良い商店街を見つけたいなら、「Googleストリートビュー」を使ってはいけない

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良い商店街を見つけたいなら、「Googleストリートビュー」を使ってはいけない

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荒井禎雄

フリーライター、放送ディレクター

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家賃や物価が高く、「住みにくい」というイメージが根強い東京。しかし一方で、都市部こそ庶民的な商店街が生き残りやすいという一面も。板橋区や商店街に関する著書が多数あるライターの荒井禎雄(さだお)さんが、東京の商店街の評価ポイントについて細かく解説します。

そもそも商店街ってなあに?

 前回の記事(「東京に住むなら『元気な商店街』の近くをおすすめしたい、3つの『深イイ理由』」)では、「東京に住むならば、商店街がある街を選ぶべきだ」として、その理由を説明しました。おさらいすると以下のようになります。

・商店街があることで、生活文化が向上する
・商店街がある街ならば、地価も物価も落ち着いている
・商店街を活用することで、自然とコミュニケーションが生まれる

 これを踏まえた上で、今回は「では、どのような商店街を選ぶべきか」をテーマに、皆さんの生活スタイルに合った商店街選びのヒントをお教えします。

北区の十条銀座商店街(画像:写真AC)



 いきなりですが、実は「商店街とは何か」というハッキリした条件は存在しません。ウソのような本当の話で、経済産業省の外局・中小企業庁が「明確な定義はない」と公文書に残しているほどです。

 しかし、統計データなどを作る場合には「商店街的な場所を指す区分け」が必要となります。そのため、あくまで便宜上といった形で、「小売店や飲食店が近接して30軒以上あり、それらが商店会など何らかの組織を形成していれば、ひとつの商店街としてみなす」とされているようです。

 ただしこれには落とし穴があり、「小売店や飲食店が近接して30軒以上あって、商店会名などがあればいい」という条件だけでは、駅ビルや池袋や新宿などの地下街、郊外の巨大なショッピングモールなども、「広義の意味での商店街」に含まれてしまうのです。

 これではわれわれが頭に思い描く商店街とかけ離れてしまうため、もっと別の区分けを使うべきでしょう。

中小企業庁が使う4つの分類

 そこで参考にしたいのが、中小企業庁が実際に使っている4つの分類です。

秋葉原は超広域型の商店街として扱われる(画像:荒井禎雄)



 これは商店街の商圏の広さによって 「近隣型」「地域型」「広域型」「超広域型」 の4つに分けたもの。各分類の意味は次のようになります。

●近隣型
「最寄り品」を中心に扱う商店街。最寄り品とは、消費者が特に値段や品質を気にせず日常的に購入する物品のことを言います。早い話が生鮮品や日用雑貨などの、生活に必要なありふれた商品を中心に扱う、すなわち皆さんが頭に描くであろう個人商店・コンビニ・スーパーマーケットなどで形成される商店街のことです。想定される消費者の移動手段は徒歩や自転車となります。

●地域型
 近隣型よりも商圏が広く、最寄り品に加えて買い回り品も扱う商店街を指します。買い回り品とは、消費者が値段や品質を熟考して購入する物品、例えば家電製品や家具などの高価な品物のことです。想定される消費者の移動手段は、徒歩や自転車に加えてバスやタクシーなども含まれます。

●広域型
 地域型よりも更に買い回り品の占める割合が増え、消費者がより遠方から鉄道などを乗り継いで訪れる街を指します。大型のデパートや量販店が内包されていることも条件にあるので、各地の政令指定都市や、東京23区の有名な街などがここに入ります。

●超広域型
 広域型の街の中でも、新宿・秋葉原・銀座のように、国内だけではなく海外からもお客さんが集まるような街を指します。交通手段ベースで考えるならば、飛行機が加わったと考えればいいでしょう。

 この区分けで考えた場合、私が述べている ”商店街” とは、近隣型ないしは地域型の商店街であることが分かるはずです。

より実用的な商店街の分類方法

 ただ、この分類をもってしてもまだまだ穴があり、商店街を説明するには不十分です。
 例えば、皆さんは谷中銀座や月島の商店街などと、巨大アーケードで有名な十条銀座を、同じ近隣型商店街であると考えられるでしょうか。私はどうにもモヤモヤします。

阿佐ヶ谷北口駅前のスターロード商店会(画像:写真AC)



 そこで以前、商店街の本「魚屋がない商店街は危ない」(MM新書)を執筆した際に、私独自の区分として、23区の主だった商店街を次のように分けました。この区分は「AであるならBではない」といったものではなく、あくまでも「どの要素がより強いか」という割合を指すものだという点にご注意ください。

