東京タワーは今も「東京のランドマーク」か? 竣工から60年、過去の映画作品から振り返る

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東京タワーは今も「東京のランドマーク」か? 竣工から60年、過去の映画作品から振り返る

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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1958年の竣工以来、さまざまな物語の舞台になってきた東京タワー。そんな東京タワーの魅力について、法政大学大学院教授の増淵敏之さんが映画作品を通して解説します。

怪獣映画によく登場した東京タワー

 ハリウッド版の映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」が2019年5月31日(金)、日本で公開され、作品を見た私(増淵敏之、法政大学大学院教授)は「ついに、キングギドラまで海を越えたのか」と驚いてしまいました。

 この映画の冒頭に登場するのがモスラです。「モスラ」(1961年)では、幼虫の形のまま巨大化し、東京都内のさまざまな場所を破壊。その後、東京タワーに繭を作って成虫へと変化します。私はこのシーンがもっとも印象に残っています。なおモスラは、現在まで数多くのゴジラ作品に登場しています。

赤い骨組みが特徴的な東京タワー(画像:写真AC)



 東京タワーは怪獣映画によく登場しています。「三大怪獣 地球最大の決戦」(1964年)では、上空を飛ぶキングギドラの衝撃波で、「大怪獣ガメラ」(1965年)では、ガメラの火炎で破壊されています。また「ガメラ 大怪獣空中決戦」(1991年)では、コウモリ型の怪獣・ギャオスによってふたつに折られ、巣を作られていました。

 これも、1958(昭和33)年に竣工された東京タワーがその時代の「東京の繁栄の象徴」だったからでしょう。

 東京タワーの正式名称は「日本電波塔」といいます。高さ333mで、一時期はNHK、在京民間放送の送信所を一本化した、放送施設の役割を果たしていました。ちょうど竣工時期が1964(昭和39)年の東京オリンピックの直前で、東京は大規模な再開発の最中でした。

 この時代背景をうまく取り込んでヒットしたのが「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズです。第1作の「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)の中では建設中の姿で登場し、徐々に高くなっていくさまが描かれました。続編の「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007年)では、東京タワーが完成した形で登場しています。

 第3作の「ALWAYS 三丁目の夕日’64」(2012年)では、まさに東京オリンピックが開催される年に時代が設定されています。映画序盤には1954(昭和29)年公開の「ゴジラ」がフルCGで登場、東京タワーを熱線で破壊しますが、実際にゴジラが初めて東京タワーを壊したのは2003(平成15)年公開の「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」です。

高層ビル群に埋没した東京タワー

 また「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」(2007年)は、リリー・フランキーさんによる、200万部を超えるベストセラーとなった同名小説の映画化作品で、テレビドラマ化も単発・連続ともに成されています。

東京の夜を60年以上照らし続けてきた東京タワー(画像:写真AC)



 同作は、リリー・フランキーさんが自分の亡き母への想いをテーマにした自伝的作品です。作品中でリリーさんは母親を筑豊(福岡県)から東京に呼び寄せるのですが、残念ながら母親は癌になってしまいます。主人公の彼女と3人で「東京タワーに行こう」という約束も果たされません。

 しかし、ラスト近くに印象的なシーンがあります。病室の窓から、桜咲く季節に振るなごり雪越しに、東京タワーが見えるのです。私はこのシーンを見て、「やはり東京タワーは、赤が似合っている」と思いました。

 上記の作品を始めとして、ちょうど2000年代前半は東京タワーを題材にしたコンテンツが数多く制作されました。東京スカイツリーの建設が押上に決定したのが2006(平成18)年、竣工が2012年、東京のランドマークの「主役」が交代した時期と重なっています。

 一種の愛惜の思いなのでしょうか。東京タワーがなくなるわけでもないのに、不思議な現象でした。東京タワーは紛れもなく、高度経済成長からバブルに向けて、日本が経済大国になる時代の象徴だったのかもしれません。

 現在、東京タワーは高層ビル群の中に埋没してしまった感があります。確かに足元から見れば、天に向かってそびえ立っていますが、634mの東京スカイツリーには叶うべくもありません。

 ましてやテレビ、ラジオ用の電波塔としての役割も、東京タワーから移行してしまいました。また押上のスカイツリータウンは、休日に大混雑しており、外国人観光客の姿も目につきます。

六本木ヒルズから見えた東京タワー

 筆者(1957年生まれ)が大学進学時に上京した際、東京タワーの展望台に登った記憶があります。展望台から見渡した東京の風景はとても美しく、雄大でした。東京の街がとても広いということを実感した瞬間だったかもしれません。

高さ150mに位置する東京タワーの大展望台(画像:写真AC)



 その頃にはすでに36階の霞が関ビルや、40階の世界貿易センタービルがありました。西新宿にも47階の京王プラザホテルを始め、数棟の高層ビルが建っていました。まさに東京が高層化していくさなかでの体験でした。

 先日、J-WAVEの番組に出演する機会があり、六本木ヒルズのスタジオから東京タワーを眺めることができました。それはちょっとした驚きでした。高層ビル群に埋没しているように思っていた東京タワーが、その位置からだととても明瞭に、そして綺麗に見えたからです。

 確かに、東京タワーの向こう側に見える勝どき、晴海、豊洲には、タワーマンション群の建設ラッシュが伺われます。しかしタワーの足元には増上寺があり、周辺にはあまり高層ビルの姿が見えません。そのため、東京タワーがそびえ立つさまが、骨組みの印象的な赤色とともに、周囲から鮮やかに浮き上がっているように見えました。

 まるで、東京タワーが自己主張をしているようでした。スカイツリーに「東京のランドマークの座をまだ奪われていない」と、私は改めて感じました。

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