いまさら聞けない「カルピス」の由来。今年で誕生100周年、ロングセラーの秘密は「香り」にあった

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いまさら聞けない「カルピス」の由来。今年で誕生100周年、ロングセラーの秘密は「香り」にあった

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2019年、誕生より100周年を迎えた国民的飲料「カルピス」。群雄割拠の清涼飲料市場において、なぜかくも長く愛され続けてきたのか。その理由に、奥深いカルピスの一面が潜んでいました。

「カルピス」の命名は創業者の「信心」から?

「夏」「お中元」「水玉」の3つの単語から連想するものを問われたら、昭和世代のほとんどの人は「カルピス」と答えるのではないでしょうか。

「カルピス」の誕生は1919(大正8)年。今年100周年を迎えた。写真はイメージ(画像:アサヒ飲料)



「国民的飲料」と言っても過言でないカルピスですが、その誕生が大正時代に遡るのを知らない人も多いと思われます。昨今の誕生100周年記念イベントやそのプロモーションで知った人が大半ではないでしょうか。

 その歴史を紐解くべく、アサヒ飲料(墨田区吾妻橋)のマーケティング担当者に話を聞いたところ、数々の奥深い側面を知りました。以下にそれらを紹介したいと思います。

創業者の生い立ちに関わる、名の起源

 カルピスという名の起源は、「カル」と「ピス」にわかれます。名付けたのは、現在アサヒ飲料のグループ会社であるカルピス(同)創業者の三島海雲氏です。「カル」はカルシウム、「ピス」はサンスクリット語で「五味」を表す言葉の最上位から2番め、「サルピス(熟酥)」の「ピス」からとったものだそうです。

 五味と聞くと、苦味や酸味といった味覚を思い浮かべがちですが、ここでいう五味は仏教用語で「優れた味覚の順位」を表す言葉とのこと。

 三島氏は当初、最上位の「サルピルマンダ(醍醐)」からふた文字取ることを考えました。しかし、「カルピル」は語呂があまりよくないため、親交のあった浄土宗の僧侶で、サンスクリット語の権威でもあった渡辺海旭(かいきょく)氏に相談。「サルピスから取って、カルピス」としてはどうか」と提案され、これに決めました。

 浄土真宗の住職を父に持つ三島氏は、大学で仏教を学びました。同社のカルピス開発の元となった飲み物に「醍醐素」があり、この名は五味の最上位に由来するものと思われます。カルピスも五味から名をとっていることに、その生い立ちならではの仏教への信心が窺えます。

 同社は宣伝・広告にさまざまなキャッチコピーを使ってきましたが、カルピスが広く知られるブレイクのきっかけとなったキャッチフレーズは何だったのでしょうか。

世間を二分して話題となった、キャッチコピーとは?

 カルピスがブレイクしたきっかけのキャッチコピーは、1922(大正11)年の新聞広告で使った「初恋の味」でした。提案者は社員ではなく、三島氏が学んだ西本願寺文学寮(現・龍谷大学)の後輩。甘酸っぱく、微妙で優雅、純粋な味であったことからそうです。

 しかし、「初恋」という言葉を人前で堂々と口にすることが、まだはばかられた時代。三島氏は一旦は断るも、後輩の熱心な説得により最後は納得して使用します。これが賛否両論、世論を二分するほどの話題となり、結果的には世情にマッチして全国に広まるきっかけとなったのです。

包装紙が水玉模様になったワケ

 カルピスの包装紙が水玉に変わったのは、「初恋の味」のキャッチコピーを打ち出したのと同じ1922年。この時は、紺地に白い水玉模様でした。

一番最初の水玉の包装紙(画像:アサヒ飲料)



 これは、誕生した七夕(7月7日)にちなみ、天の川に輝く群星をイメージ。それを1949(昭和24)年、爽やかな味わいをより伝えるために、白地に紺の水玉模様に変更したそうです。これが狙い通り、カルピスのイメージとして定着しました。現在、100周年を記念して期間限定で、紺地に水玉の復刻デザインボトルが発売されています。

「カルピス菌」は二度と作ることができない?

 カルピスの製造に欠かせないものが、カルピス菌です。これは、乳酸菌と酵母の共生体で、さまざまな掛け合わせの試行錯誤によって生まれたそうです。国産の生乳から脂肪分を取り除いた脱脂乳にカルピス菌を加えると、1回目の発酵では乳酸菌の力でさわやかな酸味が生まれます。2回目の発酵で酵母の力で芳醇な香りが生まれます。最後に味を調えたら出来上がりです。

 1回目の発酵が終わった後、状態の良いものは一部保管され、次回の生産のスターターとして使われます。保管した前回の発酵乳を次の製造に使うこと(継ぎ足し)によって、誕生当時からのおいしさが損なわれることなく、製造できるのです。

 現代においても、カルピス菌は一度なくなると、二度と作れない恐れがあるとのこと。「似たような菌」では味が変わってしまう可能性があるため、唯一無二のものとして、大切に保管と取り扱いがなされているそうです。この100年、東京は戦禍や自然災害を被ってきましたが、そのなかでカルピス菌は社員によって懸命に守られてきたのです。

100年愛され続けた要因に「香り」あり

 巷においしい飲み物が溢れる現代。人々の嗜好も多様化するなか、時代を超えてカルピスが愛され続ける理由はどこにあるのでしょうか。アサヒ飲料のマーケティング担当者は次のように話します。

「カルピスウォーター」の製造ライン(画像:アサヒ飲料)



「ひとつにはカルピスを『飲むシーン』、例えば小さい時にお母さんに作ってもらったといった、昔懐かしい、いい思い出とともにブランドがあることが挙げられると思います。カルピスは子供の飲み物というイメージがありますが、その実、幼児からお年寄りまでとても幅広い年代の人たちに飲まれています。

 お客さまから、ご家族の方が入院された際に、『何も食べられなくなっていたのに、カルピスだけは飲めて、最後に飲んだのもカルピスでした』といったお手紙をいただいたことがありました。おいしい上に身体によく、一生、その人のさまざまなライフタイムに寄り添える飲み物であることも大きいのではないでしょうか」

 さらにもうひとつ、カルピスが愛される理由に、担当者は「香り」を挙げました。

「カルピス菌によるものなのか、カルピスの香りには、人が本能的に求める、好む要素があるというのが、マウスの研究でわかっています。『思い出』の部分も強いですが、その一方、カルピスに思い出のない生き物もその香りに惹かれることから、香りそのものにも、愛され続ける秘訣があるようです」

 人を本能的に惹きつける力。すなわち、嗜好を超えるものがあることが、流行に淘汰されず愛され続ける理由というのは納得のゆくところです。

 かつて、カルピスは原液を希釈して飲むタイプだけでした。後にそのまま飲める「カルピスソーダ」や「カルピスウォーター」が発売され、今はカルピスウォーターが売り上げの大部分を占めるそうです。

 しかし、カルピスは原液を自分で薄めて飲むのが好き、という人も少なくないのでは。グラスに注いだ原液を水で薄め、氷を浮かべてマドラーで混ぜる時の涼しげな音。時に甘かったり、酸っぱかったり、人それそれに五感の記憶と忘れ得ぬ思い出がそこに刻まれています。

 そんなカルピスの100周年に、「おめでとう」よりも「ありがとう」と言いたい人も多いのではないでしょうか。そして、次の100年もよろしく、と。

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