パイ投げから早着替えまで。新宿2丁目「東京レインボー祭り」、私が勧めるゆる~い3つの理由

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パイ投げから早着替えまで。新宿2丁目「東京レインボー祭り」、私が勧めるゆる~い3つの理由

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冨田格

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毎年8月の日曜日に、新宿2丁目で行われている「東京レインボー祭り」。2019年で20年目となる同祭はいったいどのようなイベントなのでしょうか。ライター、編集者の冨田格さんが解説します。

子連れファミリーから男女カップルまで来訪

 毎年8月の日曜日の午後、新宿2丁目(以下、2丁目)でゲイバー、レズビアンバーの人たちが催すお祭りがあることをご存知ですか? それが、2019年で20年目となる「東京レインボー祭り」で、今回は8月18日(日)です。

「東京レインボー祭り」の様子(画像:冨田格)



「夜の街」というイメージが強い2丁目ですが、このお祭りは昼間に屋外で行われる開放的で明るいものです。2丁目のお祭りといっても、遊びに来るのはゲイやレズビアンに限りません。子連れファミリーから男女カップルやグループまで、毎年さまざまな人が訪れます。

・「2丁目に興味があるのだけど、ハードルが高いなあ」と感じている人
・「LGBT対応に取り組むためには何をすればいいのだろう?」と肩に力が入っている人
・「LGBTの人に直接会ったことがないので距離を感じる」と思っている人

 こんな方にも、ぜひお勧めしたいイベントです。では、どんなお祭りなのか、早速ご紹介しましょう。

ゲイ&レズビアンバー組合が主宰

 8月半ばの日曜日、新宿公園(新宿区新宿2)前の通りを中心に一角が通行止めとなり、15時から18時までのあいだ、お祭り広場に変わります。通りには、2丁目のゲイバー、レズビアンバーのママやマスターたちがブースを出して、飲み物や食べ物の販売などを行います。

 なかでも毎年人気を集めているのが、ゲイバーのママを標的にパイ投げをしてストレス解消する「パイ投げブース」です。また広場にはDJブースが設けられ、J-POPや歌謡曲などの聞き覚えのある音楽が流れ、祭りの高揚感を盛り上げます。見た目が男性の人たちによる、オネエっぽいなまめかしい声にちょっと驚くかもしれません。しかし、それ以外は大掛かりな町内会のお祭りといった雰囲気です。

神輿イベントの様子(画像:冨田格)

「東京レインボー祭り」ならではの魅力は、立て続けに披露されるパフォーマンスで思いきり発揮されます。お祭りは例年、次のような構成で行われます。

・野郎神輿(ゲイバー関係者の男性が、酒樽を祀ったお神輿を担いで練り歩く)
・パフォーマンス1
・MIX神輿(レズビアンバー関係者の女性も加わって、酒樽神輿を担ぐ)
・パフォーマンス2
・エイサー
・バルーンリリース(合図にあわせて、色とりどりの風船を一気に空へ飛ばす)

 パフォーマンスに登場するのは、2丁目のゲイバーのマスターやスタッフを中心としたメンバーです。衣装の早着替えも見事な女装レビューや、小太り~太めゲイ男子による女性アイドル完コピ・ダンスユニット、そして2丁目の重鎮である日出郎さんの歌謡ショーなど、お祭り広場は笑いと喝采に包まれます。

 祭りのクライマックスは、エイサー隊が通りを練り歩き、勇壮な演舞を披露。そして踊り手が周りのお客さんを巻き込み、踊りの輪が広がる祝祭空間が生まれます。エンディングは、参加者それぞれが手にした色とりどりの風船を一気に空に飛ばすバルーン・リリースです。

私が東京レインボー祭りを勧める3つの理由

 この「東京レインボー祭り」が誕生したのは今から20年前のこと。2丁目のゲイバー、レズビアンバーの組合である「2丁目振興会」が結成されたことがきっかけでした。

 結成当初、街の地図と店舗紹介を掲載する小冊子「2丁目瓦版」の編集を担当することになり、私も初期の役員会にオブザーバーとして参加していました。

衣装の早着替えを行う「女装レビュー」の様子(画像:冨田格)



 初代の役員の中から、「欧米のゲイタウンで開催されているストリート・フェア(サンフランシスコの『カストロ・ストリート・フェア』『フォルサム・ストリートフェア』などをイメージしていた)を2丁目を盛り上げるためにやりたい」「2丁目の通りを歩行者天国にしてビアガーデンにしたら絶対楽しい」という声が上がり、「東京レインボー祭り」は企画されました。

