……。「市場に出てくることは極めて稀(まれ)。もしかしたら4ケタの値が付く可能性だってあるぞ」と声を震わす担当者の様子に、古書に疎い記者でさえその希少性を感じずにはいられません。

 そのほかの目玉としては、「奈良絵本」の「住吉物語」「天神の縁起」「きぶねの本地」「かざしの姫絵巻」。また、「大聖武」や「郭沫若書幅」、「伊達政宗書状(七男宗高宛)」など。ピンと来た人は古書に精通した玄人のはず。ぜひ会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

浮世絵は、庶民のための「メディア」

 出展品のなかでもひときわ華やかで目を引くのは、江戸時代の色彩豊かな浮世絵の数々です。

 とりわけ、日本国内にとどまらず世界中にファンの多い葛飾北斎。代表作でもある「富嶽三十六景」からは、「甲州石班澤」「遠江山中」の2作品が登場します。

 こちらは当時、最先端の染料だった舶来物の「ベロ藍(プルシャンブル―)」を用いた、わずか10図しかない藍摺(あいずり)作品のうちのふたつだそう。抜けるように深く繊細な群青が今なお目に鮮やかです。2019年は北斎の没170年に当たるため、より注目が集まりそうだといいます。

人気の高い葛飾北斎の「富嶽三十六景」の作品も出展される(2019年11月14日、遠藤綾乃撮影)



 浮世絵に描かれているのは、大相撲の巡業の様子や当時実在した人気の歌舞伎役者たち、ちまたで流行した盆栽の花々などなど。

 東京古典会宣伝部の纐纈(こうけつ)くりさんいわく、「浮世絵は当時の庶民にとってのマスメディア」。さまざまな流行りものが描かれ、人々が好んで手にしたといいます。会場に並ぶ浮世絵からは江戸を彩った賑々しい庶民文化が鮮やかに蘇ってくるようで、とにかく眺めているだけでも楽しい気持ちになってしまいます。

中国からの来場者が多いワケ

 大入札会の出展品はいずれも、全国の古書業者や収集家、名家が秘蔵していた逸品。先に紹介した最低入札価格は素人にとっては目が飛び出そうな額ですが、これが設定されていることによって所有者が安心して出品でき、優れた品々が多く集まるのが大入札会の特長なのだそうです。

 出展品のうち、日本の古書以外にも中国・宋時代に刊行された本(宋版)など中国関連のものが300点ほど。そのため入札会へ直接買い付けに来る中国人も多いのだとか。近年で最も高い落札価格が付いたのも中国の古書で、その額は億単位に及んだそうです。何ともすさまじい額です。

「中国では1960~70年代の文化大革命で、数多くの文化的遺産が失われました。書物類も例外ではありません。そうした貴重な資料を取り戻そうと入札会へ足を運ぶ中国の研究者、収集家が多いようです」(纐纈さん)

 文化を取り戻したいという希求心が、高額落札の背景にはあるようでした。

 大入札会は15日(金)10時から。16日(土)までの2日間は一般に開放されて、17、18日の両日は古書業者のみ参加可能な一般非公開の入札会だそうです。入場は無料です。

 ちなみに買い主への配慮のため、落札価格は非公表とのこと。今年は一体どの出展品が最も注目を集めるのでしょうか。

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