目の前にある「小さな幸せ」が、若者を選挙から遠ざける

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目の前にある「小さな幸せ」が、若者を選挙から遠ざける

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2016年の18歳選挙権開始当初から、若者の投票率の低さが常に話題となっています。その根底にはいったい何があるのでしょうか。自らも20代である筆者が持論を展開します。

平成世代が持つ「今ある幸せだけを求める感覚」

 総務省の発表によると、2019年7月21日(日)に投開票が行われた第25回参院選の投票率は、24年ぶりに50%を割る選挙区48.80%、比例代表48.79%という結果になりました。とりわけ低かったのが20歳以下で、18歳では34.68%、19歳ではさらに下がって28.05%。2016年に18歳選挙権がスタートして3年余りが経ってもなお、若者の政治参加に対する意識の低さがうかがえます。

 1989(平成元)年生まれで、現在29歳の筆者が大学生だった頃を思い出しても、現在の若者を取り巻く状況は10年前とさほど変わっていないように感じられます。ツイッターでは選挙当日、20代の彼女から「学校で政治や選挙のことなんか教えられてないから、選挙に行けとか言われると上から目線に聞こえる」と言われて喧嘩したという男性の投稿も話題になりました。ということで今回は、自身の経験から今の20代の政治への意識について考えます。

「手の届く毎日の小さな幸せ」に満足?(画像:写真AC)



 今の20代は物心ついた時にはバブルがすでに崩壊しており、常に不景気で絶望の時代を生きてきたとも言われています。経済状況が常に悪い中で生きているから、「投票に行かなければ世の中が悪くなるよ」と言われたところで実感がありません。

 自分たちの生活水準がガクンと悪くなるか、ガクンと良くなるかという劇的な変化を経験していないので、政治が世の中を良くするイメージができない。逆に言うと、政治が世の中を悪くすることに慣れすぎているとも言えます。

 そんなぬるま湯のように停滞した絶望の中、生きる希望となるのは実感の沸かない遠い将来ではなく、手の届く毎日の小さな幸せです。

 海外旅行や好きなものを何でも買えるほどのお金はないけれども、無課金のアプリゲームをしながら1食500円以下のコンビニ食を食べ、好きな芸能人やアーティストの話をしながらネットやアプリ、アニメなどのコンテンツを消費する。消費税や年金が自分に関係があり、「投票には行くべき」とは思っているものの、今目の前にある幸せの方が自分にとっては大事という感覚があるのではないでしょうか。

 こうした毎日の幸せが直接的に脅かされる状況にならない限り、多くの20代にとって政治とは「自分以外の大人が考えるもの」という認識が強く、選挙の際に投票所にわざわざ足を運んで投票するというアクションは、起こしにくい状況になっているのでしょう。

 もはや若者は「投票に行かなければ1万円が取られる」など、具体的に今すぐ損をするような施策さえ求められているような気がします。

お金をかけて教育を受けた人だけが政治参加

 政治について考える機会がほとんどない状況と、その状況に対する問題意識のなさも若者の政治参加にとって大きなポイントでしょう。

1食500円以下のコンビニ食をパクつくのが幸せ?(画像:写真AC)



 現在の高校教育は、政治経済の授業で議院内閣制や憲法の成り立ちや仕組みなどについては学びます。しかし、昨今の日本の政治状況や問題になっていることなどを詳しく学ぶ機会は皆無に等しい状況です。

 今の政治について触れる機会さえなかったのに18歳になった途端に、「さあ、投票へ」と言われても……。自ら情報を得たり学ぼうとしたりない限り、政治に興味関心を持つことは非常に困難です。

 学校での勉強や部活はもちろん、塾や英語、ピアノや体操など毎日たくさんの習い事をやって、大人から色々なこと教わってきたけれども、政治については何も教わっていない。だから18歳になって、いきなり「投票に行け」「政治に関心を持て」と言われても、何からどう勉強すればいいのかさえわからない。そんな状況が今の若者の「デフォルト」となっています。

 一方、親から政治について教わる人もたくさんいるでしょう。しかし、共働きで日々忙しい親から教わってこなかった人も同様にたくさんいます。彼らの間にある大きな溝も、若者の政治参加を妨げる要因となり得ます。

 大学生の頃、文学部だった筆者は、政治経済学部や法学部にいる学生たちに対して「彼らの親も政治や法律に関わっていて、きちんと知る機会があったからあの学部に進んだのだろう」と思っていました。

 親の収入と子どもが受ける教育の格差が広がり続ける中、子どもたち自身も自分とは異なる「お金をかけて教育してもらった人」を特別視する傾向があります。政治や経済について彼らが考えればいい、だから自分は投票に行かなくてもいいだろう、と。

「長生きしたい」という意識さえ薄れている

 そうは言っても、若者にとって将来の不安や生きていく上で「この政治はおかしい」と感じることはあるはずです。

「そもそも“将来の不安”とは何なのか? 『年金はもらえない世代』と言われているけれども、今のシニアたちは仕事をリタイヤして旅行にバンバン行っていてすごく楽しそうだ。それにシニアになる前に、すぐ死ぬかもしれないし」

そんな意識さえ渦巻いているように感じます。

若者が積極的に投票するには何が必要か(画像:写真AC)



 実際に筆者は18歳の頃、結婚願望がなく「老いる前に死にたい」と少し思っていました。若さを享受していた18歳当時は、女性として老いることがとても嫌だったのです。

「それにこの先、『〇〇のために生きよう』の〇〇はきっと見つからないだろう、まあ見つからなくてもいいか」

と思っていました。

 結果として結婚し、子どもを産み育てている現在、そんなことを思わなくなりました。しかし以前の私のように、家族や友人などの大切な人と繋がっていなければ、「老いる前に死にたい」という感覚を若者は持つでしょう。

 老後は長いと言われている中、「長生きしたいのか」と聞かれて、別に積極的にしたいわけでもないのが、多くの若者の抱いている意識であるように思います。

「若い人って政治に興味ないよね」と笑っていられないほど深刻な状況になっている若者の投票率。教育や世間の空気、投票のシステムなど考えなくてはいけないポイントは山積です。

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