 当初は、日曜日の夕方から夜にかけての開催でしたが、紆余曲折あって現在の午後開催となり続けられてきたという歴史があります。

「対LGBT」ではなく、「対人間」を実感しよう

 私は最初に記したように、

・「2丁目に興味があるのだけど、ハードルが高いなあ」と感じている人
・「LGBT対応に取り組むためには何をすればいいのだろう?」と肩に力が入っている人
・「LGBTの人に直接会ったことがないので距離を感じる」と思っている人

という人たちにこの「東京レインボー祭り」をぜひお勧めしたいと考えています。その理由をご紹介します。

1.開放的で健康的なイベントで、しかも入場無料
 同性愛者でも「興味があるけどなかなか行く勇気が出ない」と考えている人も結構います。つまり当事者にとっても2丁目の「心のハードル」は決して低くないのです。ましてや異性愛者(2丁目では「ノンケ」と呼びます)の人たちにとっては、もっとハードルが高いことでしょう。

 先述のとおり、「東京レインボー祭り」は真夏の日中に屋外で開催されるお祭りです。この街を知らない人がイメージしがちな「暗さ」や「妖しさ」は皆無。開放的で健康的な雰囲気の中、昼間の街並みに身を置くことで2丁目に対する心のハードルは必ず低くなります。さらに入場無料のイベントですから、気軽に遊びに行けます。

相互理解の近道は「楽しさの共有」

 次にふたつめです。

ゲイバーのママにパイを投げる「パイ投げブース」の様子(画像:冨田格)



2.「政治的な意識の高さ」とは無縁の、純粋に楽しい空間
「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」という言葉が広まるにつれて、「LGBTへの対応に取り組まねばならない」と考える企業や自治体も増えています。しかし、「どのように対応することが正しいのか」と真面目に考えれば考えるほど頭を悩ませてしまう結果となります。性別も年代も性的指向も性自認・性同一性もさまざまなのがLGBTですから、マニュアルにできるような正解など存在しないのです。私は、ちょっと肩に力の入ってしまった人にこそ「東京レインボー祭り」を体験してもらいたいです。

「酒場では政治と宗教の話題はタブー」と昔から言われていて、2丁目も政治とは一線を画す雰囲気があります。またゲイバーでは露悪的な芸風を良しとする伝統があるので、意識高い系の人は眉をひそめるような会話も当たり前のように交わされます。

 そんな街のお祭りは、イデオロギーやポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)など関係なく、誰もがただ楽しめる明るい空間です。そこにいるゲイもレズビアンも、女装している男性もボーイッシュな女性も、普通の人なんだと感じられるはずです。真の「LGBT対応」とは、実態がよく分からない「対LGBT」ではなく、あなたの周囲にいる人となんら変わらない「対人間」ということを実感できれば、肩に入ってしまった力も自然と抜けていくはずです。

3.楽しさを共有することが理解への近道
「同性愛者に会ったことがない」「LGBTは身近にいない人たち」――。そう感じている人は結構多いはず。自分の周囲にいない関係ない人たちと思ってしまえば心理的な距離は大きくなるのは当たり前です。よく知らないまま冗談の種にして揶揄(やゆ)するようなことも、もしかしたら気軽にできてしまうのかもしれません。

 私は、心理的な距離を感じている人にこそ「東京レインボー祭り」に来場されることをお勧めしたいです。歩行者天国となるお祭り広場にブースを出店しているのは、2丁目のゲイバーやレズビアンバーの人たちです。飲み物や食べ物を買うついでに話をすることだってできます。直接言葉を交わさなくても、LGBTに限らずさまざまな人が集まり楽しんでいる雰囲気に身を置けば、「異性愛者とLGBTを隔てる距離も壁も実は存在しない」と実感してもらえるはずです。

 2丁目ならではのパフォーマンスに大笑いして、エイサーを一緒に踊り、みんなで風船を空に飛ばして真夏の思い出を作ってもらえたら、心理的な距離はグーンと縮まるでしょう。どんな言葉を重ねるよりも、楽しさを共有する方が理解への近道なのです。

 2丁目は、伊勢丹や新宿末廣亭、世界堂、バルト9がある3丁目のすぐ隣です。開放的な明るいお祭りを楽しんで、真夏の思い出をひとつ増やしてみませんか? 新宿でのお買い物や映画鑑賞がてら、ぜひ足を伸ばしてみてください。

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