東京の真の魅力とは何か? 急速な都市化が進む、魔都「上海」から考える

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東京の真の魅力とは何か? 急速な都市化が進む、魔都「上海」から考える

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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アーバンライフメトロの「知る!TOKYO」コーナー、今回は番外編です。上海から見た東京の魅力について、法政大学大学院教授の増淵敏之さんが解説します。

新旧の対比が楽しめる上海

 先日、十数年ぶりに上海を訪れる機会がありました。途中で台風に遭遇したのですが、それでも随分、様々なところに足を向けました。中国経済をけん引する上海はアジアで、自然条件や人口規模、経済、インフラなどにおいて東京にもっとも近い都市と言われますが、実際にはまったく別の都市なのかもしれません。

 1930年代の上海には租界(外国人居住地)があって、各国のスパイが暗躍し、「魔都」と呼ばれた時期もありました。観光地・外灘(バンド)の河岸にはその頃の歴史的建築物が並んでいて、ライトアップされた夜景はまさに壮観です。

陸家嘴エリアにそびえ立つ上海のランドマーク群(画像:写真AC)



 また対岸には、高さ127階の上海中心(上海タワー)やテレビ塔・東方明珠電視塔などのランドマークが林立する金融街・陸家嘴(りくかし)があります。世界各地から上海を訪れる観光客にとって、上海を東と西に分ける川・黄浦江(こうほこう)を挟むこれらの2か所が最大の観光地になっているのです。週末の夕方に地下鉄・南京東路駅から外灘に向かう人々の数はとても多く、渋谷のスクランブル交差点が可愛く見えるほどです。

 さて現在の上海は、新旧の対比を楽しむ都市なのかもしれません。古民家を活用した観光が盛んで、もっとも有名な場所は田子坊(でんしぼう)です。古くから住む人々が多いこの界隈はその一方で、現代的な飲食店やグッズショップなどが路地に所狭しと密集しています。東京でいえば、原宿のイメージに近いでしょうか。

 古民家再生という観点では、新天地にある上海最大の石庫門(せきこもん)の建築群・建業里(ジエインイエリー)も魅力的です。石庫門は独特の両開きの門を備え、かつては上海に9000棟ほどあったとされる伝統的な建築様式です。現在では再開発のために随分、姿を消しています。

 しかし建業里は、260棟の赤れんがの住宅が文化財として保存されており、田子坊に比べてスタイリッシュな飲食店や店舗が、路地で構成された街区に並んでいます。こちらには住民はいないようです。

 界隈には1921年に中国共産党の第1回党大会が開かれた、「中国共産党第一次全国代表大会会址」も現存しています。そういえば2018年に公開された日中共同制作のアニメ「詩季織々(しきおりおり)」の中の「上海恋」にも石庫門が登場します。新天地は、石庫門と近代的な高層ビルのコントラストが印象的な界隈です。

中国のテクノロジーを体現する上海

 新天地から少し離れますが、旧フランス租界に位置する道路・武康路と准海中路が分かれるところには、上海で最初の高級マンション・武康大楼があります。汽船のような特異な形をした建物は1924年に建てられました。

上海市内にある石庫門(画像:写真AC)



 武康大楼はかつて、ノルマンディーアパートと呼ばれていました。作家や映画俳優などが居住していたことで知られ、ロケ地として多くの映画やテレビドラマで使われています。

 武康大楼から武康路を地下鉄上海図書館駅方面に歩くと、歴史的建造物が数多く現存しており、作家や革命家の旧居もあります。途中の武康路376号には「武康庭」と呼ばれるスペースがあり、カフェやレストラン、ギャラリー、フラワーショップなどが集積。街路樹のマロニエと見事にマッチした古くて新しい景観も楽しめます。

 上海は発展する中国のテクノロジーを体現しつつ、再開発のダイナミズムも充分に感じ取れる都市です。ほとんど現金は不要ですし、無人コンビニも登場、郊外には巨大な撮影所があり、またテレビドラマのロケ地になっている広大な大学の集積地・大学城も日本の発想が及ぶところではありません。おそらくアジアでもっとも最先端の都市でしょう。しかし石庫門を始めとして、再開発の犠牲になった場所も多いのですが、それでも新旧のメリハリはずいぶん意識されているように思えます。

上海を通してわかった「東京は、無二の都市」

 東京に比べて「熱量」がまったく違う上海ですが、逆に上海に行くことで東京の長所が見えてきます。東京は穏やかで汚れていませんし、上海ほどの新旧のメリハリもありません。しかし、無秩序に見えて、実は融和している様子を自然に感じられる都市です。古いたたずまいも適度にあり、各所に新しい開発も見られます。上海のようなダイナミックで、急速な都市化とは異なります。

上海市内の路地裏の様子(画像:写真AC)



 東京は一見、新旧が無秩序に交錯していますが、時間中でゆっくりと作られてきたため、不自然な印象を受けません。筆者はそのようなことをふまえ、東京はアジアの覇権を目指さず、独自の魅力を創出する都市になればいいと考えます。

 東京は「無二の都市」ともいえます。他国の文化が、自然に緩やかに日本の文化に融和していく都市、江戸開闢(かいびゃく)以来の歴史の上に存在する、穏やかで優しい都市なのです。

 東京は何度か瀕死状態になったところから再生しています。生命力の強いまちともいえます。無理な開発に踊らされることなく、東京なりの速度で進んで行けばいいのです。

 近年、インバウンド(訪日外国人旅行者)が急増しています。彼らはそのような東京の「無二」な魅力を理解し始めたのかもしれません。

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