Aマッソ、ゆりやん――攻める方向を誤る「お笑い第7世代」の女芸人たちに、何が起こっているのか?

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Aマッソ、ゆりやん――攻める方向を誤る「お笑い第7世代」の女芸人たちに、何が起こっているのか?

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エタノール純子

芸能コラムニスト

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女性お笑い芸人・Aマッソの発言に批判が相次いでいます。そんな現状について、芸能コラムニストのエタノール純子さんが持論を展開します。

女芸人の炎上

「日本のお笑い」と書いて「男女不平等が当たり前」と読む。女がやる笑いは痛々しい、女は話にオチがない、女芸人は恋愛や結婚をするとつまらなくなる、体を張れない。女性が人を笑わせたいと思ったとき、男性ならきっと考えたことがないであろう、こうしたさまざまな「常識」や価値基準と対峙しなくてはいけなくなります。

お笑い芸人のイメージ(画像:写真AC)



「女がやったら笑えない」ことが山ほどある「ザ・男社会」なお笑い界で先日、とあるふたつの炎上事件が起こりました。当事者はどちらもそれなりに知名度のある女芸人たち。

 9月22日(日)に行われたイベントで、お笑いコンビのAマッソが質問に対して薬局にあるもので返答するというネタを披露。そのネタの中で、「(女子プロテニス選手の)大坂なおみに必要なものは?」「漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ!」というやり取りがありました。

 このイベントを見に行っていた一部の来場客がSNS上に内容を投稿すると、またたく間に情報が拡散。2日後に所属事務所のワタナベエンターテインメントが出した「特定の方のお名前を挙げて、ダイバーシティについて配慮を欠く発言を行った」という謝罪文にも批判が集まりました。後日、Aマッソ本人による直筆の謝罪文も同社サイトに掲載されましたが、今なお波紋を呼んでいます。

テンプレ化された女のお笑いへの反抗

 時を同じくして9月21日、お笑いコンテスト大会「女芸人No.1決定戦 THE W」の優勝者のゆりやんレトリィバァもやってしまいました。イタリア・ミラノで行われたミラノコレクションに訪れた際、ぜい肉を思う存分あらわにした下着の上に着崩した着物を羽織り、さらには全剃りした眉毛とド派手なメイク、猫耳のカチューシャを付けてミラノの街を闊歩する様子を自身のインスタグラムに投稿。すると、「日本の恥」「汚らしい」「まるで娼婦」と、批判が殺到しました。

お笑い芸人のイメージ(画像:写真AC)



 1988(昭和63)年と1989(平成元)年生まれのAマッソと1990(平成2)年生まれのゆりやん。女芸人界のホープと目されている彼女たちは、一体何をしたかったのか。そこには「人を笑わせたい」という純粋な思いだけではやっていけない、女芸人の「業の深さ」が見え隠れしているように思えました。

 その芸風を「尖り」や「毒舌」とも評されるAマッソですが、ふたりとも可愛い顔をしています。普通に可愛いというか、普通で可愛く、モード系ファッションブランドのアパレル店員にいそうな顔です。さらに、黒髪ショートカットに青やグレーといったシンプルな衣装をまとう中性的な出で立ちは、「女芸人としての特徴がないことが特徴」といったコンビです。

 女芸人としての特徴とは、3大要素「デブ・ブス・ババア」。この3つに「エロ、バカ(不思議系)」を加えると、バラエティで引っ張りだこの女タレントの顔が自動的に浮かび上がります。

 ネタで言えば、女性視聴者だけをターゲットにした「女あるある」。つまり女が人を笑わせようと思ったら、こうしたテンプレを使えば簡単です。逆に言えば、そのテンプレから外れている女芸人に生まれるのは、何をやろうが「見方がわからない」とこちらが戸惑ってしまうという状況なのです。

「上沼恵美子を目指さなきゃ」

 Aマッソのネタ担当の加納愛子さんは、そのような現状に強烈に抵抗している人です。ブスでもデブでもババアでもなく、下ネタやバカなフリに頼らずに、女がガチの笑いを取りにいく――これはもはやバズーカが飛び交う戦地へ磨いたナイフ1本で飛び込んでいくようなことですが、それでも彼女たちはその芸風にこだわり、「女芸人としてではなく、芸人として売れたい」とずっと言っています。「女芸人No.1決定戦 THE W」にももちろん不出場で、Aマッソは大会の存在にすら憤りを感じていると思われます。「下駄履かせてんじゃねえよ」、と。

お笑い芸人のイメージ(画像:写真AC)



 テンプレに頼らないということは、若手イケメン俳優にキャーキャー言って場を盛り上げたり、女優やアイドルに嫉妬したり、「ブスが言うな」と突っ込まれたりといった「役割」を引き受けない代わりに、実力を尖らせなければいけません。その焦燥感から出たのが、先のライブで出た差別発言だったと思われます。

 あの発言自体は絶対に許されないことですが、テンプレがはびこる女芸人界におけるAマッソの「もがき」が、「毒舌」として悪い方向に出てしまったのではないでしょうか。ハリセンボンの次におかずクラブが出て、その次にガンバレルーヤが出る。その循環で回っているのが悲しき女芸人界です。Aマッソは「業界への一石の投じ方」を誤ってしまったけれども、やろうとしていることは理解できます。

 Aマッソが目指すのは上沼恵美子でしょうが、上沼師匠がすごいのはその喋りによる説得力です。あの人は10代の頃から「何歳の女が言っても面白いこと」「どんな見た目の女が言っても面白いこと」をずっと言い続けてきました。今回の件を十分に反省し、師匠のように、単なる毒や尖りだけではない笑いを掴んでほしいです。

優等生がゆえの承認欲求が向かう先とは

 Aマッソに熱を上げすぎたので短くまとめますが、ゆりやんはもはや優等生ならではの「認めて欲しい」がダダ漏れしているような気がします。NSC(吉本総合芸能学院)を主席卒業という華麗な経歴をひっさげ、「女芸人No.1決定戦 THE W」の初代チャンピオンに。先日にはアメリカのオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」に出演して世界進出を果たしましたが、視聴者からはたびたび「面白さがわからない」と評されています。

 彼女を見ているとウケているときより、「わ~、女芸人なのにこんなこともできちゃうの」「その勇気すごいな」という賞賛を浴びているときの方が気持ちよさそうです。奈良県立高田高等学校と関西大学文学部を卒業という学歴を見ても、昔から勉強ができる子だったのでしょう。そういった優等生で真面目だからこその、「不真面目である自分」に酔ってしまう感じ。不真面目で変なことができることを認められる悦びが欲しかったんでしょう、あの着物の着崩しを見るに。

 ゆりやんを「ポスト渡辺直美」とする見方もありますが、このふたりは全然違います。直美ちゃんは見ている人が不快にならないポイントを知っています。ゆりやんも直美ちゃんのように自分を客観視できれば、吉本の期待に応えられるじゃないかなあと思うのです。

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