1.生活型(十条・大山・千歳烏山・阿佐ヶ谷・笹塚・熊野前・雑色など多数)
 近隣住民の日々の買い物拠点である商店街で、原則として物価は低め安定。

2.観光型(浅草・アメ横・月島・谷中銀座・とげぬき地蔵商店街・下北沢など)
 街全体をひとつのテーマパークのようにして、観光客を呼び込んでいる商店街。生活型に比べると物価は高めで、商店街というより飲食店街であることが多い。

3.地域社会型(アモール東和など)
 買い物拠点というより、地域社会への貢献や助け合いを目的とした商店街。雇用や福祉など、おおよそ商店街の役割とは思えない部分に力を尽くしている。

 この区分けで各商店街を考えてみると、それぞれどのような用途に向いた街なのか、そして「生活拠点とするのに向いた商店街はどこか」がハッキリすると思います。私が言う「生活に向いた商店街」とは、ずばり「1」の商店街のことなのです。

 例えば、商店街と聞いてパっと頭に浮かぶであろう谷中銀座商店街は、観光仕様で雰囲気は突出して優れていますが、肝心の業種が偏っており、そこだけで生活用品や生鮮品が揃うような街ではありません。

 またアメ横は物価が高く、通行人の多さがトンデモなく、日常の買い物拠点に出来るような代物ではありませんし、第一、家賃相場がどうなのかという問題があります。巣鴨のとげぬき地蔵商店街も、個人商店や面白いお店は揃っているのですが、やはり観光地然としてしまっており、日常生活に向くかは微妙なところです。

 よって、住みやすさを求めて谷中銀座やアメ横の近くに引っ越すというのは、オススメできない選択だと言えるでしょう。

 それと本来であれば、生活型商店街の代表選手とされるであろう戸越銀座(with武蔵小山パルム)・砂町銀座などは、今や有名になり過ぎたのか、観光客が多く、飲食店の割合が高まっており、純然たる生活型とは言い難くなっているのが現状です。これらレアケースの商店街は、生活型と観光型のハイブリッドだと考えておくと良いと思います。

引っ越す前に必ず現地調査を

 だいぶ駆け足になってしまいますが、このような分類を元にして、お目当ての商店街に目星を付けたとしましょう。

歩いて往復するにはしんどい戸越銀座の長さ(画像:荒井禎雄)



 ですが、すぐにネットなどで物件を決めてしまうのは危険です。便利そうな商店街だと思っても、まずは現地を歩いて見て回りましょう。Googleのストリートビューなどではイマイチ把握し切れない落とし穴が隠れている場合があるのです。

・ガケや坂道などの高低差
・生活動線の距離
・騒音や臭い

 これは私が生まれ育った板橋区~北区にかけてや、品川~大田区辺りで見られる光景なのですが、生活動線上に坂なのか崖なのかといった地形が潜んでいる場合があります。また23区の東側には、隅田川や江戸川やその支流が入り組んでおり、川に架かった橋という地味に嫌な難所があります。

 ひとつ実例を挙げると、巨大さで都内No.1の呼び声高い戸越銀座は、谷間の1本筋に作られた商店街なので、周囲はどこも急坂になっています。戸越銀座やすぐ近くの武蔵小山パルムは非常に魅力のある商店街ですが、もし住むならばアシスト機能付きの自転車を用意すべきでしょう。

 加えて言うと、戸越銀座や十条銀座、板橋区大山の商店街などは、店が多いのはいいのですが、直線距離が1kmを超えてしまっており、歩いて往復するにはしんど過ぎる規模です。

 そのため、生活に必要な店が商店街の端と端にある場合など、自転車などの移動手段が必須となります。家族に高齢者がいるといった条件が付く場合は、その街で不便なく暮らせそうか、バリアフリー化されているかどうかを、よく確認すべきでしょう。

 直線でドーンと長い商店街は、たまに訪れるならば楽しい場所ですが、実際に暮らすとなったら各家庭ごとにさまざまな条件や優先順位があるはず。場合によっては、椎名町や南長崎のような個人商店とスーパーとでコンパクトにまとまっている商店街の方が、生活が楽なことも多いのです。

 こうした情報は足で稼ぐしかないので、もし許されるならば気長に23区内をお散歩しながら、本当に自分に合った街を、そして商店街を見付けて欲しいなと思います。

 部屋探しでそんな悠長なことは言っていられないという方も多いでしょうが、個人商店が多い街は画一化とは程遠い街並みで、独特の空気を醸し出していることがほとんど。それを含めてその街を愛せるように、ぜひ下調べにこそ時間を使っていただきたいのです。

 こうした情報を参考に、皆さんが自分の感性や生活スタイルにピッタリの街と出会えるよう、心からお祈り申し上げております。

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