パリピからリア充へ? 初登院日の「国会正門前」が映し出す、政治家たちの七変化

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パリピからリア充へ? 初登院日の「国会正門前」が映し出す、政治家たちの七変化

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小川裕夫

フリーランスライター

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時代ごとの価値観やライフスタイルは、街角や一般人にだけ映し出されるわけではありません。国の代表である議員にも当然、影響します。

初登院日の国会正門前は、お祝いムード

 2019年7月21日(日)に投開票された参議院議員選挙で当選した議員たちは、8月1日に初登院日を迎えました。今回の参院選は投票率が48.8%と低く、政治への関心が薄くなっていることがわかります。

 政治は難しく縁が遠い。そして政治家には近寄りがたいというイメージを抱く人も少なくありません。

 しかし、政治は私たちと隔絶された遠い世界の話ではありません。政治家たちも、私たちと同じように暮らしています。私たちの困り事は、議員にも解決しなければならない社会の課題です。

2010年参議院選挙後の初登院日。激しい雨の中、元女優のオーラを発しながら現れた三原じゅん子議員(画像:小川裕夫)



 政治家たちの人間味をもっとも垣間見ることができるのは、選挙後の初登院日です。近寄りがたく、どことなく一般の感覚からズレているようにも思える政治家も、やはり人の子です。当選した喜びは何事にも代えがたく、初登院日にはそれまで見たこともないようなテンションでハシャぐ議員も少なくありません。

 国会議事堂(千代田区永田町)の正門は、朝8時に開きます。初登院日は政治家もマスコミも、そして支援者も正門前に早朝から集結します。初当選議員たちは、一番乗りを果たそうとして、特に張り切ります。そのため、かなり早い時間から正門前で待機していることも珍しくありません。

 千代田線・丸ノ内線には「国会議事堂前」という、その名もズバリの駅があります。しかし、国会議事堂前駅は警備の関係から出口通路の配線が考慮されており、正門前に出る構造にはなっていません。国会正門前にアクセスするには、有楽町線の桜田門駅からの方が早道です。

 初登院日の国会正門前は、当選議員たちが政治家としての第一歩を踏み出すわけですから、周囲はお祝いムードに沸いています。

 2010(平成22)年の様子と今回の参院選後の様子を比べてみると、時代の流れを感じ取ることができます。

 参院選の全国比例は日本全国を選挙区とするため、知名度が何よりもモノを言います。そのため、参院選は芸能人やスポーツ選手といった顔の売れている有名人が多く出馬する傾向が根強くあります。

選挙戦で、弱まるテレビの訴求力

 例えば、2010年の参院選は自民党から全国比例で女優の三原じゅん子さんが出馬し、見事に当選を果たしています。

多くの支援者に囲まれながら、記念撮影する松田公太議員(当時)支援者の白い服は、タリーズコーヒーの制服(画像:小川裕夫)



 一方選挙区から出馬する候補者は、地盤という観点から地域に密着した活動を続けてきた傾向が強くあります。2010年の参院選にみんなの党(当時)から東京選挙区で出馬した松田公太さんも、このときに初当選を飾りました。

 実業家の松田さんは若者に人気のタリーズコーヒーの創業者でもあり、選挙戦では若者を中心としたボランティアに支えられていました。そうした事情から、初登院日は若いスタッフと国会正門前に姿を現しました。そして、苦楽をともにしたスタッフたちと長時間にわたって記念撮影を楽しみました。

 その記念撮影に興じる雰囲気は堅苦しい政治の世界のそれとは程遠く、どちらかというと大学サークルに近いノリでした。当時はそうした言葉はありませんでしたが、いわば「パリピ」(パーティーピープルの略)という言葉がピッタリきます。

 2019年の参院選は、いわゆるタレント議員が楽に当選させてもらえなくなっています。

 立憲民主党から全国比例で出馬した元モーニング娘。の市井紗耶香さんは、その知名度から事前に当選が確実視されていました。しかし、惜しくも落選。これらは、テレビの訴求力が弱まっていることを物語る現象といえます。

 そして、テレビに替わって力を伸ばしてきたのが、インターネットです。

 今回の参院選では、れいわ新選組が台風の目と言われました。しかし、れいわ新選組は参院選3か月前に立ち上げたばかりで、政党要件を満たしていません。そのため、諸派として扱われました。

 諸派は、主要政党が一堂に会するテレビ番組の討論に呼ばれません。れいわ新選組はその話題性に反して、選挙中は空気のような存在でした。それでも、舩後(ふなご)靖彦さん、木村英子さんというふたりの当選者を出し、正式な政党になりました。

 当選者ふたりは重度障害者のため、介助者が必要です。ふたりの当選を受け、参議院は議場などをバリアフリー化。また、障害者を巡る介助制度の見直し議論も始まっています。

 そして、今回の初登院日の国会正門前には、それまでには見ることがなかった光景も目にできました。

時代のライフスタイルを映し出す「国会正門前」

 立法府の最高機関である国会議事堂は、その性格から厳重な警戒体制が敷かれています。初登院日は国会正門が開かれていますが、それでも門から内側に足を踏み入れることはできません。できるのは一部の関係者だけです。

夫(右)と子どもふたりの家族4人で、国会正門前に現れた梅村みずほ議員(左)が支援者と健闘を称え合う(画像:小川裕夫)



 しかし、初登院日に限って、事前に申請すれば門の内側に家族を入れることを許されています。そのため、議員と一心同体で選挙戦を戦った配偶者、また選挙中に寂しい思いをさせた子どもたちを伴って初登院する議員もいました。

 日本維新の会の梅村みずほ議員は、夫と夏休み中の子どもふたりを連れて国会正門前に現れました。支援者と健闘を称え合った後、国会議事堂を背景に家族4人で記念撮影をしています。

 9年前に多くの支援者と記念撮影していた松田公太さんが「パリピ」ならば、梅村みずほ議員は「リア充」と形容できるかもしれません。

 初登院時の国会正門前には、その時代における価値観・ライフスタイル・社会通念が如実に表れています。

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