進化か絶滅か? 空前のタピオカブーム――歴史を振り返り、今後を大胆予想する

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進化か絶滅か? 空前のタピオカブーム――歴史を振り返り、今後を大胆予想する

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有木真理

ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員

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リクルートライフスタイルが運営するホットペッパーグルメ外食総研の上席研究員・有木真理さんが「タピオカ」の歴史とこれからの可能性について解説します。

空前のタピオカブーム、その背景と歴史を辿る

 空前のタピオカブームである現在。「タピる」「タピ活」といったワードが飛び交っていますが、そもそもタピオカとはいったい何なのでしょうか。

 海外からの輸入食材であるにも関わらず、タピオカの存在を知らない人は日本にいないでしょう。決して若い女性だけのブームではなく、老若男女問わずタピオカをすすり、中には1日に数回ドリンクを楽しむ若者もいるとか。これまでにも多くのスイーツがブームとなってきましたが、その中でも稀にみる大ブームといえます。

 今回、外食トレンドを研究する者としてそのブームの背景を分析し、その未来を大胆に予想してみたいと思います。あくまでも予想であるため、外れてもご了承ください。さてタピオカは現在、第3次ブームです。まずは、その歴史から振り返ってみましょう。

老若男女問わず大ブームを巻き起こしているタピオカドリンク(画像:写真AC)



 タピオカの第1次ブームは、1990年代初めです。現在のタピオカと形が異なり、白くて小さな粒のタピオカにココナッツミルクをかけて食べていました。中華料理のシメに楽しむスイーツとして日本でブームが起こり、定着。その背景には、台湾スイーツを取り扱う卸・輸入業者がタピオカの輸入販売を開始したことが主な要因であるとされています。

 第2次ブームは、2008(平成20)年に登場した大きな黒いタピオカでした。現在ほどのブームではありませんでしたが、専門店が台湾から進出し、人気はじわりじわりと上がっていたのです。

 そして、今回の第3次ブーム。大きな黒いタピオカはそのままに、タピオカに合わせるドリンクのバラエティが増し、抹茶や紅茶、中にはいちごミルクなど多種多様でカラフルになりました。さらに甘みも自身でコントロールできるようになりました。

 その結果、スイーツを好む若い女性だけでなく、老若男女問わず「マイフェイバリィット タピオカ」を手にする時代となったのです。また隠れタピオカファンまで顧客層を広げたことも、第3次ブームの特徴といえます。

タピオカブームを支える「3つの要因」

 タピオカブームの要因は3つあります。

 ひとつめは、「台湾」自体が日本でブームであることです。タピオカドリンクは台湾発祥のドリンクですが、人気の渡航先と食のトレンドは一致すると一般的にいわれています。

かつて人気のタピオカは粒が小さく、何より白かった(画像:写真AC)



 リクルートライフスタイル(千代田区丸の内)の「エイビーロード海外旅行調査」によると、5年連続で台湾が海外の観光旅行先第1位となっています。台湾観光局はタピオカに限らず、グルメ分野をウリとした観光客誘致を行っており、その結果、旅先で楽しんだタピオカドリンクを「日本に帰ってきてもまた飲みたい!」という心理になるのです。

 台湾のタピオカドリンクのほかに、同調査で2位のハワイはパンケーキ、3位の韓国はハットグやチーズタッカルビなどのグルメがあり、いずれも日本で食のトレンドとなっています。

 台湾は日系LCC(格安航空会社)の渡航も多く、若い女性をターゲットにプロモーション戦略を打ち出しているピーチ・アビエーション(大阪府)などを中心に、「台湾でタピオカミルクティを楽しむ」シーンを打ち出して、SNSによる認知も広まっています。

 そして、ふたつめは行列ができるお店の登場です。特に東京や原宿、新宿などでタピオカ専門店がぞくぞくと登場。「春水堂」「貢茶(ゴンチャ)」など、台湾の人気店が日本に初上陸し行列を作った影響で、コンビニエンスストアやチェーンコーヒー店でもタピオカを扱うようになりました。

 3つめは、SNS上でのフォトジェニックな商品の拡散です。タピオカの種類やドリンクの種類が増えたことで、見た目も鮮やかでSNS映えするものが多くなりました。さらに、原宿・表参道のタピオカ店を中心に、かわいいカップやストローが登場し、左手にタピオカドリンク、右手にスマートフォン――といった具合に、自撮りや物撮りが気軽にできることも大きく関係しています。

タピオカ専門店は出店スピードが速い

 こうしたブームの裏側には、消費者がその商品を気軽に手にすることができるようになったことも大きな要素といえます。ブームの火つけ役はわずか1店舗かも知れませんが、大ブームになるためには各地で手にできることが重要なのです。

黒いタピオカは2008年時点で日本に上陸していた(画像:写真AC)



 飲食店経営は参入障壁が低い一方、オープン後1年以内に約30%が閉店するといわれる非常に厳しい世界です。その中でタピオカ専門店は、急激な勢いで出店を続けています。その背景にはタピオカ専門店のビジネス構造があります。

