永田町に鎮座する「山王日枝神社」、なんと表参道は国会議事堂裏から伸びていた

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永田町に鎮座する「山王日枝神社」、なんと表参道は国会議事堂裏から伸びていた

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荻窪圭

フリーライター、古道研究家

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赤坂見附と溜池交差点の間にある「山王日枝神社」。その「由緒ある」参拝方法について、フリーライターで古道研究家の荻窪圭さんが解説します。

「ちょっとした山」の上にある

 赤坂見附と溜池交差点の間、外堀通り沿いに青空に映えるめちゃ巨大な白い鳥居。都心にいきなり巨大鳥居。それも鳥居の上に三角の屋根がついている「山王鳥居」。めちゃ目立ってるので一度見たら忘れません。

外堀通り沿いにある平成の山王鳥居。階段の上に境内がある。扁額には「山王日枝神社」と描かれている(画像:荻窪圭)



 鳥居をくぐると大きな階段が山の上まで一気につづいてます。

 高層ビルに囲まれててわかりづらいのですが、ちょっとした高低差がある山で、その上に江戸時代から続く「山王日枝神社」(千代田区永田町)が鎮座しているのです。ここまで立派な参道を持つ神社はなかなかありません。何しろエスカレーターまでついてるのですから。初めて見たときは、「さすが大都会」と驚きましたよ。

 この神社、正式には「日枝神社」ですが、昔から「山王日枝神社」と呼ばれていて、鳥居の扁額(へんがく。門戸や室内に掲げる、横に長い額)にもそう書かれています。江戸時代は「山王権現(ごんげん)」と呼ばれたり、「日吉山王社」と書かれたりしていました。

 日枝神社の「日枝」は「比叡山」の「ひえ」。もともとは比叡山の山の神様でした。だから「山王」。山王と日枝は同じ意味。比叡山にある総本山は「日吉大社」。日枝と日吉も同じ。昔は「日吉」と書いて「ひえ」と呼んでました。

人気のパワースポット的存在

 江戸の日枝神社は室町時代に江戸城を築城した太田道灌が、川越にある日枝神社を江戸城鎮護のために勧請したのがはじまり。

山王日枝神社とその周辺。「カシミール3D」で作成。国会議事堂裏から伸びる山王坂が江戸時代の参道。神社を囲むように3つの山王鳥居がある(画像:荻窪圭)

 その後、徳川秀忠の時に江戸城拡張に伴って、江戸城の外に遷座し(今の最高裁判所あたり)、大火での全焼をきっかけに1659年、現在地へ遷座しました。

 神田明神が江戸城の鬼門を、山王日枝神社が裏鬼門を護るために置かれた、といわれますが、確かに江戸城本丸の北東約2kmに神田明神が、南西約2kmに山王日枝神社が鎮座してますから、意識してそこに置いたのは確かでしょう。パワースポット的な人気があるのも頷けます。

国会議事堂の裏に残っていた、江戸時代の表参道

 そんな山王日枝神社へ参拝しよう、って話ですが、外堀通り沿いにあるモダンな山王鳥居は使いません。

 「外堀通り」は文字通り江戸城の「外堀」の跡。外堀は江戸を守る重要な防御施設ですから橋などはありません。外堀を超えるには赤坂見附へ回る必要があったのです。赤坂側から直接参拝できるようになったのは明治以降のことなのです。

 せっかく古い神社を訪れるのですから、当時の参道を歩きたいですよね。

 江戸時代はどちらから参拝していたのか。江戸時代の地図に描かれた参道と今の地図を比べて見ると……なんと、国会議事堂の裏から伸びている道ではないですか。

1850年の江戸切り絵図(国立国会図書館デジタルコレクション)より、幕末近くの山王樋上神社。山王坂に鳥居が2つある。「星ノ山 日吉山王大権現社」と書かれている(画像:荻窪圭)



 ちょっとドキドキしますが、行ってみましょう。最寄り駅は……さまざまな地下鉄の駅が複雑に絡み合っててややこしいのですが、一番近いのは東京メトロ丸の内線と千代田線の国会議事堂前駅1番出口。総理官邸前の交差点に出ます。

