「街の喫茶店」の減少を、なぜ大手チェーンのせいにしてはいけないのか?

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「街の喫茶店」の減少を、なぜ大手チェーンのせいにしてはいけないのか?

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日沖健

日沖コンサルティング事務所代表

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東京商工リサーチ調査結果によると、全国で2019年1~8月累計の「喫茶店」の倒産は年間最多を記録した2011年の70件に迫る勢いだといいます。その背景について、日沖コンサルティング事務所代表の日沖健さんが解説します。

姿を消す街の喫茶店

 東京から失われつつあるものはたくさんありますが、そのひとつが純喫茶、いわゆる街の喫茶店です。繁華街から、住宅地から、街の喫茶店が次々と姿を消しています。

 街の喫茶店が復活することは可能でしょうか。経営コンサルタントの視点で考えてみます。

街の喫茶店のイメージ(画像:写真AC)



 まずは、現状確認を行いましょう。

 東京はおしゃれなカフェが多く、駅前に行けばスターバックスやドトールといったチェーン店をよく見かけます。しかし街の喫茶店は、「さぼうる」(千代田区神田神保町)や「名曲喫茶ライオン」(渋谷区道玄坂)のように観光地化した一部の有名店を除いて、次々と姿を消しています。

 大手信用調査会社の東京商工リサーチ(千代田区大手町)が2019年9月に公表した調査結果によると、全国で2019年1~8月累計の「喫茶店」の倒産は42件と、前年同期の31件と比べて大幅に増えました。このままのペースで推移すると、過去20年で年間最多を記録した2011年の70件に迫る勢いだそうです。

大手チェーン店のせいなのか?

 全日本コーヒー協会(中央区日本橋箱崎町)の統計データによると、喫茶店の全盛期はバブル景気が始まる直前の1981(昭和56)年で、全国に15万4630店ありました。その後は店舗数が減少をつづけ、2016年は6万7198店とピーク時から56.5%減少しています。

喫茶店の事業所数の推移(画像:全日本コーヒー協会のデータを基にULM編集部で作成)

 これらは全国ベースのデータですが、とりわけ東京では他の地域と比べて街の喫茶店は激減していると言われます。

 どうして街の喫茶店は衰退してしまったのでしょうか。

 よく指摘されるのは、大手チェーン店の影響です。街の喫茶店は大手チェーンと比べて経営体力で劣る、そのため家賃の高騰、人件費の高騰、コンビニの100円コーヒーといった環境変化に対応できず、大手チェーンに客を奪われていると言われます。

 しかし、この分析には少し首をかしげます。

地価高騰の影響? コンビニコーヒーの影響?

 東京では、地価高騰が続いています。私は名古屋出身で、今はよく関西に出張しますが、名古屋や神戸・京都には昔ながらの喫茶店がたくさんあり、盛況です。地方都市との比較で言うと、たしかに東京の地価高騰は喫茶店の経営には打撃でしょう。

街の喫茶店のイメージ(画像:写真AC)



 ただ、地価高騰の影響は、街の喫茶店だけでなく、大手チェーン店にも及びます。街の喫茶店は自宅を店舗にしていたり、昔ながらの家賃が安いビル・商業施設に入居していたりするケースが多いので、地価高騰はむしろ駅前に店舗を構える大手チェーン店にとって影響が大きいのではないでしょうか。

 また近年、飲食業界ではパート・アルバイトなど人件費の高騰が問題になっていますが、こちらも同様です。街の喫茶店は家族経営でパート・アルバイトを雇っていないケースが多いので、パート・アルバイトをたくさん雇う大手チェーン店に比べて相対的に有利に働きます。

 コンビニの100円コーヒーについても、価格帯が近く、テイクアウトを重要な収入源にしている大手チェーン店の方が、断然影響が大きいはずです。

変化に乗り遅れた街の喫茶店

 つまり近年の環境変化は、街の喫茶店よりもむしろ大手チェーン店に大打撃を与えているのです。街の喫茶店は、大手チェーンに比べて体力が劣るから衰退したのではなく、「経営のやり方がまずかった」ということでしょう。

街の喫茶店のイメージ(画像:写真AC)

 街の喫茶店の経営の何がいけないのでしょうか。失敗の原因は店によってそれぞれですが、共通しているのは市場の変化を見逃していることです。

 街の喫茶店の多くは店主が住む地域に立地し、狭い商圏で商売しています。商圏のニーズが変化したら、それに合わせてビジネスを変える必要があります。

 いま東京は、猛烈な勢いで姿を変えています。高齢化、単身世帯の増加、外国人の増加、働き方改革、駅前の再開発……。ところが、街の喫茶店の多くは、漫然と昔ながらのメニュー・サービスで営業しており、市場の変化に合わせて変化していません。

街の喫茶店が復活するには?

 では、どうすれば良いのでしょうか。

 企業経営では、提供価値と対象顧客のベストの組み合わせを決めることが大切だと言われます。山ほどカフェ・喫茶店がある中から選んでもらうには、他と違った何らかの価値が必要です。また、その価値を認めてくれるベストの客に狙いを定める必要あります。

いまだ多くの支持を集める神田神保町の「さぼうる」(画像:写真AC)



 たとえばインド人の多い地域なら、インド人に合わせたメニューを開発するとともに、インド人向けのイベントを開くなど、インド人に居場所を提供するのはどうでしょうか。サラリーマン・OLの多い地域なら、心置きなくタバコが吸える店とか、会社帰りにちょい呑みできるようにする。ひとり暮らしの高齢者が多い地域なら、早朝から店を開けて、モーニングを食べに高齢者が集まる朝の憩いに場にする。

 といったアイデアをある都内の喫茶店の店主に話したところ、「うーん、私の代で店を閉じようと思っているので、そういうことは興味ないですね」という釣れない反応でした。

 経営者が厳しい現状を変えようと思っていないのが、街の喫茶店の最大の問題なのかもしれません。

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