東京で働いて20年。ベンチャー役員の僕が「天使」を名乗り始めたワケ

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東京で働いて20年。ベンチャー役員の僕が「天使」を名乗り始めたワケ

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須田仁之

ベンチャー企業役員

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働き方改革により、複数の肩書きを持つ人が増えています。「分かりやすい肩書きを持たない人」の働き方の実態はどのようなものでしょうか。「エンジェル労働家」として、複数のベンチャー企業の役員やアドバイザーを務める須田仁之さんが実体験をもとに語ります。

「お仕事は何をされているんですか?」

 僕が東京で働いて20年が経ちました。

 社会人になると「お仕事は何をされているんですか?」と聞かれることがヤケに多いです。一流企業で働いていたり、医者や弁護士だったりするとその説明コストは楽ですが、そうでない僕はいつもこの都会流の「ビジネス挨拶」に辟易していました。

ニューヨークやロンドン、パリとともに「四大世界都市」と呼ばれる東京(画像:写真AC)



 20代の頃の勤め先は、ソフトバンクの子会社。当時は「ソフトバンク」自体の知名度もまったくないので「ソフトの銀行ですか? 怪しそうですね」と勘違いされそうだったし、「子会社」ってのも相当カッコ悪いと思っていました。

 30代になると知人の小さなベンチャー企業を手伝うことになり、一応「取締役」という肩書きでした。「えっと、◯◯っていうITベンチャー企業で役員をやっておりまして」というビジネス挨拶をすると、100%キョトン顔をされたものです。

 都会で「ITベンチャー企業で役員やってます」なんていうのは、90%怪しいものであり、なかなか辛いものがありました(当時の私個人の見解です)。

「分かりやすい肩書き」がない人には面倒な労働環境

 いつかはこの「都会のビジネス挨拶」の呪縛から逃れなくてはと苦心していましたが、40代に入ってサラリーマンからドロップアウトし、フリーランス化すると、事態はさらに悪化してしまったのです。

私:今は複数の企業の経営のお手伝いをしていまして……
相手:経営コンサルタントですか?
私:あ、コンサルとはちょっと違うんですけど……
相手:投資家ですか?
私:いや……(そんなお金持ってる風ではない)

 頼まれて企業の社外役員をやると、コンサルタントに勘違いされる。頼まれて株主になっていたりすると、投資家に勘違いされる。

 都会で、フリーランスで経営コンサルタントを名乗っている人なんて、90%怪しいものであり(当時の私の想像です)、「投資家」を名乗っている人も「以下同文」な気がしていました。投資家となると「じゃあ、お前一体いくらカネ持ってるんじゃい」という下世話な話にもなります。

 ベンチャーやスタートアップなど、一般的に「リスクの高い」と思われる投資なんて、お金が余ってないとできないものです。そういう観点で、個人的にまったくお金の余剰は感じてないから投資家には該当しません。それなのに「僕にも投資してくださいよ」という無心にも似たメッセージを送ってくる人もいました。

 ああ、都会はなんて面倒くさい労働環境なのだろう……。

 分かりやすい肩書に就職できなかった自分の責任ではあるけれど、僕のことを笑っていられないような時代が、ここ東京の労働環境では起きつつあるような気がしています。

働き方の定型フォーマットが崩れてきている

「働き方改革」

 この動きが東京で加速したのは、長時間労働やハラスメント問題がマスコミで大きく取り上げられるようになった、ここ5年ぐらいでしょうか。

日本企業の代名詞ともいえる「長時間労働」(画像:写真AC)



 国が「長時間労働の是正」や「正規と非正規の待遇差是正」を目指して法整備を整え、民間企業も「テレワーク推進」「副業解禁」を推し進めています。

 全サラリーマンが副業をするようになるとは到底思えませんが、「ひとつの名刺を持ってひとつのオフィスに出社する」という定型フォーマットが少しずつ崩れていくような気がします。

 まさに僕がここ数年で歩んできた道と重なっていくような気がしてなりません。

 何かを「複数」保有することによって、偏りを分散させるメリットはあるけれど、一方で、確実に物事がより「複雑化する」デメリットがあることもまた事実です。

 複数の名刺を持って、毎日どこに出社するのか分からないという神出鬼没キャラは自己を「曖昧」にします。

 恒例のビジネス挨拶においても、どの名刺を渡せばいいのか戸惑う日々。そもそも複数の名刺を持っている人なんて90%怪しいし……(現在の私の印象です)。

「エンジェル労働家」とは?

 僕の棲息するベンチャー、スタートアップ業界には「エンジェル投資家」と言われる職種(?)があります。

 自分で事業を成功させた起業家が、成功で得たお金を次の起業家に投資する、というエコシステム。

 新たな「起業家」は自身の事業を成功させようと、事業面(ビジネス)や資金面(ファイナンス)で、知見あるものに相談しに奔走します。その際に、ベンチャーキャピタルなどの「法人」にいきなり相談するよりも、「個人」の方がざっくばらんに相談しやすかったりするのでしょう。

 そういうわけで僕のところにも、ここ数年、SNS等を通じて頻繁に相談が来るようになり、東京都内駅近のスタバやドトールなどで夜な夜な相談を聞いてきました。

 でも僕は起業家で成功したわけでもないし、お金持ちの投資家でもありません。「金持ち父さん貧乏父さん」的に言うと、「資本家」ではなく、明らかに「労働者」をずっとやってきたわけです。

 ただし、やっていることは起業家の事前相談に乗るという「エンジェル」スタイルだったので、「僕なんて、エンジェル投資家じゃなくて、エンジェル労働家ですよ」と自分を揶揄して発言したがために、今のような形になってしまいました。

 ああ。働き方改革で、もっとちゃんとした肩書に、僕はなりたい。

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