 政治の中心地で、総理大臣公邸と官邸、内閣府、国会議事堂、衆議院議員会館に囲まれ、常に大勢の警官が警備しているエリア。山王日枝神社へ参拝するのにわざわざ国会議事堂裏から回るなんて酔狂な人はいないので目立つかもしれませんが、大丈夫です。

坂の谷底にかつてあった茶屋や寺

 国会議事堂裏にある衆議院会館前という丁字路が、山王日枝神社への入口。

 そこから国会議事堂を背に下る坂が「山王坂」で、当時の地図を見ると坂道に鳥居の絵が描かれています。ここに一の鳥居があったのですね。今は江戸時代の雰囲気はカケラも残ってませんが、気にせず坂を下りましょう。

山王坂の途中から国会議事堂方面。江戸時代にはこのあたりに鳥居があった(画像:荻窪圭)

 坂を下りきった谷底あたりに門前の茶屋やお寺がありました。

 さらに奥へ進むと急に雰囲気が変わります。国会議事堂や議員会館と赤坂のビジネス街の境界にある聖域感がたまりません。

今でも変わらぬ石段の段数

 いったん左手に曲がると、右に古い山王鳥居が現れます。近代的でモダンでさわやかな外堀通りの山王鳥居と違い、歴史を感じさせてくれ、気も引き締まるってもんです。

表参道の山王鳥居。52段の石段を登ると立派な随神門が現れる。できればこちらから訪問したい(画像:荻窪圭)

 一礼をして鳥居をくぐったら石段を登りましょう。江戸時代前期の地図に「石ダン五十二」と書いてあります。20人ほど連れて参拝したときに参加者の方が数えてくれましたが、今でも52段だったそうです。江戸時代から変わってないのですね。

 階段を上りきると左手に手水舎(ちょうずや)があるので、そこで手と口を浄め立派な神門から境内へ。

回廊で四角く区切られた拝殿

 立派な拝殿があり、その両脇には狛犬ならぬ「猿」が2体置かれています。山の守り神と呼ばれる猿が、神様の使いとされた名残で、山王さまといえば猿です。

山王日枝神社の拝殿。子を抱いた猿の像が置かれている(画像:荻窪圭)



 参拝を終えたら、次にどちらへ向かうか。

 拝殿は回廊で四角く区切られていて、今入ってきたのが表の神門。南の神門を出ると、エスカレーター方面。ここは巨大な階段とエスカレーターのおかげで視界がよく、赤坂や六本木が一望でき、高台を感じさせてくれます。

 北神門を出ると、木々に囲まれた古くからの神社っぽい雰囲気で、猿田彦神社や山王稲荷など末社が並んでます。

 山王稲荷は山王日枝神社がこちらへ遷る前から鎮座しており、元は、かつてここにあった松平忠房邸の屋敷神だったといわれてます。

おすすめは、帰りの稲荷参道の千本鳥居

 この稲荷神社脇から外堀通りに下りる階段がポイント。稲荷参道として赤い鳥居がずらりと並んでいるのです。京都の伏見稲荷で有名な千本鳥居のミニチュア版という感じ。昔は穴場感があったのですが、最近は有名になって常に観光客が写真を撮ってますが、参拝後はここを下って赤坂方面に出るのがおすすめです。

山王稲荷神社から外堀通りへ下りる稲荷参道。東京にある数少ない千本鳥居のひとつ(画像:荻窪圭)

 稲荷参道を下りると、3つめの山王鳥居があらわれます。こちらは明治時代に赤坂から外堀を超えて参拝するために作られた参道。鳥居の両側には1934(昭和9)年の狛犬が鎮座しています。そのいかめしさが時代を感じさせてくれますね。

 というわけで、あえて近代的な平成の参道を避け、江戸時代の道筋から参拝してみました。同じ参拝でも気持ちの引き締まり具合がまったく違いますから、ぜひ国会議事堂裏からの参拝をお楽しみください。

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