グランピングはなぜ日本で進化し、発展したのか? その歴史と背景をたどる

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グランピングはなぜ日本で進化し、発展したのか? その歴史と背景をたどる

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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認知度を年々高めるグランピング。楽天インサイトが2019年7月22日(月)に発表した調査(全国の20~60代の男女1000人を対象)によると、45.5%がグランピングを「知っている」と回答しました。特に20~30代女性はそれぞれ67.1%、71.7%と過半数を大きく上回る結果に。このようなグランピングの興隆の背景について、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

独自進化を遂げる日本の「グランピング施設」

 2010年代中ごろからアウトドア系レジャーに注目が集まっています。そのきっかけとなったもののひとつがグランピングです。

グランピングとBBQが一緒に楽しめる、下北沢駅近くの「シモキタテラス」(画像:G-style)



 グランピングとは「Glamorous(グラマラス)」と「Camping(キャンピング)」の造語です。大自然の中でもホテルに宿泊しているのと同等のラグジュアリーな空間とサービスを享受し、その地域の自然や文化に触れるアクティビティを体験できる優雅なキャンプスタイルを指します。

 これは欧米を中心とした海外で普及しているリゾートスタイルですが、日本国内でその名が一般的に認知されはじめたのは、2015年10月にオープンした星野リゾートのグランピング施設「星のや富士」(山梨県富士河口湖町)からでしょう。

 星のや富士では双眼鏡、マット&ピロー、ヘッドランプ、ブランケットといったグランピングアイテムが入ったリュックサックを背負って敷地内を散策し、丘陵地の林の中に建つキャビンで自然を満喫することができます。当時、このようなスタイルが話題となり、数多くのメディアに取り上げられました。

 それから4年の間、グランピングの名の元にさまざまな施設が開発されました。ショッピングセンターに隣接するもの、オートキャンプ場のようにキャビン(簡易宿泊施設)が並べられたもの、バーベキュー施設のみのものなど、それらは海外のグランピングと言うよりは、日本の幅広い利用者を対象に「日本独自の進化」を遂げたものと言えます。もちろん、本格的なグランピング施設も開発され、アウトドアメーカーが主催する本格的なイベントが行われています。

 しかし、全体を大雑把に要約すると、「大自然の中で」「ラグジュアリーな空間とサービス」「自然や文化に触れるアクティビティ」といったところは軽く、キャビンやグランピングテントが用意され、自分でテントを設営する手間はないものの、比較的カジュアルな内容になっています。一方で食は重視され、「豪華なおまかせバーベキュー」や「野趣溢れるアウトドア料理」などが目玉となる傾向があります。

グランピング的なバーベキューが普及

 国内ではグランピングという言葉が上陸する以前から、前述のような「日本型グランピング」に対する潜在的なニーズが拡大していたと考えられます。

新宿ルミネエスト屋上の「WILD BEACH shinjuku TOKYO SKY RESORT」(画像:RECREATIONS)



 2010年ごろから若者を中心に河原や海岸など野外でのバーベキューが人気となり、一部の人のマナーの悪さから社会問題にもなりました。その後、アウトドア料理全体に興味が拡大し、ダッチオーブンなどが注目されました。

 さらに、2010(平成22)年4月にオープンした「国立BBQファーム」(国立市谷保。現在は経営母体が変わり、「会員制農園PICNIC」に名称変更)は会員制貸し農園で、用意と片付けをスタッフが行う手ぶらバーベキューが登場して話題となりました。農園を使ったさまざまなアクティビティも用意され、スタッフはコンシェルジュなみに利用者の要望に柔軟に対応することなどから、グランピング的な要素を持つバーベキュースタイルと言えます。

 それ以降、貸し農園や既存バーベキュー施設で手ぶらバーベキュースタイルが普及しました。このような、大自然の中と言うより「野外でのバーベキューやアウトドア料理人気をベースとした」ライトなアウトドアニーズが日本型グランピングの潜在的なマーケットとなっています。

 都内では、都市型アウトドアと呼べるような施設やイベントが生まれています。2012年7月にオープンしたアウトドアパーク「WILD MAGIC」(江東区豊洲、2017年4月に「WILD MAGIC -The Rainbow Farm-」にリニューアル)は豊洲という都心立地でありながら、キャンプ気分で手ぶらバーベキューが楽しめるグランピング的デイキャンプ施設で、新たな都市型業態としてデベロッパーからも注目されました。

 現在、同施設を運営しているRECREATIONS(渋谷区恵比寿西)はルミネエスト新宿屋上で「WILD BEACH SHINJUKU TOKYO SKY RESORT」(新宿区新宿)を実施しています。手ぶらバーベキューや白砂を敷き詰めたビーチエリアがあるアウトドア感覚のビアガーデンになっています。また、2019年7月12日(金)には釣りとバーベキュー、デイキャンプが楽しめる「WILD KINGDOM KAWASAKIPARK」(川崎市)がオープンしました。

 2015年3月にオープンした「MORIPARK Outdoor Village」(昭島市田中町)は有名アウトドアブランドの直営店が一堂に会し、アウトドアを体験、体感できる複合施設。施設内にあるスノーピークの直営レストラン「Snow Peak Eat」ではキャンプの楽しさが感じられるメニューが提供されており、焚き火を囲みキャンプ気分を味わいながらダッチオーブンなどのアウトドア料理が楽しめるコースイベントも実施しています。

都市生活者のライト層が支持

 都心でできる手ぶらバーベキュー施設は商業施設の屋上庭園や、ガーデンやテラス付きのレストランに拡大しています。下北沢駅近隣の「シモキタテラス」(世田谷区北沢)は2016年5月にグランピング施設を導入、都心のビル屋上にグランピングテントが完備され、手ぶらバーベキューや「丸鶏ハーブチキンのダッチオーブン焼き」、「ダッチオーブンで焼くふっくらパン」などのアウトドア料理が楽しめます。

大人の完全貸切BBQスペースを売りにした「REALBBQ PARK南新宿」(画像:REALBBQ)



 JR東京駅八重洲口前のヤンマー東京支社ビル跡地に2019年4月から10月までの期間限定でオープンした、農業をテーマにした複合施設「THE FARM TOKYO」(中央区八重洲)では、農機などを製造・販売するヤンマーらしく「飯盒炊飯 ヤンマーこだわりのお米(鳥取県日南町産コシヒカリ)」、「ヤンマー こだわりのビーフカレー」を含む豪華なメニューの手ぶらバーベキュー施設が導入されています。

 都市型アウトドア施設は仕事帰りにも利用できる手軽さが売りです。「忙しくて遠出する時間は取れないが、アウトドア気分を味わいたい」、「アウトドアでテントを設営したりするのは面倒くさいが、アウトドア料理には興味がある」といったニーズを持つ都市生活者は少なくないでしょう。都市型アウトドア施設はそのようなライトなアウトドアニーズに支持されて拡大していると言えます。

 アウトドアでは2018年頃からタレントの動画などをきっかけにソロキャンプやブッシュクラフト(自然にあるものを使った野遊び)が注目されてきています。こちらは自然の中で、自分でテントを設営し、火をおこし、ブッシュクラフトは食材もその場で調達するもので、アウトドア本来の醍醐味を楽しむものと言えます。

 都市型アウトドアはその対極にあるものですが、アウトドアに対してライトからコアまでさまざまなニーズが存在し、それに対応する選択肢が存在することは、アウトドアマーケットの活性化に繋がり、ひいては業界のさらなる発展に繋がることと考えられます。2019年の夏休みは遊びに行く時間がないという方は、このようなアウトドア施設を利用してみてはいかがでしょうか。

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