テーマは昭和の街、亀戸の「勝運商店街」が看板建築で再興を果たしたワケ
2019年8月8日
お出かけ江東区の亀戸駅から歩いて数分の場所に、看板建築風の建物が立ち並ぶ商店街があります。いったいなぜこのようなデザインになっているのでしょうか。都市探検家・軍艦島伝道師の黒沢永紀さんが解説します。
「ネオ看板建築」を生み出す先駆けに
では、商店街をリニューアルして、実際に効果はあったのでしょうか。長束さんの話だと、まず香取神社への参詣者が増えたのに併せて、商店街にも客足が戻ってきたとのこと。ちなみに香取神社は、鎮座1350年を超える古社で、全国でも珍しいスポーツ振興を祀る神社。2020年のオリンピックをはじめ各種ワールドカップの開催など、スポーツの隆盛に呼応して、近年ではスポーツ関係の参拝者が激増しました。

看板建築のリニューアルが功を奏して、以前はスルーしていた多くの参拝客が足を止めるようになったようです。もちろん昭和の街の噂を聞きつけ、商店街を目当てに来るお客もかなり増えたようで、かくいう筆者も、看板建築でリニューアルされていなかったら、おそらく訪れることはなかったでしょう。
なおネット上では、勝運商店街の看板建築を、昭和初期の看板建築と誤解した記事も散見します。願わくば、リニューアルの意図や各店舗の見所、そして看板建築の歴史などを路上に掲示すると、より商店街の愉しみが増すのではないでしょうか。
昭和の初めに誕生した看板建築は、大工の手習いで造られたものが多く、学術的な評価がそれほど定まっていません。しかし、関東大震災後に誕生した特殊な建築様式であり、20世紀の日本のスタンダードな商店建築として、街角の景観を創ってきた文化遺産です。そんな看板建築を、現代の技術で蘇らせた勝運商店街の試みは、とても評価されるものです。
さらに、看板建築の再生というだけでなく、過去の建築様式を復古させた試みとしても高く評価できます。世界では、ネオ・ロマネスクやゴシック・リヴァイヴァルなど、過去の建築様式を復古させた建築物が19世紀頃から頻繁に建てられてきました。
しかし、日本建築の歴史を見ると、例えば「新書院造り」や「ネオ城」などと呼ばれるものがないように、時代を隔てて過去の建築様式が復古した“顕著な前例”はありません。
過去の建築様式を復古させるということは、単に懐かしさを楽しむだけでなく、その建物が建っていた時代の精神を蘇らせることです。看板建築のリヴァイヴァルは、昭和初期のダイナミックなエネルギーや、街の景観を大切にしていた意識を未来へ伝えるということでしょう。勝運商店街の挑戦が、さらに現代的なアレンジを施された「ネオ看板建築」を生み出す先駆けになて欲しいと思います。
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