 タピオカドリンクの消費形態は「食べ歩き」がメインであるため、店内の席数が最小限に抑えられ、固定費となる家賃が抑えられます。ましてや席効率を考える必要もありません。原価も通常の飲食店に比べて低く、オペレーションも簡単なため、教育も含め人件費を最小限に抑えることができるのです。

 飲食店のコストは6~7割が食材原価と人件費といわれるが、タピオカ専門店は、その多くを抑えることが出来、かなり利益率の高いビジネスモデルなのです。

 こうした背景から、出店はまだ加速すると考えられます。ではこの先、タピオカがどのような未来を辿るのか、勝手に予測してみたいと思います。

タピオカの未来は明るい

 筆者(有木真理。ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員)にも、「タピオカはもう飽きた。タピオカの次にブームになるスイーツは何か」といった取材が増えています。もちろん、その質問に誠心誠意答えていますが、筆者自身はこのブームを一過性のものではなく、日本に定着すると予測しています。

色とりどりのタピオカラテ(画像:写真AC)



タピオカマーケットの今後の方向性は、次の3つだと筆者は考えます。

1.コーヒーが飲めない人向けのサードウェーブ的存在
2.新しいターゲット層へのリーチ
3.食事ジャンルへの展開

 ひとつずつ説明していきましょう。

1.コーヒーが飲めない人向けのサードウェーブ的存在
 かつてスターバックスが日本に上陸し、行列を作り、全国各地に展開しました。スターバックスは各地で定着し、安定的な集客を実現。その現象と同じ道をたどるのではないでしょうか。これはかつてのマクドナルドにもいえることです。ブランドが淘汰される可能性はありますが、新しい飲食業態として定着していくでしょう。

2.新しいターゲット層へのリーチ
 具体例を出せば、男性層がもっと気軽にタピオカを楽しめるような商品開発ができれば、マーケット拡大の可能性があります。かつて、キリン「午後の紅茶」が185gのショート缶を販売し、男性客に支持されたことがあります。これは、缶コーヒーと同じサイズであるがゆえに、男性も気恥ずかしい思いをせず手に取ることができたためです。

 またコンビニスイーツとしてのプリンも、「漢(おとこ)のプリン」などあえてパッケージを黒にして展開することで、男性のスイーツマーケットを拡大させました。

 現在のタピオカは、SNS映えするかわいいビジュアルであるがゆえに、男性が持ち歩くのは少し気恥ずかしいのかも知れません。しかし甘党の男性は一定度存在するため、このマーケットはかなり大きな可能性を秘めています。

 例えば、「男のタピオカミルク」(ビター味)などや、飲酒シーンへのマーケット拡大はどうでしょうか。「芋焼酎タピオカミルク」も合いそうですし、沖縄では漁師の間で泡盛の牛乳割りを飲む習慣があります。そこにタピオカを入れてみたらどうでしょうか。つまり、タピオカミルク泡盛。新しい飲み方として定着すれば面白いでしょう。

3.食事ジャンルへの展開
 タピオカドリンクは現在、スイーツとしてもドリンクとしても楽しめる「2度おいしい」おやつとして人気を博しています。しかし今後はおやつとしてだけではなく、そのもちもちとした食感を活かして、食事ジャンルへの展開の可能性が考えられます。例えば冷やし中華や冷製パスタ、サラダへのトッピングです。または麺そのものに練り込むことで独特の食感を楽しめるのではないでしょうか。

 このようにタピオカの未来を想像すると、マーケットの可能性はまだあると感じています。

タピオカの2大批判について、抗す

 そういえば、皆さんはタピオカは何でできているかご存知でしょうか。ネタばらしをすると、南米や北米を原産国としたキャッサバという芋の根茎のでんぷんです。中には、こんにゃく芋を使った「タピオカ風」のもあり、定義はわりと不明確です。そう考えると、これからその定義を整理する必要があるのかも知れません。

 そして最後に、ひとつだけ伝えたいことがあります。何でも流行るとここぞとばかりに批判が起こります。筆者はこれをなんとかしたいのです。

タピオカドリンクは男性市場に食い込むことができるか(画像:写真AC)



 まずひとつめは、タピオカドリンクのごみポイ捨て問題。多くのメディアがこの問題を取り上げていますが、悪いのはタピオカではなく、消費者のモラルです。

 そしてふたつめは、タピオカの糖質によるカロリー過多問題。カロリーや糖質はもちろん、ゼロもしくはきわめて低いというわけではありません。しかしドリンクはノンシュガーの商品もありますし、タピオカそのものは前述したとおり、芋のでんぷんです。そしてカロリーは生きていく上で必要なもの。何事も、個人の節制と程度が重要なのです。

 筆者の知人で、とても健康的な女性がいます。彼女はときどき、「タピオカ置き換えダイエット」をしているそうです。タピオカが多めに入ったノンシュガードリンクを、ランチ時のデスクでちびちび飲んでいるとのこと。あくまでも彼女の個人的な感想ですが、お通じもよくなったそうです。何事も過度な批判を避け、今後の動向を見守っていきたいものです。

 さて、タピオカについて勝手な予想をしましたが、お楽しみいただけたでしょうか。私自身も今後のタピオカの行く末が楽しみでなりません。と、タピオカに想いを馳せていたら私も飲みたくなったので、散歩がてら近くのお店に行ってみようと思います。

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