いったい誰得? 消費増税が生んだキャッシュレス・ポイント還元事業、その痛い「副作用」とは

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いったい誰得? 消費増税が生んだキャッシュレス・ポイント還元事業、その痛い「副作用」とは

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小川裕夫

フリーランスライター

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10月の消費増税に合わせて始まる、消費者にとって一見ありがたく見えるキャッシュレス・ポイント還元事業。その副作用について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

ポイント還元事業、社会の自然な要請ではない

 10月1日、消費税率が8%から10%へと引き上げられます。税率引き上げに伴い、食料品や新聞などの税率を8%に据え置く軽減税率も同時に導入されます。

増税のイメージ(画像:写真AC)



 8%と10%の税率が並立することで、消費者・事業者ともに混乱が起きることは必至です。そして、さらに事態をややこしくしているのがキャッシュレス・ポイント還元事業です。

 痛税感を和らげることを意図して導入されるキャッシュレス・ポイント還元事業は、政府が推進するキャッシュレス化を拡大させる意図も含んでいます。

 クレジットカードや電子マネーによる決済は、紙幣流通の合理化や事務作業の低減といったメリットがあります。消費税率10%への引き上げは、事業者がそれまで使っていた機器を買い替えることになるので、同じタイミングでキャッシュレス化に取り組んでもらおうというわけです。

 ネットで買い物ができるようになり、銀行窓口に行かなくても公共料金などの各種振込が簡単にできるようになったITの時代において、キャッシュレス化は社会の要請ともいえます。

 文明の利器が発達すれば、それに合わせてライフスタイルが変化するのは当然のことです。しかし、政府が目指すキャッシュレス・ポイント還元事業は社会の自然な要請ではありません。キャッシュレス化の進展が想定以上に遅いため、業を煮やした政府が強引とも受け取れる推進策の旗を振っているのです。

税負担回避のための減資に、行政打つ手なし

 消費税を10%に引き上げるタイミングでポイント還元を実施すれば、消費者の痛税感は和らぎます。

キャッシュレス決済のイメージ(画像:写真AC)



 その一方で、キャッシュレス・ポイント還元事業のしわ寄せが47都道府県にのしかかります。

 消費税率10%の引き上げに伴うキャッシュレス・ポイント還元事業の対象は、あくまでも中小・小規模事業者とされています。世間一般に知られるような大企業は、ポイント還元の恩恵を受けられません。

 そうした事態を踏まえ、大企業が中小企業になろうとする「減資」が増えています。減資とは、企業の資本金を減額させる行為のことです。

 日本で経済活動をしている営利企業は、資本金の額によって大企業か中小企業かに分類されます。資本金が1億1円以上になると大企業、1億円以下だと中小企業になります。

 大企業と中小企業では法人税・法人事業税・外形標準課税といった税負担に大きな差が出ます。その知名度と比例して、大企業は経済活動にも大きな社会的責任を負うので、高い税負担が求められているのです。

 対して、中小企業に高い税負担を課すと、経済活動が滞ってしまいます。それは雇用や景気の悪化といった社会不安を増長させます。そのため、中小企業は法人税・法人事業税・外形標準課税といった税負担が軽減されています。

 資本金を減らす減資は、一概に悪い行為と指弾できません。なぜなら、企業活動には好不調の波があり、さまざまな理由で売上や利益が減少することもあるからです。

 例えば、巨額な損失を出したことで経営危機に陥ったシャープ(大阪府堺市)は、2015年に減資をしました。このとき、シャープは中小企業になるべく資本金を1億円に下げようとしています。しかし、世間がそれを許さず、シャープの資本金は5億円で落ち着きました。吉本興業も2015年に約125億円の資本金を1億円へと減資し、中小企業になっています。

 傍目からだと、企業活動が思わしくないから減資したのか、税負担を回避するために意図的に減資したのかが判別できません。まして、課税庁たる都道府県はそれを判断する材料を持っていません。現状、税負担の回避を目的とした減資に対して、行政は打つ手がない状況です。

税の減収によって、行政サービスの質が低下

 昨今は大企業という看板のメリットが薄れているため、むしろ意図的に税負担を回避するために資本金を減額させて大企業から中小企業へと規模を縮小する動きが見られます。

キャッシュレス決済のイメージ(画像:写真AC)



 法人税は国税ですが、法人事業税(法人の事業者に対して課される事業税)や外形標準課税(資本金や従業員数など、外部から見てわかるものを基準に課税する方式)は都道府県税です。減資されると都道府県の税収に影響が出ます。都道府県にとって、減資は大きな痛手です。

 キャッシュレス・ポイント還元事業の対象企業は、製造業なら「資本金3億円以下もしくは従業員300人以下」、サービス業なら「資本金5000万円以下もしくは従業員100人以下」と業種によって条件が異なります。

 業種によって差はありますが、キャッシュレス・ポイント還元事業の恩恵を受けるには、企業の規模を小さくする必要があります。そのため、9月末までに駆け込みで減資をする企業が増えているのです。

 減資する企業が続出することで、法人事業税・外形標準課税の減収が予想されます。消費税率10%の引き上げに伴って導入されるキャッシュレス・ポイント還元事業が、47都道府県の財政を苦しめることになるのです。

 特に、企業が多く立地する東京都や大阪府は減収によって行政サービスの質を低下させるでしょう。大幅な減収は東京都の財政を縮小させ、それは都民の生活にも及ぶのです。

 消費税率10%の引き上げは、私たちの財布を直撃する危機的事態です。他方で、痛税感を和らげるために導入されるキャッシュレス・ポイント還元事業も手放しで喜べる話ではありません。

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